7月16日、千葉。バレーボール男子ネーションズリーグ2025の日本ラウンドで、日本はドイツを3-1(21-25、25-20、25-23、25-20)と下している。
「勝ち点3を取れたのが大きいし、ファイナルにつながるいい勝利だったと思います。(久しぶりの代表で日本ラウンドの初戦で)少しは緊張もありましたが、ワクワクしていた部分のほうが大きかったですね」
勝利の立役者のひとりとなった髙橋藍は、淡々と語っている。"勝負の天才"と言えるほど、勝ち筋を見つける術に長けた男は、ドイツ戦であらためて存在感を示した。立ち上がりはチームに硬さが見えて1セット目を落とし、パリ五輪の二の舞になりかけていた。
「全体的に硬さもあったかもしれませんが、それよりもセッターとのコンビネーションのところですかね。コンビが合わなかったり、少し入りすぎてしまったり。それに(セッターに)いいパスが返っていなかった。そのせいで相手の勢いにのまれて、自分たちのミスで1セット目を取られてしまって。そこで精度が高い"日本バレー"を取り戻すことが大事でした」髙橋は言うが、まさに"日本バレー"への回帰で反撃の旗手になっていた。
ドイツ戦の髙橋はレセプション(サーブレシーブ)、ディグ(スパイクレシーブ)で傑出した数字を残している。レセプション成功数はチーム最多タイの4回、ディグの効果率は30%でチームNo.1と、リベロ顔負けだった。
「いい守りがいい攻めをつくる」
それは戦いにおける常道と言える。
日本はドイツの強烈なサーブをしのぐようになると、ラリーで力の差を見せつけ、得点を積み上げた。サーブの威力も増し、ブレイクに成功。宮浦健人、石川祐希が尻上がりに調子を上げている。
昨年行なったインタビューで、髙橋に「世界」との戦い方について質問を投げたことがあった。彼は論理的に答えていた。
「結局のところ、試合で自分たちのプレーができるか。相手は必ず対応してくるので、それに自分たちが上回れるか」
【ディフェンスの重要性を強調】
髙橋はそう言って、こう続けている。
「自分自身、世界のトップ選手と比べると身長がそこまで高くないので。レシーブのところでクオリティの高いバレーボールをしない限り、得点を取りにくい。セッターが上げやすい位置にレシーブをして、セッターがいい状態でトス、という常にいいバレーをしないと勝てないと思います。今の日本代表のレシーブ、ディフェンス力は世界のトップレベルだし、自分自身もなんでもできるタイプのプレーヤーだからこそ、このクオリティにこだわっていますね」
まずはしっかりと守れるか。
髙橋は空中で止まって、空いたコースを狙える。大きな体を自在に使いこなせるだけに、クロス、ストレート、プッシュ、フェイント、背面ショットまで使い分け、相手の読めないポイントを打ち抜ける。とりわけ飛翔するバックアタックは迫力満点で、相手にとっては怪鳥に頭上から襲われるような怖さだろう。
まさに攻守を司り、"二面八臂"といったところだ。
そして髙橋は勝敗の天秤を動かす瞬間、最大の輝きを見せる。ドイツ戦は結果的に逆転し、力の差を示したスコアになったが、実は3セット目は18-21と終盤まで3点リードを許し、どう転んでもおかしくなかった。そこで髙橋は叩きつけるようなパワースパイクを決めたあと、技巧的なブロックアウトの一撃も決めた。ブレイクに成功し、最後はもつれた末に、セットポイントのスパイクもアンダートスで決めきった。
「無理して打たない、打つときは打つって感じですね」
彼は軽やかに言うが、勝利を呼び込む星を持っているのだ。
そして7月17日、日本は同じくパリ五輪で対戦したアルゼンチンを3-2(23-25、23-25、25-21、25-23、15-13)とフルセットの末の逆転劇で下している。
「甲斐(優斗)が試合の流れを変えた? 確かにふたついいサーブがあったけど、自分たちはそれで負けたわけじゃない。日本のよさであるディフェンスとカウンターがわずかな差を分けた」
アルゼンチン代表で日本製鉄堺ブレイザーズに所属するアウトサイドヒッター、ルシアノ・パロンスキーは試合後にそう語っている。アルゼンチンのエースで、日本バレーも知る彼の言葉は説得力があった。
「(髙橋)藍は最初はそこまで目立たなかったけど、どんどんアジャストしてよくなってきたよね。何より彼はディフェンスがいいから。彼のレセプションがチームにバランスを与えていたね」
アルゼンチン戦も、髙橋はレセプション成功7回でチームトップ。ディグ成功も5回で、リベロの山本智大と並んでトップだった。パロンスキーの言葉通り、いい守りがいい攻めを作り出していた。
7月18日、ネーションズリーグ予選ラウンド4位の日本は、1位の強豪ブラジルと対戦する。ファイナルに向け、髙橋の勝負強さが起動するか。今後の試金石になる一戦だ。