猛暑が続く日本の夏にスポーツの大会は避けるべきとの声は、年々大きくなってきている。高校サッカーのインターハイも、大会廃止を含めて大会の在り方に関する議論が行なわれているという。

一方で全国大会が選手に与える影響に大きな意義を感じる関係者も多く、現場は揺れている。大会を取材したライターが現状をレポートする。

【猛暑により大会廃止の議論】

 今年も連日猛暑が続き、日本の内陸部では40度に迫る危険な暑さを記録する日も多い。熱中症だけでなく、命に係わる危険性まである暑さはスポーツにも影響を与え、7月25日から29日に広島県で行なわれたインターハイの陸上競技は大会直前に大幅な日程変更を実施。各種目で予選後に行なう予定だった準決勝を取りやめ、タイム決勝を行なうなど大会を簡素化し、気温が高い正午から15時には競技を行なわないスケジュールを組んだ。

真夏の高校サッカーインターハイに大会廃止の動き 猛暑に揺れる...の画像はこちら >>
 サッカー界でも暑熱対策を進めている。熱中症のリスクを避けるため、今年度からは日本サッカー協会は原則として7月と8月には公式戦を行なわない方針を定めた。学生が夏休み期間に行なう全国大会に関しては、暑熱対策を行なった上での開催となり、例年夏に行なっている日本クラブユースサッカー連盟主催の「日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会」は、全試合暑さが和らぐ18時以降に移行。U-15年代の大会は2011年以降、北海道での開催を続けている。

 高体連が主催するインターハイのサッカー競技はこれまで他種目と同じく各都道府県が持ち回りで開催するブロック開催制を敷いていたが、猛暑下でのプレーを回避するため、昨年度からはJヴィレッジを中心とした福島県での固定開催へと移行した。

 Jヴィレッジが位置するのは、福島県の太平洋側の浜通りと呼ばれるエリアで、海風が吹くため夏場でも比較的涼しい。暑さが本格化する時間帯を少しでも避けるため、キックオフが9時半と12時半に設定されたのもあり、今年は暑くても身の危険を感じるということはなかった。

 ただ、福島県での開催を続けても今年のような気候が今後も続くとは限らない。

ナイター開催を行なおうとしても、夏場は雷が多くて中断・延期が起きやすいため予定どおり日程を消化するのが難しい。開催時期をずらそうにも学生の長期休みである冬休みには高校サッカー選手権があり、春休みは新チーム発足から間もないため現実的ではない。現在は大会廃止を含めて、大会の在り方に関する議論が行なわれているという。

 何かが起きてからでは遅い。7、8月の公式戦開催を避ける日本サッカー協会の方針もあり、議論はあってしかるべきだろう。猛暑環境下ではベストなパフォーマンスも発揮できず、選手育成の観点からも外れる。再度の見直しは必要だ。

【トップレベルの基準を感じられる舞台】

 一方で、今年のインターハイは全国大会が持つ意義をあらためて感じる大会となった。

 代表的な例が4年ぶり4回目の出場を果たした高知中央高校だ。初戦となった2回戦で対戦したのは前年度の高校サッカー選手権王者である前橋育英高校。日本一を経験した選手が数多く残り、今大会の優勝候補に挙げられていた好チームだ。「正直、二桁失点を覚悟していた」と笑うのは近藤健一朗監督で、実際、前半終了間際に先制点を許した。

 しかし、後半は粘り強い守備で2失点目を回避。

すると、試合終了間際の連続ゴールで逆転勝利をおさめた。

 続く3回戦は大津高校に0-7と大敗し、快進撃は続かなかったが、全国でもトップクラスの2チームと対戦した経験は大きい。「全国の基準を学べた。いつも我々が『この基準ではいけない』と言っていても伝わらない部分を、選手は実際に見て感じることができた。ここから冬の選手権に向けて、どれだけ追いつけるか」(近藤監督)。

 高校サッカーの場合、年間を通して戦うリーグ戦のカテゴリーが違う県外チームと対戦する機会は夏のインターハイと冬の選手権しかない。高知県1部のリーグに所属する高知中央とU-18年代最高峰のプレミアリーグに所属する前橋育英や大津とは、全国大会でしか戦う機会はないわけだ。

 強豪校に練習試合を申し込んでも基本的にはリーグで同カテゴリーのチームが当てられるため、トップチームが出てくる機会は少ない。昨年、高知中央が前橋育英と練習試合を行なった際も、県リーグを戦う下のカテゴリーのメンバーが相手だったという。

「前橋育英と大津に共通しているのは、ボールを失わないうまさ。特に大津さんはボールを出したあとにみんなが止まっていない。みんなが動いているから、捕まえることができない。

鬼ごっこみたいだった。1日や2日で埋められる差ではない」(近藤監督)

 しかし、全国トップクラスの基準を感じた選手たちの成長は加速していくだろう。

【お金には換えられない成長のきっかけ】

「地元開催なので、初戦は何百人もの人が応援に来てくれた。そうした雰囲気のなかでやるのもサッカーの魅力。練習試合とは緊張感がまったく違って、背負うものもある。こういう舞台があればうまくなれるし、サッカー選手としても逞しくなれる」

 そう話すのは福島県第2代表として大会に挑んだ、学法石川高校の稲田正信監督だ。

 2020年度に選手権の出場が1度あるが、インターハイの全国大会は今回初出場だった学法石川。初戦となった2回戦で桐蔭学園高校に勝利したものの、続く3回戦の流通経済大柏高校戦は0-5で大敗。課題と収穫を手にしたことで、これまで第三者として感じていた全国大会の価値を、身を持って知ったという。

「我々にとってはいつも行ける大会ではない。これまでは夏休みに練習をして、フェスティバルに参加して強くなっていると感じていても、全国に行っていたチームは勝っても負けても秋以降の成長度合いが違う。高校生が全国大会を経験するというのは変わるきっかけになる。

この経験が秋以降のプリンスリーグや選手権に生きて『インターハイがあったから、今があるよな』と思える。なくなると絶対に寂しい」(稲田監督)

 練習試合では味わえない真剣勝負によるプレー面での成長は全国大会ならではと言えるが、選手に与える影響はそれだけに留まらない。

 学法石川は今回、全国大会常連である米子北高校と同じ宿舎になったが、稲田監督が刺激を受けたのはピッチ外での振る舞いだったという。「米子北さんが空き時間にストレッチをしていたり、夕方から練習に行く姿を見ていた。それに食べる量もウチより多いし、挨拶もきちんとしている。そうしたことを学べるのはお金に換えられない」。

 稲田監督はこんな言葉も続ける。「僕ら高校サッカーの人間からすれば夏と冬にある2回の全国大会には夢がある。県リーグやプリンスリーグのチームでもプレミアリーグのチームとやれるチャンスがあるのは大きい。それにワールドカップもリーグ戦をやってからトーナメントなので、リーグ戦だけでなくノックアウト方式の試合も大事」。

 育成年代にリーグ戦文化が定着し、年間を通して公式戦が行なわれているサッカーは、もし全国大会が減ったとしても比較的影響が少ないのかもしれない。一方で、負ければ終わりのトーナメント方式が持つメリットも必ずある。

 今後、サッカーに限らず各競技で夏場の大会についての議論が進められるのは間違いないが、インターハイ及び全国大会の持つ意味と価値も、あらためて考えなければいけない。

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