レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のジャパンツアー、久保建英は日本でチームに合流したばかりにもかかわらず、V・ファーレン長崎戦、横浜FC戦と、2試合とも出場している。
長崎戦の出場は26分間だったが、横浜FC戦は前半45分間もプレーした。
ただ、久保という存在があらゆる面で飛び抜けてしまっていることが、今回のツアーでも顕著になった。
ジャパンツアーは、まさに久保の名前を使って仕掛けたマーケティングと言える。ただ、こうしたツアーは興行としては魅力的だが、チームの強化に直結するわけではない。むしろ、シーズンに向けた準備を遅らせることになる。事実、ミケル・オヤルサバル、アレックス・レミーロ、ジョン・アランブルという主力選手は不参加だった。避暑地のキャンプでチーム作りを始めたほうがいいのはわかりきっている。
また、ジャパンツアーを主管した「ヤスダグループ」は、ヴィッセル神戸対バルセロナの親善試合開催において重大な契約違反があったことが伝えられる。それに対して、何の声明もない。一部関係者の説明が事実だとすれば、その行為は詐欺同然。
「(ヤスダグループの社長は)財閥の御曹司というが、この会社の実体は何なんだ? 大丈夫なのか?」
スペイン現地でラ・レアル関係者に密かに問われたことがあったが、明快に答えられなかった。「財閥」というのは「安田財閥」だとされているが、歴史上、日本の財閥は解体されているし、そもそもヤスダグループは何かを作り出してきた会社ではなく、有名チームの名前を使った留学ビジネス、ツアービジネスが主で、正体は見えなかったからだ(すでにラ・レアルの胸スポンサーも降り、今後は教育面での事業をサポートすることになっているというが、こんなトラブルを起こした会社に育成の資格はあるのか)。
【好選手が移籍し補強に失敗】
一方で、ピッチに立った久保は目立っていた。
久保が右サイドにいるだけでボールは回ったし、攻め込むこともできた。テンポを作り出し、チャンスも作った。しかしながら、不在の時間帯でチームは停滞していた。主力がいなかったのはあるにせよ、このジレンマは昨シーズンから感じさせたもので、このままでは新シーズンも変わらないだろう。
ラ・レアルは2~3年前と比べると、パワーダウンしている印象だ。
例年、補強はスロースターターなのだが、新シーズンに向けては守りの要だったナイエフ・アゲルドをレンタルバックで失い、絶対的なプレーメイカーのマルティン・スビメンディをアーセナルに、戦力になっていたMFジョン・オラサガスティもレバンテに放出した。損失は計り知れないが、新たな獲得はできていない。
実は過去2~3年の補強は大半が失敗に終わっている。
久保が才能を開花させたラ・レアルの1年目は、天才シルバを筆頭に、セルロート、メリーノ、ブライス・メンデスなど左利きの名手がいて、同じイメージを共有できた。それがスペクタクルなショーを生み出したのだった。しかし、今やチームに残っているメンバーはブライス・メンデスだけで、代わりに入った選手の質は下がっている。
特にFWはどうにかしないと、久保の渾身の崩しもゴールに結びつかない。
横浜FC戦でアイスランド代表オーリ・オスカールソンが2ゴールしたのは朗報だろう。しかし、オスカールソンはしばしば久保の絶好のスルーパスに反応できなかったり、うまくシュートが当たらなかったり、雰囲気はあるセンターフォワードなのだが、不安要素は消えない。長身だけに、横浜FCのディフェンダー相手だったら、クロスをファーで叩き込むパワーを見せられるのだが......。
久保は再び孤軍奮闘を迫られるかもしれない。
ひとつの変化として期待したいのは、セルヒオ・フランシスコ監督が4-2-3-1、4-3-3だけでなく、4-4-2の中盤ダイヤモンド型も視野に入れている点だろう。
久保をトップ下で用い、オヤルサバル、オスカールソン(もしくはアルカイツ・マリエスクレーナ)を操るような起用法が確立できたら、新境地を見せられるかもしれない。それは1年目、シルバがやっていたポジションで、攻撃的なスタイルと言える。ジャパンツアーでは運用に失敗していたが、まだ久保をそのフォーメーションでは試していない。
日本では、久保のビッグクラブ移籍を待望する声が今も聞こえる。ただ、8月まで数日となった今、確定的なオファーがない以上、ラ・レアルで腰を据えるべきだろう。6000万ユーロ(約100億円)という移籍金は安くはない。
久保を中心にしたラ・レアルが新シーズン、どんな戦いを見せるか。ジャパンツアーで、新たな冒険がスタートした。