F1第12戦イギリスGPレビュー(前編)

「パワーを失った! 最終コーナーの出口でパワーがなかった! 0.1秒失った!」

 イギリスGP予選Q2最後のアタックを終えた瞬間、角田裕毅(レッドブル)は無線で叫んだ。

 Q3進出の10位までは0.115秒足りず、トラブルがなければQ3に行けたのではないかと訴えた。

「最終コーナーからの出口でパワーを失って、ふだんどおりのパワーがなかったんです。メインストレートからクリーンなラップだったのに、ターン3までで0.1秒失っていましたし、加速時のブーストが機能していなかったと思います。

 それ以外はクリーンな、いいアタックラップだった。Q3進出目前までいけただけに(トラブルがなければQ3進出も)可能だったと思います。すごく腹が立ちますね」

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 角田はパワーユニットの「Eブースト」と呼ばれるシステムが機能せず、加速時のパワーが失われていたのではないかと説明した。

 Eブーストというのは、ウェイストゲートから排気ガスを逃がしてエンジン排気圧を下げることで最大限に燃焼パワーを増大させ、排気ガスを減らしてターボチャージャーが回せなくなる分をMGU-H(※)のモーターを電気で回して補い、ターボ過給圧も落とさせない仕組みだ。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 だが、実際にはEブーストに問題は起きておらず、アタックラップに入る瞬間にERS(エネルギー回生システム)のアシスト120kW(約160馬力)が瞬間的に途切れたことが、角田に「パワーを失った」と感じさせた理由だった。

 ただ、それもトラブルではなく、アウトラップの走り方に起因する特殊な事象だった。ホンダの折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーは次のように説明する。

「機械的なトラブルや人為的なミスではなく、アウトラップの走り方によって特定の環境条件が重なってしまった結果、あるコントロールシステムがそういう設定に入ったということです。

最終コーナー出口で全開にしたところから300mほど、時間にして3秒程度でしょうか。

 立ち上がり部分では差がつきますが、後半になってくるとドラッグと拮抗して、どんどん同じような速度になっていきます。だから、タイムロスがあったのは確かですが0.1秒とまではいかないですし、そこだけでは(Q3進出までの0.115秒差を埋めるには)足りなかったと思います」

【RB21の空力が安定した】

 角田が言うように、ターン3から先も同じ症状が起きていれば、Q3進出を左右する問題になっただろう。だが、実際にはそうではなかった。

 それよりも大きかったのは、マックス・フェルスタッペンとは違い、新型のフロアが投入されていないということだった。

 フェルスタッペン車には前戦オーストリアGPのフロアエッジ改良に続き、イギリスGPでは前端のフロアフェンス、そこにつながるフロアボディ前端、さらにその後方のフロアエッジ前方が大きくモディファイされた。オーストリアのフロアエッジ改良は想定していた以上に大きな効果をもたらしており、RB21の不安定な空力特性を安定化させていた。

「(フェルスタッペン車とは)フロアの違いもありますし、今回のアップデートはけっこう大きく出ていると聞いているので、その差もQ3に行けたくらいの差はありました。ただ、今週末はここまでで一番クリーンな週末の流れでしたし、予選でのマシンのフィーリングもよかったです。進歩や自信のビルドアップという点にはとても満足しています」(角田)

◆つづく>>

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