ホットスタッフフィールド広島を舞台に行なわれているインターハイ(全国高校総体)陸上競技。大会3日目(7月26日)の男子100mで、清水空跳(そらと/石川・星稜2年)が衝撃の10秒00をマーク。
一躍その名を全国、そして世界に轟かせた2009年2月生まれの清水空跳とは−−。
【成長株の勢いはさらに加速して】
U18世界記録保持者となった清水空跳が東京世界陸上の参加標準記録(10秒00)をクリア。日本代表への可能性も出てきた。
12年前の4月に17歳の少年が「10.01」を刻んだスタジアム。2025年の夏、16歳のサラブレッドは空を駆けたのか──。それくらいインターハイ男子100m決勝の清水は速かった。
2年前の全中で200m王者となった清水は、昨年7月にサニブラウン・アブデル・ハキーム(現・東レ)が持っていた男子100mの高校1年最高記録(10秒45)を10秒26(風速+1.9 *以下同)に更新し、夏のインターハイは1年生ながら2位に食い込んでいる。
今季は4月のU18アジア選手権を10秒38(+2.3/追い風参考)で制すと、5月の石川県大会で高校歴代4位の10秒20(+1.4)をマーク。7月上旬の日本選手権は0.01秒差で決勝進出を逃したが、予選でU18日本記録タイとなる10秒19(+0.8)を叩き出している。
今年のインターハイは「暑さ対策」のために急遽、3ラウンド制(予選・準決勝・決勝)から2ラウンド制(予選・決勝)に変更となったが、例年と異なる競技方式が好記録を生むことになる。
決勝は複数組に分かれてレースを行ない、そのタイムの比較で順位を決めるタイムレース形式。1組で菅野翔唯(群馬・東農大二2年)が追い風参考ながら10秒06(+2.4)をマーク。
「当初は自己ベスト(10秒19)の更新が目標でしたが、菅野君に『負けたくない』という気持ちが一番でした。かと言って力んだりするのはよくないので、『自分のレースを絶対に作ろう』『9秒台を出すんだ』という気持ちで決勝に臨みました」
清水は3組で最速となる0.135秒のリアクションタイムで飛び出すと、「40mまでは完璧でした」と得意な二次加速で後続を引き離していく。そして圧巻のスピードで100mを駆け抜けた。
「しっかり乗り込んで、力強く(身体の)中心部分を使って走れました。終盤はちょっと脚が流れる感じがあったんですけど、うまくまとめられたかなと思います」
電光掲示板に表示された速報タイムは「10.00」。清水は両手を突き上げて喜びを爆発させた。
「本当にうれしかったですね。まずはインハイに勝つのが目標だったので、仮に公認でなくても10秒06以上のタイムを出せてよかったです」
【16歳、高校2年生が出した10秒00の価値】
清水は"2年生V"を素直に喜んだが、この快挙にはいくつもの"記録"の肩書きが付随した。
正式タイムは10秒00(+1.7)。大会記録(10秒11)を楽々と上回ると、今年のインターハイと同じスタジアムで行なわれた2013年の織田記念で桐生祥秀(現・日本生命)が打ち立てた高校記録(10秒01)を12年ぶりに塗り替えた。さらに日本歴代5位タイで、シニアを含めた今季日本ランキングでトップとなる。
また、クリスチャン・ミラー(米国)とプリポル・ブーンソン(タイ)が2023年に樹立したU18世界記録(10秒06)を0.06秒も更新した。
とにかく驚きが詰まったタイムとなったのだ。
「3年生で高校記録を塗り替えて、9秒台を出すのが自分のビジョンでした。10秒00というタイムを出せて、あと数㎝のところまで(9秒台に)迫っているんだなという実感が湧いてきましたね。今の僕に9秒台はまだ早い。来季は『いつでも(9秒台を)出せるぞ』という感じでいきたいです」
清水の公式記録は「10.00」だが、1000分の1まで計測したタイムは「9.995」だった。小数点3位以下は切り上げとなるため、清水は9秒台まであと0.005秒。距離にして5cm届かなかった計算になる。
「本当に高校記録が出てめちゃくちうれしいです」と笑顔を見せた清水。9月に開催される東京世界陸上の参加標準記録(10秒00)にピタリと到達したことを尋ねると、「今、実感しました。出られるなら、その景色を味わいたいですね」と目を輝かせた。
では、東京世界陸上の日本代表をつかむ可能性はどれぐらいあるのか。
男子100mの日本代表は最大3枠。
U18世界記録保持者として東京世界陸上に出場すれば、清水は世界から注目を浴びる存在になるだろう。
【陸上一家で育ったスプリンターの歩み】
16歳の彼は、ここまでどのように成長してきたのか。
走高跳の国体入賞者である父から「自分の脚で空を跳ぶ」という意味合いで空跳(そらと)と名付けられた清水。母は100mハードルの元国体選手で、姉は大学時代に400mハードルで日本インカレに出場している。そんな陸上一家で育った清水は小学4年生から地元のクラブチームで競技を始めた。
「中学1年からスプリントをやっていますが、父親からは、『跳躍種目をやってほしい』と言われていました。昨年、走幅跳に出たんですけど、難しいですね。自分は100mと200mで勝負していきたいです」
身長が180cm近くある父親に対して、清水は164cm。
昨季は下半身に頼るような走りだったこともあり、両ハムストリング(太もも裏の筋肉)の肉離れを1回ずつ経験した。そのため今季は「肋骨や肩甲骨の動きを出せるように」とドリルなどで上半身の動きを意識。その結果、「ケガのリスクが減った」だけでなく、上半身と下半身がうまく連動するようになり、滑らかでダイナミックな走りにつながった。
なお今回のインターハイは100mだけでなく、200mでも優勝候補に挙がる。
「100mでタイムを出すことができたので、200mは高校新とは言いませんけど、大会記録は更新したいなと思っています」
男子200mの予選は7月28日(月)の10時35分、決勝は同日の15時50分に行なわれる。大会記録は20秒61(若菜敬/栃木・佐野)、U18日本記録と高校記録は20秒34(サニブラウン)。20秒79の自己ベストを持つ清水空跳はどこまでタイムを伸ばすのか。
100m"9秒台"の前に、まずは200mの走りに注目したい。