2022シーズン、2023シーズンと2年連続で日本女子ツアーの女王に輝き、今季から米女子ツアー参戦を果たした山下美夢有がAIG女子オープン(全英女子/7月31日~8月3日)で優勝。女子では日本勢6人目の海外メジャー制覇という快挙を成し遂げた。
2日目に「65」という好スコアを出して首位に立つと、以降トップの座をキープ。最終的に、2位に2打差をつけての圧巻の勝利を飾った。今回、そんな山下の奮闘ぶり、栄冠を手にしたポイントなどについて、かつて日本女子ツアーで活躍し、ツアー引退後は海外メジャーにおけるテレビ中継のラウンドリポーターを長年務めてきた村口史子プロに分析してもらった――。
――山下美夢有選手が2019年の渋野日向子選手以来、日本勢として2人目のAIG女子オープン(全英女子)制覇を飾りました。率直な感想を聞かせてください。村口史子(以下、村口)あのコース、あの風のなかで、「すごいな」と。そのひと言に尽きますね。
――今回の会場はウエールズのロイヤルポースコール。全英女子らしい、リンクスコースでの戦いでした。画面を通して見ても、非常に難しいコースに感じられました。
村口 随所にポットバンカーが配置され、ブッシュと言われるラフも深く、グリーンのアンジュレーション(うねり)もあって、さらに海からの風も強く、かなりの難コースだったと思います。おそらくグリーンの状態も自然に近いというか、実際にその場に行ってみたら、日本のコースやアメリカの整備されたコースとはまったく違うことがよくわかって、イレギュラーが十分に起こり得る、とても難しいグリーンだったのではないでしょうか。
――そうした難コースにあって、山下選手は初日「68」、2日目「65」をマークして、通算11アンダーでトップに立ちました。
村口 山下選手は、とにかくボールが曲がらないショットメーカー。海外の選手に比べたら飛距離が出るほうではありませんが、そういうなかでも互角に戦えるのは、狙った場所に的確に打てるショット力があるから。そして、日本で戦っている頃から持ち合わせている強気なパッティング。そうした彼女のよさが、あのコースで存分に発揮されていたように思います。
――3日目は「74」と初のオーバーパー。トップの座はキープしましたが、スコアをふたつ落としました。
村口 強い風の影響もあったと思いますが、「(スイングの)軸がブレている」といった本人の談話が出ていました。練習をしていてもその原因がよくわからなかったようですが、そのあとにハッと気づいたことがあったといいます。最終日を前にして、それに気づけたことがすごいな、と。(優勝に向けて)意義深いものだったのではないでしょうか。
――迎えた最終日、2位とは1打差という状況にあって、緊張感も半端なかったと思います。
村口 ティーショットはフェアウェーをキープしましたが、2打目をグリーン左に外してしまいました。しかし、難しいアプローチをうまく寄せて、見事なパーセーブ。パーパットは1mか、それ以上あったでしょうか。あれは、すごく緊張するパットだったと思うんですよ。(大会の)勝敗を左右するような感じで。それを、彼女らしい強気なパットで決めたじゃないですか。あそこは、すごかったですね。
――その後、4番(パー4)でバーディー。8番(パー3)、9番(パー5)と連続バーディー。前半を終えて、後続に3打差をつけての折り返しとなりました。
村口 バーディーが先行したのはよかったと思いますし、あれだけ風が吹いているなかでショートホールでのティーショットの距離感もよく、すばらしいプレーを見せていたと思います。
――最終的に後半も大崩れすることなく、通算11アンダー、2位に2打差をつけての見事な勝利を飾りました。
村口(ラウンドしている)表情を見ていても「やるべきことをやるんだ」という雰囲気が伝わってきていましたよね。ドライバーのティーショットなどは、練習場の映像から見ていて「ティーが高いな」と思っていたのですが、本番でもその高さのまま、アゲインストでもフォローでも関係なく打っていて。そのあたりは「いつもと変えずにやるんだな」「小細工せずにプレーするんだな」と思って見ていて、それでしっかりと結果を出しました。そういう意味では、本当に彼女のよさがすごく出たというか、出しきっての優勝だったと思います。
――あらためて、山下選手の優勝の要因、ポイントはどこにあったと思いますか。
村口 思いがけないことが起こり得るリンクスコースにおいて、きちんとマネジメントできていた点は大きいと思いますが、やはりあの風のなかで、あれだけ正確なショットを打てたこと。そして、あの強気なパッティング。そのふたつが、勝因であることは間違いありません。
また、それらが実現できたのは、自分の気持ちをコントールできたからこそ、というのもありますよね。
山下選手は、コーチであるお父さんと日々ミーティングを繰り返しているじゃないですか。そういった常日頃から行なってきたことの成果も出ていたと思います。そして、これまでに培われた"自分を信じる力"というものが、この大舞台でしっかり発揮されて、それが結果に出たんだろうなと感じました。
――今後、山下選手のさらなる飛躍が期待されます。
村口 あのタフなコンディションで自らが勝ったことは、かなり自信になったと思います。となれば当然、今後の活躍も期待できます。
ただ、ひとつ気になったことがあるんですよね。余談になってしまいますが、それは優勝を決めたあと、「ここまで長かった」とコメントしていたこと。それは、いつからなのかな、と。
(つづく)◆海外メジャーの2大会を制覇 世界で躍動する日本勢がここまで強くなったわけ>>