早大のダブル大物ルーキー、5000m・鈴木琉胤&3000m障...の画像はこちら >>

後編:早大長距離勢、日本選手権でも躍動!

今シーズン、学生長距離界で前評判どおりの活躍を見せている早稲田大学は、7月4日から6日まで東京・国立競技場で行なわれた陸上日本選手権でも存在感を発揮した。主将&エースの山口智規(4年)が男子1500mで快進撃を見せた一方、大物ルーキーとして入学から期待に違わぬ活躍を見せる鈴木琉胤と佐々木哲のふたりも大舞台で躍動。

秋の駅伝シーズンに向け、この勢いと地力は本物だ。

前編〉〉〉早大エースの山口智規が1500mで勝負したワケ

【世界陸上出場を意識して臨んだ佐々木】

「こんなにでかいステージは初めてで、景色をぐるぐる見ながら走るのは楽しかったです。最後はめちゃくちゃきつかったんですけど」

 日本選手権男子5000mの予選後、早稲田大学の1年生、鈴木琉胤は、こんなことを口にしていた。初めての大舞台でも、臆するどころか、楽しむ余裕が彼にはあった。

 今季の大学長距離界で話題を集めているのが、早稲田大学のスーパールーキー、鈴木と佐々木哲だ。ふたりは、その呼び声に違わず、日本一を決める舞台でも躍動した。

 結果を先に言えば、3000m障害に出場した佐々木は、見事に3位に入り銅メダルを獲得。5000mに出場した鈴木は予選を突破。入賞にはあと一歩届かず10位に終わったものの、決勝でも存在感を示した。

 ともに1年生ながら、大学の枠に収まらない日本トップクラスの実力を示したと言っていい。

 大会初日、先に決勝レースに挑んだのが3000m障害の佐々木だ。

「東京世界陸上を狙って、2位以内ではなくて、優勝を目標にやってきました」

 すでに代表に内定している三浦龍司(SUBARU)は不出場。世界への扉を開くために、自身よりも世界ランキングで上位にいる新家裕太郎(愛三工業)、青木涼真(Honda)、小原響(GMOインターネットグループ)に勝利し、優勝することを目標に掲げていた。

 今季の佐々木はシニアの選手が相手でも積極的なレースを見せてきた。だが、この日は慎重にレースに入った。

「アジア選手権でははじめに少し前に出すぎて、最後は余力がなかったので、今回はほかの選手の力を借りて、ラスト1000mを過ぎてからポジションを上げていくレースをしようと思いました」

 初のシニア日本代表として挑んだ5月のアジア選手権(韓国)ではスタート直後から先頭を引っ張ったが、4位に終わりメダルを逃した悔しさを味わった。その時の反省を踏まえて、日本選手権に臨んでいた。

「1回1回のポイント練習で、この日本選手権を想定した練習をしてきた」と言い、勝利するイメージを築いてきた。

 しかし、レース中盤、そのプランを遂行している最中にミス。障害を飛び越える際に、抜き足を障害に当ててしまい、大きく順位を落とした。

 なんとか上位争いに戻ったものの、勝負所と踏んでいたラスト1000mを前に無駄な体力を使ってしまった。

 最後は優勝した青木、2位の新家に突き放され、3位でフィニッシュ。記録は8分30秒37のセカンドベストだった。

「最後の1周になった時に余力がなかった。地力の差が出て、お二方につくことができず、最後の勝負するべきところで勝負できなかった。

そこは自分の弱さだったかなと思います」

 佐々木は悔しさをにじませつつ、完敗を認めていた。

【鈴木が"使われても"前に出た理由】

 鈴木が出場した5000mは、今回はターゲットナンバー(出場選手の上限数)が設定されなかったため、85人もの選手が出場した。予選は3組行なわれ、そのうち決勝に進めるのは各組上位6人、計18人だけと、かなりの狭き門だった。

 鈴木が振り分けられた第3組には、優勝候補筆頭の森凪也(Honda)や鈴木と同郷・千葉県出身の篠原倖太朗(富士通)のほか、大学生ランナーが数多く名前を連ねた。

「またカンカレ(関東インカレ)をやらなきゃいけないのか、って思いました(笑)。カンカレで勝った人にも、ほかの大学の選手たちにも負けたくないっていう気持ちで走りました」

 鈴木は、その関東インカレ1部で日本人トップの2位になっている。その時は青学大の黒田朝日や折田壮太、創価大の小池莉希は2部校の選手のため直接対決はなかったが、大学生の誰にも負けるつもりはなかった。

「小池さんが出るかなと思っていたんですけど、誰も出なかった。『僕が(前を)引く展開か!』って思ったんですけど、誰が来ても前を譲らずに、(勝負所に備えて)脚が残っている状態でいたいなと思っていました」

 黒田や小池も序盤から積極的にレースを進めるフロントランナーだが、鈴木は上級生に先頭を譲ることなく、日本選手権でも序盤から先頭を走った。

「ラスト1000m手前ぐらいで、脚が動かなくなっちゃって......」

 最後はきつくなったが、組4着に踏みとどまり、学生トップで決勝に駒を進めた。

 そして、決勝でもその積極的な走りを見せた。

「使われましたね......」

 レース後、苦笑いを浮かべてミックスゾーンに現れた鈴木の第一声がこうだった。

「使われても(序盤で前に)出ておかないと。

追うスピードは絶対にないので」

 格上の選手たちが相手でも、鈴木は自分のレースを貫きスタート直後から先頭を走った。

 鈴木が先頭を明け渡したのは3400m過ぎ。創価大の小池が先頭を走っている間は粘ったが、3800mを過ぎて塩尻和也(富士通)が先頭に躍り出てペースが上がると、じわじわと順位を落としていった。

「電光掲示板を見ながら、後ろから来るかなと思って走っていました。小池さんが来た時は対応できたんですけどね。肺は結構余裕があったんですけど、脚が......。『動いて!』って思ったんですけど、スタミナが足りなかったです」

 鈴木は10位で日本選手権を終えた。

【ふたりがつかんだ悔しさと充実感】

 佐々木、鈴木ともに、上昇志向が強いだけに悔しさを口にしていた。ただ、その悔しさには充実感も伴っていた。

「自分の狙ったとおりのレースはできなかったんですけど、新家さんと青木さんといった日本を代表する選手の方と肩を並べて走ることができ、自分の中では8割、良いレースをすることができました」

 佐々木にとって、青木や新家と渡り合った経験は、自らを数段レベルアップさせたに違いない。東京世界選手権は少し遠ざかったが、高いレベルに身を置き得られたものは大きかった。

「世界の舞台に立つために自分自身との勝負を半年間やってきて、目標には及ばなかったんですけど、ここまで過程でいろんなものを得ることができました。

これからの大学生活や駅伝シーズンに向けて、人間としてひとつ成長できたかなと思います」

 佐々木が口にした、こんな言葉には実感がこもっていた。

「自分のレースをした上でこの順位なので、初めての日本選手権ですし、よいものがあったのかなって思います。経験として良かったと思います」

 鈴木もまた、走り終えて晴れやかな表情だった。

「言い訳じゃないんですけど、まだ1年生なので、これをステップとして、駅伝もあるのでスタミナがつくと思いますし、2年後、3年後に力を発揮できればなと思います」

 鈴木が言うように、彼らはまだ大学1年生なのだ。十代でこの舞台に立つこと自体、快挙と言っていい。そのうえで、堂々としたレースを繰り広げ、しっかりとインパクトある活躍を見せたのだから、やはり彼らは並のルーキーではなかった。

 この後は、佐々木、鈴木ともに7月下旬にドイツで開催されるワールドユニバーシティゲームズに出場する。

「やはり疲れが残っているなと(決勝で)感じたので、ユニバーまでに戻せればいいなと思います。でも、暑さもあるので、しっかりケアをして、焦らずに調整していきたいです。ユニバーは初の日本代表の試合なので、負けるわけにはいかない。しっかり結果を残していければなと思います」

 意外にも初の日本代表となる鈴木。出場する試合を絞って大舞台で活躍した高校3年時とは打って変わって、今季は大きな試合が続いているが、「目の前の大会にしっかり全力で臨みたい」と覚悟を決めている。

「ワールドユニバーシティゲームズをまずは狙っていきます。これからはチームとしても、駅伝を目指していくので、この日本選手権での悔しさを糧にまた頑張りたいと思います」と佐々木。

ワールドユニバーシティゲームズが終われば、夏合宿を経て、駅伝シーズンに向かっていく。前半戦の勢いそのままに、ふたりのスーパールーキーは駅伝でも活躍を見せてくれそうだ。

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