福田正博 フットボール原論

■E-1選手権はJリーグ勢で臨むことになったサッカー日本代表。先月のW杯アジア最終予選でも新しいメンバーを起用した。

今後、来年のW杯本番に向けたメンバー争いはどうなるか。福田正博氏が解説する。

サッカー日本代表に長友佑都は不可欠と福田正博が考えるワケ 今...の画像はこちら >>

【E-1からのW杯行きは狭き門】

 7月7日から始まる、EAFF E-1サッカー選手権のメンバーが発表された。森保一監督は選手招集の方針を「これからJリーグを引っ張っていく選手を呼びたい」とコメントしていた。

 この大会の開催時期は、欧州のクラブに所属する日本代表の主力選手にとっては新シーズンに向けたキャンプ中で、所属クラブでのポジションをしっかり手にすることが重要なミッションになっている。シーズンを通じてレギュラーとして試合に出ることのほうが、結果的に日本代表の成長にもつながる考えもあるからだ。

 そのため、今大会は次代を担う若手選手たちの、成長を促す場として活用する狙いがある。

 メディアでは、このE-1選手権で活躍した選手を「来年のW杯に向けた日本代表の新星」として取り上げるかもしれない。ところが、ちょっと活躍したくらいでは、来年のW杯日本代表に名を連ねるのは難しいのが現実だ。

 2022年7月に行なわれた前回のE-1選手権のメンバーのうち、同年11月のカタールW杯の日本代表に選ばれたのは、谷口彰悟(当時川崎フロンターレ、現シント・トロイデン)、山根視来(当時川崎、現LAギャラクシー)、相馬勇紀(当時名古屋グランパス、現FC町田ゼルビア)、町野修斗(当時湘南ベルマーレ、現キール)の4人。今回のW杯アジア最終予選を戦った日本代表選手たちの顔ぶれは、カタールW杯時よりクオリティーもレベルも高まっているため、今回のE-1選手権からのW杯日本代表入りはさらに狭き門になるはずだ。

 それでも今回の招集が刺激になって、さらなる高みを目指して成長する選手が出てくるかもしれない。現状の日本代表がどれだけ強いといっても、まだまだ成長の余地は残されているし、そのためには新たな選手たちの突き上げは不可欠なものだ。

【爆発的な成長を見せる選手は出てくるか】

 このようにつねに新たな種を撒き続けることは森保監督にとって大切な仕事だが、先月のW杯アジア最終予選の最後の2試合でも同様に種を撒いている。それまで招集する機会がなかったり、少なかった選手たちを手元に置いて、つぶさに観察した。

 オーストラリア戦を0-1で落とし、インドネシア戦は6-0と大勝した6月のW杯アジア最終予選は、それまでと大きくメンバーの顔ぶれを変えた。

 佐野海舟(マインツ)、佐野航大(NEC)、関根大輝(スタッド・ランス)、森下龍矢(レギア・ワルシャワ)、三戸舜介(スパルタ)、鈴木唯人(来季フライブルク)、平河悠(ブリストル・シティ)などを招集。

 そして森保監督らしさが表われていたのが、Jリーグからピックアップした選手たちだ。鈴木淳之介(湘南ベルマーレ)、佐藤龍之介(ファジアーノ岡山)、熊坂光希(柏レイソル/怪我のため途中離脱)、細谷真大(柏)、俵積田晃太(FC東京)。

 私のようにJリーグ中継の解説をしていれば、彼らのことを把握しているのは当然だが、一般的には今回の日本代表招集によって初めて知ったという人も少なくなかったのではないだろうか。森保監督は海外組の動向を追いつつ、Jリーグでイキのいいプレーをする選手たちもしっかりチェックしている。

 そして試合では佐野航大が攻撃的なポジションであそこまでやれるとは思わなかったし、町野修斗がポストプレーでボールを収められたことには驚かされた。

 しかし、だからといって今後代表のメンバーに常時入るかと言えば、あくまでスタートラインに立ったにすぎない。なぜなら彼らは、W杯アジア最終予選に常時招集されたメンバーたちに追いつき追い越さなければ、その座を奪えないからだ。実際6月シリーズで「圧倒的な違い」を見せたのは、鎌田大地であり、久保建英だったのも事実だ。

 日本代表に招集された選手たちには、「どんな違いを見せられるのか」「何でチームに貢献できるのか」を見せてもらいたい。

撒かれた種が、ここからの1シーズンでどこまで大きく育つのか。爆発的な成長を見せる選手が、ひとり、ふたりと出てきた時に、日本代表は前回のカタールW杯以上の衝撃を世界に与えることにつながっていくはずだ。

【長友こそ日本代表に不可欠】

 もうひとつ日本代表で触れたい話題は、長友佑都についてだ。6月シリーズでも2試合とも出場機会のないまま終わり、存在意義を問う意見が増えているようだが、私は長友こそ日本代表に不可欠だと思っている。

 FC東京での出場機会が少ないことも懸念されているが、彼はそれで腐るようなタイプではない。チームは低迷しているが、いずれ訪れる自分の出番に備えて牙を研ぎ続けられる強さを持っている。これは日本代表での彼の姿勢にも通じるものだ。

 選手として試合に出る準備を、いつでも万全にやる。そのうえで練習から誰よりも声を出し、ほかの選手とコミュニケーションを取りながら新たに日本代表に加わった選手たちが溶け込みやすい空気感をつくる。

 自分のことだけではなく、まわりを巻き込んでいく。そうするのは、長友が誰よりも日本代表がどういう場所かを知っているからだ。プレーにだけ専念しても、それだけでは足りないのがW杯だと、経験を通じて学んだからこそだろう。

 W杯は1チーム26人。1試合で起用できる選手はスタメン11人+交代枠5人の16人だ。選手は誰もが試合に出たい思いを強く持っているが、なかには出られない選手も出てくる可能性がある。その時、そうした選手の振る舞いは重要になるのだが、これがなかなか難しい。代表選手というのは自チームでは主力でプレーしているため、慣れないベンチに置かれた時に、その不満が態度や表情に出てしまいがちだからだ。

 そうしたなか、長友はチームメートの気持ちに寄り添いながら、彼らを鼓舞し、チームで戦うとはどういうことかを示せる存在なのだ。そうした役割は、監督がいてコーチがいるから不要だという意見もあるかもしれない。ところが、同じ選手という立場で、選手により近い位置にその役割を果たせる存在がいるのは大きいのである。

 長友はピッチに立てば、前回のカタールW杯で見せたように相手の攻撃をきっちり封じ込める力がいまもある。ベンチにいれば誰よりも大きな声で味方にアドバイスを送る。練習では最年長であることを感じさせず、下働きも率先してやり、チームのために目を配っている。

 過去にW杯4度出場し、W杯がどんな舞台なのかを長友よりも知る選手はいない。

そして長友が現役選手でまだまだ走れるというのは、何より大事なこと。だからこそ、欧州5大リーグで躍動する日本代表の主力たちが彼の声に耳を傾けるのだろう。

 ここからの1年では、長友が5度目のW杯出場に向けて見せる挑戦にも注目している。まずはJリーグで残留争いに巻き込まれそうなチームで、足を動かし、汗をかいて、声を出しながら、「長友健在!」を見せてくれると期待している。

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