6月から始まったバレーボールネーションズリーグ2025(以下VNL)で男子日本代表は、ロラン・ティリ新監督のもと、新しいバレーボールにチャレンジしている。予選ラウンド第2週を終えた段階で4位につける日本代表は、ファイナルラウンド進出をかけ、16日からの日本ラウンドで強豪を迎え撃つ。
そんな現在の日本代表メンバーを、元代表チームの主将でもある柳田将洋(東京グレートベアーズ)はどう見ているのか? 過去に日本代表や所属チームで、ともに戦ったことのある選手たち7人のプレースタイルからコート内外の素顔、そしてこれから期待をしていることを語ってくれた。
【2023年の代表活動で出会った選手たち】
■西山大翔(にしやま・ひろと)オポジット/大阪ブルテオン
2023年、中国で開催されたアジア競技大会に日本代表の一員として出場した際、一緒に代表のユニフォームを着て戦った選手のなかから西山大翔選手、高橋慶帆選手、山崎彰都選手の3名が今回のVNLにエントリーされ、すでに海外ラウンドに出場しています。
まず、オポジットの西山選手ですが、僕の目から見た彼の性格は"控えめ"という印象です。自分からグイグイ前に出てくる、アグレッシブな性格ではない気がします。明るい人柄なのですが、周りを見て空気を読んで、自分より周囲を優先して行動しているように僕の目には映りました。その謙虚さが「過ぎる」こともあるので、「もっと積極的に前に出ていきなよ」って思っていましたね。
2023年のアジア競技大会のシーズンは、同じポジションに高橋慶帆選手がいて、2名はほぼ均等に起用されていたのですが、あるとき西山選手が連続してミスを出してしまった試合がありました。おそらく慶帆選手とのポジション争いのなかで過度に「結果を出さなければ」と力が入ったせいもあったのではないでしょうか。「ミスすることに対してのプレッシャーを感じているのではないかな」と思った印象があります。
西山選手は極めてレベルの高い選手ですから、このVNLではミスを気にしないで、伸び伸びとプレーしてほしいと思っています。負けてはしまいましたが、ウクライナ戦での西山選手は、苦しい状況でコートに立ったときでも確実に得点を重ね、チームに勢いをつけていました。その気持ちのこもった表情は、アジア競技大会当時とは別人のようでした。飛躍的に成長していることが画面をとおして伝わってきてうれしかったですね。
そして今、オポジットは宮浦健人選手が大車輪の活躍をしています。それはとても日本チームにとって大事なことなのですが、ただ宮浦選手だけに頼るのではなく、西山選手にも活躍してもらって、日本チームの選手層の厚さを世界に見せてほしいなと思います。
■高橋慶帆(たかはし・けいはん)オポジット/法政大
バレーボールに打ち込む意識の高さ、うまくなりたいというハングリーさを感じる選手です。アジア競技大会のときに初めて話をして、同大会で銅メダルを獲得するまでともに戦ったのですが、アジア競技大会の前半は西山選手がメインで出場していたので、慶帆選手の良さをアピールするのが難しい状況でした。
ただ、大会後半から自分のサーブの打ち方をしっかりつかんだのか、徐々にスパイクにも変化が見られて、強打だけではない幅の広い打ち方を心がけているように見えました。そういう「何かにトライしてみよう」という精神をひしひしと感じる選手です。
性格はとても真面目。あれだけ端正な顔立ちをしていて実際、アジア競技大会の際には世間に注目されて騒がれましたが、それに対してまずは戸惑っていて、「どういう対応をすればいいのかわからない」と話していました。
その後も浮ついた様子はまったくなく、ふたりで食事に行ったことが何回かあるのですが、終始バレーボールの話と、海外でプレーするにはどうしたらいいのかという相談でした。先にある"なりたい自分の姿"を強くイメージしながら行動している人なのだと思います。僕自身も慶帆選手のそういった姿勢をリスペクトし、刺激を受けています。将来が楽しみな選手であることは間違いありません。
慶帆選手がインタビューなどで僕を「憧れの選手」と言ってくれているそうなのですが、実際に本人から直接言われたことがあり、その際には「僕で大丈夫そう?」と答えました。「もっと世界のトッププレイヤーとか、日本でももっと上の選手を目指せばいいのに」と思ってしまって......。うれしいのですが「僕で大丈夫なの?」と不安になりました(笑)。
■山崎彰都(やまざき・あきと)アウトサイドヒッター/ウルフドッグス名古屋
国内リーグで対戦していたときからずっと実力のある選手だと思っていました。恵まれた跳躍力から幅広いコースにスパイクを打てるのが彼の特徴です。
実際にたくさん話をして、彼の人間性を知ったのは2023年のアジア競技大会のシーズンですね。自分のペースをしっかりと保っていて、誰からもコントロールされない人。そこが山崎選手の良さだと思っています。山崎選手のマイペースさというのは、試合状況が悪いときでも淡々と自分のやるべき役割を果たしてくれる強さを併せ持っています。チームが劣勢になると、多くの選手がその雰囲気に引きずられがちなのですが、山崎選手が空気を一変してくれて、チームが救われたことがアジア競技大会中にたくさんありました。あるときは山崎選手がメディア用のカメラをコート内に持って入り、みんなの表情をとらえてくれたこともあります。
他の選手が苦しいときにも、彼は変わらずに行動してくれるので、その姿を見て「もっと楽しんでバレーをしていいんだよね」と平常心に引き戻してくれたことがたくさんありました。
【代表ほかSVリーグでも活躍に期待】
■村山豪(むらやま・ごう) ミドルブロッカー/東京グレートベアーズ
ジェイテクトSTINGSに在籍したときに一緒にプレーした選手です。年齢が離れているので、かわいい弟分という感じですね。試合中、予想外のブロード攻撃に入ったりと、プレーも創造的です。とにかく自由に、伸び伸びとプレーしてくれたらいいなぁと見守っています。
近年、ミドルブロッカーはただクイックを打ったりブロックをするだけではなく、自分の手の届く範囲のディフェンスもしっかりこなせる選手が必要とされていますが、村山選手はそれが実現できるひとりだと思っています。
性格はとにかく負けず嫌い。試合中、プレーに納得がいかなかったときや、試合で敗れたあと、悔しさを体で表現する姿をたくさん見てきました。SVリーグの優勝決定戦で敗れたあとは泣いていたそうですが、次のシーズンは東京グレートベアーズで一緒にプレーすることが決まっています。今度は一緒に笑って試合を終えてもらえるようにしたいですね。そして村山選手が素顔を見せられる、人間性が見えるようなチームになるといいなと思います。
■大宅真樹(おおや・まさき) セッター/日本製鉄堺ブレイザーズ
僕がサントリーサンバーズに所属していたときに一緒に戦ったセッターです。
僕がサントリーを離れてからは、じっくり話をする機会はないのですが、30歳というタイミングで代表に再び選ばれて、チームでの役割をどう果たそうとしているのか、とても興味深いです。プレーの特徴は真ん中(クイック&パイプ攻撃)をまずは考えて、その後、ワイドに展開する配球を重視しているセッターだと思っています。僕が同じチームでプレーしていたときも、打ちやすいセット、パイプの使いどころなどに彼が心がけるトスワークが表れていました。
性格はどちらかというと物静か。普段話すときは「声が小さいなぁ」とはいつも思っていました。コート内で大声を張り上げている姿とはギャップがある選手のひとりですね。僕は仲良くなるまでにさほど時間がかからなかったので、声が小さいだけで、おそらく人見知りというわけではないと思います。
【もっとプレーが見たい選手】
■小川智大(おがわ・ともひろ) リベロ/サントリーサンバーズ大阪
僕はそれほど多くの時間、小川選手と話したことがないんですよ。他の選手に比べたら、会話した回数は圧倒的に少ないと思います。
現在、日本のバレーボールでは当たり前のようにリベロがコート内で指示を出し、ディフェンスを指揮するのが当たり前になっています。小川選手もそういった統率力に優れたリベロのひとり。VNLでも見事にコート内をコントロールしていると感じます。リベロはボールがもっとも飛んでくる場所に身を置くべきだと思うのですが、実際行動に移すのは難しい。結果論になってしまうので、他の選手と守る位置をチェンジするのは勇気のいる選択なのですが、それを躊躇なくやってのけるのが小川選手のすばらしいところ。瞬時に判断して、守備位置を隣の選手とスイッチして、しかも結果に繋げられるのは小川選手の強みですね。
山本智大選手と小川選手はよくライバルだと言われますが、焦点を当てる側面を変えれば小川選手のほうが優れている部分もたくさんあります。同じ時代に生まれているお互いの不遇さも感じますし、リベロポジションをひとりしか選べないオリンピックのルールにも不満を言いたくなるくらいのもったいなさですよね。
■石川祐希(いしかわ・ゆうき) アウトサイドヒッター/ペルージャ
数えきれないほど彼については語らせてもらっていますが、現時点で見える石川選手の変化といえば、サーブ時にトスを上げる手が変わったこと。そしてサーブレシーブの方法が変わったことなどでしょうか。そこは見ている方たちに注目してほしい部分ではあります。
見どころは今年、選出された新しいメンバーとどんなケミストリーを起こしてくれるのか。石川選手とセッターの大宅選手のコンビネーションはどうか。以前もともにプレーしたことはありますが、セッターの永露元稀選手と何か新しい試みはあるのか。どういったバレーボールを繰り広げてくれるのかが楽しみですね。
石川選手はどちらかといえばオフェンシブな選手だと思っているので、これまでは対角に入るのは高橋藍選手のように守備が得意な選手が最良だと思ってきました。ただし、このVNLに限っては、石川選手のコンディションを考慮すると、石川選手が守備的な役割に徹し、対角に攻撃を得意とする選手が入るパターンもおもしろいかもしれません。
そう考えるとVNLに登録されているアウトサイドヒッターは富田将馬選手を筆頭に攻撃も守備も両方得意な選手が多いので、どんな組み合わせでもマッチすると思います。
ただ、仮に出場しないとしても、彼がチームに帯同し、他の選手と一緒に活動することに意義があると考えています。昨シーズンの経験を、代表経験の浅い選手に伝えてくれることはチームにとって大きいと思います。

柳田将洋(やなぎだ・まさひろ)/1992年7月6日生まれ。東京都出身。186㎝。アウトサイドヒッター。2023年から東京グレートベアーズ所属。東洋高から慶應義塾大に進学し、全日本メンバーには大学3年で初登録された。2015-16シーズンにはVプレミアリーグで全試合に出場し、最優秀新人賞を受賞。2017年のプロ転向後、ドイツ、ポーランドでもプレー。日本代表としては、2018年からキャプテンを務めるなど、中心的存在として牽引。直近では2023年の杭州アジア大会代表で、銅メダル獲得に貢献した。