宇野昌磨『IceBrave2』インタビュー後編(全3回)
7月18日、東京・日比谷。宇野昌磨は「LEXUS MEETS」のラウンジにあるソファに腰かけると、ゆっくりと膝に手を置いた。
アイスショー『Ice Brave2』の開催決定を受けての取材だった。"宇野節"は冴えたが、彼は現役時代から定型文のような受け答えをしていない。自分で考え、自分の言葉にして、人に伝えようとする。その姿勢は、プロのスケーターになった今、強力な武器になっている。
舞台では、何を届けられるか、その伝達力が問われるからだ。
「『Ice Brave』は休憩するところがないというか。どこも見どころがあって、すべてにたくさんの時間を割いてつくりました。出演者全員がメインで、引き立て役はひとりもいなくて、仲間と一緒につくったアンサンブルです」
宇野はそう語っていたが、プロデューサーとしてのプロフェッショナリズムがにじんでいた。
「競技者としての試合でも、表現者としての舞台でも、チケットを買ってもらってスケートを見てもらうわけですけど......それまでのプロセスが大事だと僕は思っていて。たとえば『練習でうまくできたとしても、試合でできなかったら意味がない』って意見もよく聞きますけど、僕はそう思わない。練習の過程って雰囲気ににじみ出ると思っているので。今回の『Ice Brave』でも、そこはチームとして大事にしたいです」
彼の生き方そのものが『Ice Brave』の成功につながり、「2」の開催につながったと言えるだろう。
【仲間たちの魅力を引き出す】
ーー『Ice Brave2』はとても楽しみですが、つくり手としては「1」と比べてハードルも高くなりますね。
宇野昌磨(以下同) 初回よりもインパクトを残すって難しいんですよね。ステファン(・ランビエール)も(競技コーチのため)いないですし......。でも、8人で練習時間を長く取ることができる。みんなが驚くだろうということを試行錯誤して練習したいと思っています。
ーー『Ice Brave』は、プロデューサーとして全員の力を引き出したことによる"勝利"だったのではないでしょうか。高橋大輔さんの『滑走屋』でも若いスケーターが刺激を受け、成長を見せましたが、宇野さんの滑りも格別。また、たとえば櫛田一樹さんは千秋楽でみんなにいじられ、よい雰囲気が伝わっていました。
くっしー(櫛田一樹)はいじらないと調子乗るんで(笑)。見かけはチャラそうですけど、真面目にちゃんとやってくれますし、いじられる立ち位置が一番、本領発揮できるので。千秋楽の途中のマイクパフォーマンスで泣いてしまった時は、僕たちも心の準備ができず、思いを共有できなかったですけど(笑)。
つねっち(唐川常人)はふだん、もの静かなんですけど、本番でマイクを持たせたら、何かをやってくれるところがあって。彼のスケートはもとから上手だと思っていて、一緒に練習すればするほど、うまくなる気がします。身長や体格も似ているし、滑り方も近く、今回もふたりのコラボで滑りました。偶然の重なりなんですけど、つねっちとならできるんじゃないかって。実際、一番手のかからないナンバーでした。

ーーかなりハイテンションなショーで、ノンストップという感じでした。一番、体力的にきつかったパートはどこでした?
ソロの『ブエノスアイレス午前零時』を演じたあとの『Narco』、あれはやばかったですね。『Narco』は男子3人とのコラボナンバーで、あらためて映像を見てわかったんですけど、僕だけ全力、130%でやっている! って(笑)。なんできついのかなって思っていましたが、ようやくわかりました。「みんな足りない、まだやれるだろ!」って感じです(笑)。
ーーフラメンコの衣装をまとった本田真凜さんが、かつて宇野さんが滑ったスパニッシュギター曲の『天国への階段』を艶っぽく滑る姿も印象的でした。フィギュアスケートはこうした美しさ、華やかさ、何より物語を伝えるのが本質なんじゃないかとも。
マジでわかります! (本田)真凜は僕にないものを持っているというか、流れている音楽を自分なりに表現することができるんですよ。真凜の演技は、曲本来の物語を自分が登場人物になって演技しているよう。時には、それほどストーリーがない曲であっても、そのストーリーを垣間見せるというか。そこは自分に足りなくて、会得しないといけないものかなって思います。やっぱり、ステファンとかはそこも最初からうまいのですが......。
【プロになってよかった...その理由とは】
ーー最後に、現役引退してたった1年で、ここまでプロとして活動している自分を俯瞰してどう思いますか?
不思議というか......なんですかね。「プロになって現役の時より練習するようになった」という話を聞いていたんですが、その意味がよくわかりました。今回、初めてプロデューサーという大役を任されたのはあると思いますが、言い回しとしてよく使われる「プロになってより自由になった」というのが、まさにそのとおりだなって。
競技は時に自分としてはあまりやりたくないけど、点数がもらえるから練習しないとなっていうところがあったんです。でもプロは、皆さんを楽しませることだけを、ひたすら磨き続けられる。
もっともっとうまくなりたいって現役の時にも思い描いていたことですが、うまくはなりたいけど、点数にはならないからとブレーキをかけていたところが解消されました。だから、引退してよかったなっていう言葉は変で違うんですけど、今はプロになれてよかったなって思います。

終わり
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【プロフィール】
宇野昌磨 うの・しょうま/プロフィギュアスケーター。1997年12月17日、愛知県生まれ。現役時代には全日本選手権優勝6度、世界選手権連覇、2018年平昌五輪銀メダル、2022年北京五輪銅メダルなど華々しい成績を残す。2024年に現役引退し、現在はアイスショー出演などプロスケーターとして活躍している。2025年6月~7月に自身が初めて企画プロデュースしたアイスショー『Ice Brave』を名古屋、新潟、福岡の3都市で開催。同年11月~2026年1月には『Ice Brave2』を京都、東京、山梨、島根、宮城で開催予定。