7月9日、千葉。バレーボールのネーションズリーグ2025第3週日本ラウンドの初戦で日本はフランスと戦い、セットカウント3-0(25-23、25-16、25-19)で圧勝している。

 攻撃の中心となったのは、新エースのひとりであるアウトサイドヒッター、佐藤淑乃だった。3本のサービスエースを含めて、両チーム通じて最多の19得点を記録。バックアタックは豪快だったし、サーブは効果率も高く、長身の相手ブロックに対しては間を打ち抜き、指の先に当ててブロックアウトにした。多彩な攻撃で、研究してきた相手にもつけ入らせなかった。

「(会場では)自分たちの応援がたくさんいる。"ウォー"ってなりました」

 佐藤はそう言って、日本凱旋を振り返っている。観客の興奮に感化される。それはポイントゲッターとしての資質だろう。大学ナンバー1の選手からのプロ1年目は、点取り屋としての技量を高めてきた。

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「SVリーグ後半にかけて、体の反応がよくなってきたと思います。(次のプレーを)イメージしやすくなってきて、スイングの速さはそうだし、ジャンプ最高到達点に達するのも早くなったかなって。今はいろんなことにトライして、楽しみながらバレーボールができています。
代表は半年間ですが、世界と戦う間、もっともっと成長したいですね」

 いま佐藤は、まさに変身を遂げつつある。

 今年1月、SVリーグで大阪マーヴェラスを下したあとだった。NECレッドロケッツ川崎の新エースであり、筑波大学卒のルーキーである佐藤は、古賀紗理那の背番号2の継承者に相応しいプレーを見せていた。

「リーグが始まって、最初はプレッシャーも感じていたんですが......」

 佐藤は、そう言って背番号2の重圧について洩らしていた。

「(FIVB女子)世界クラブ選手権(昨年12月開催)を終えてからは、自分のスパイクが決まったらチームの結果につながる、というのをあらためて実感できるようになりました。世界のトップ選手と対戦することによって、プレーもそうですけど、チームのなかでの立ち回り方を意識できるようになったと思います」

【フィニッシャーの気概】

 だが5月、SVリーグファイナルに勝ち進んでいたNECだが、マーヴェラスに完膚なきまでに叩かれ、初代女王の座を逃している。エース佐藤にとっては大きな失望だった。

「決勝の舞台を楽しみにしていました。気持ちは前向きで、強気だったと思いますが、プレーがついていかず......熱くなりすぎたかもしれません。ブロックは、自分の前にでかい選手2枚がくるのはわかっていて。自分の癖や強みを全員がわかっているなか、レギュラーシーズンでできるようになった"引き出し"を全部出したかったのですが......。自分のサーブでブレークを取れたらチームはよい流れになるのですが、相手も何が何でも1回で切ってきて......」

 試合後に会見上に現れた佐藤は、訥々と語って溢れ出る涙を拭った。

堪えようとしても堰き止められない。さまざまな感情が体内でのたうち回っていたのだろう。

 どんなボールゲームでも、得点を決めるプレーを託された選手は、感情を爆発させるパーソナリティに恵まれている。暴走することもあるだけに、それをコントロールする理性も必要なのだが、相手を屈服させ、状況を打開するには相応のエネルギーが欠かせない。

 佐藤はその点で生来的なフィニッシャーと言える。スパイク一本で息の根を止める。そこに100%、集中できる。それは気負いにもつながるが、気概の強さがなかったら、「世界」では通用しないのだ。

「今シーズンは常に自分の前に外国人選手を中心に高いブロッカーが待っているなか、その高さに負けず、ブロックを利用することを武器にすることはできたかなと思います。今後は、自分の武器をひとつからふたつへ、ふたつから三つへと、どんどん増やせるように。どんなところからでも点を取れることが必要になってくるかなと」

 SVリーグ元年、佐藤は最優秀新人賞を受賞し、ベスト6のアウトサイドヒッターにも選ばれている。総得点数は3位で上位6名では唯一の日本人だ。

 翌7月10日、韓国戦。石川を温存したチームで、佐藤は新エースの矜持(きょうじ)を見せている。

「(石川不在で)ディフェンスのところは、レセプションはいつもカバーしてもらっている側なんですが、今日は自分が広い範囲をカバーして、オフェンスもしっかりいこうと思っていました」

 佐藤は振り返ったが、攻守両面で抜群の出来を見せた。

「韓国はサーブのいいチームだったので、それで崩されなかったのは、自分としても、チームとしてもよかったのかなって思います。3セット目は、終盤は相手にリードされて少ししんどい展開でした。でも、"最後はハイセット(セッターの定位置から離れた場所からの高いトス)を決めきる"って待っていたので、決められてよかったです」

 韓国戦では3-0(25-21、27-25、25-22)とストレートの勝利を収め、彼女はエースらしさを見せた。得点決定率は21.28%でチーム1位。レセプションやディグの数値もチーム1、2を争い、正念場では数字以上に輝いていた。

 7月12日はポーランド、13日はブラジルと強豪との試合だ。

「ポーランドは高さがありますし、オフェンス力もあると思います。自分たちはやってきたことを出すのと、できていないこともトライしたいなって思います。ブラジルは選手ひとりひとりの特徴がだいぶ違ってくるので、そこに対応できるか、ですね」

 強者に追い込まれた時にこそ、新エースの真価が問われる。

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