ヨーロッパ各国でプレーする日本人選手は100人を超える勢い。そのなかで、今季もっともジャンプアップが期待されるのは誰か。
日本代表の守備力を底上げする可能性のある逸材
高井幸大(トッテナム)&喜多壱也(レアル・ソシエダ)
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
今や日本サッカーにおいて、欧州組は珍しくなくなっている。ワールドカップに向けた日本代表も、100%欧州組でおかしくない。20年前までは代表の大半が国内組、10年前までは欧州組と国内組の割合はほぼ半々だったことを考えれば、確実な変化だ(2006年ドイツワールドカップの23人の代表メンバーは欧州組が6人、国内組が17人。2014年ブラジルワールドカップでは欧州組が12人、国内組が11人だった)。
なかでも欧州組のセンターバック(CB)は日本サッカーの強化にひと役買ってきた。その筆頭が、吉田麻也(ロサンゼルス・ギャラクシー)と言えるだろう。彼の欧州挑戦のあとは冨安健洋(元アーセナル)、板倉滉(アヤックス)、町田浩樹(ホッフェンハイム)、瀬古歩夢(ル・アーヴル)、渡辺剛(フェイエノールト)などのCBが続々と欧州で足跡を記している。これまでサイズや体格で難があるように思われたが、彼らは欧州の戦いに適応することで、たくましく成長を示した。
たとえば渡辺はFC東京からベルギーでも下位のコルトレイクに新天地を求めると、2年目で際立った活躍を見せ、上位のヘントに移籍している。ヘントでも定位置をつかみ取り、2シーズンに渡ってプレー。
吉田以来、多くのCBが実直なプレーで"出世"を続け、日本人ディフェンダーの価値を高めてきた。
川崎フロンターレからプレミアリーグ、トッテナムに移籍した20歳のCB高井幸大は、まさに系譜を継ぐ選手と言えるだろう。高井はJリーグで実績を積み、すでに日本代表にも選ばれている。身長192cmで、少なくともJリーグでは高さが武器になっていたし、猛者が集うプレミアリーグでも弱点にはならないだろう。何より、そのキックの精度は群を抜いている。世界では、同年代のパウ・クバルシ(バルセロナ)、ディーン・ハイセン(レアル・マドリード)、ルーカス・ベラウド(パリ・サンジェルマン)などはビルドアップが巧みで、「後方の司令塔」と言われるCBだが、彼もその系統のひとりだ。
シーズン開幕はケガ(足底腱膜炎)もあって出遅れるかもしれない。あらためて強靭な肉体を作るところから始めることになりそうだが、試合出場を重ねられることができたら、来年の北中米ワールドカップでは日本代表の主軸になるだろう。日本サッカー史上、唯一無二のCBになれる逸材であることは間違いない。
もうひとり注目したいのは、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のBチームであるサンセに新たに期限付き移籍で入団することになったCB喜多壱也(きた・かずなり)だ。
喜多は京都サンガF. C. の下部組織育ちの19歳。
なぜ、レアル・ソシエダが喜多に興味を持ったのか。それは今や欧州の多くのクラブが日本人選手をスカウティング網に入れているからだろう。U-20アジアカップで、喜多がU-20ワールドカップ出場権獲得に貢献したことも大きい。
〈身長188cm、左利きで長いボールを蹴れる〉
それだけで強力なセールスポイントと言える。なぜなら、世界的に長身で左利きのCBは貴重で、ラ・レアルも獲得で優先しているポイントになっているからだ。右利きで左CBをできる選手はいるが、やはり左CBには左利きを置くのが定石だ。
喜多はロングボールを弾き返せるだけの高さと、対角に蹴り込む左足のロングキックや縦に速いボールをつけられる。率直に言ってまだ線が細く、消耗戦では苦しむだろうし、高い強度で技術を出せるかは、今後の課題になるだろう。しかしサンセはスペイン2部で戦う。それはベルギーやオランダの1部にも匹敵し、もしシーズン終盤にでも定位置をつかめたら、将来の大きな布石になるはずだ。
ただ、高井にしろ、喜多にしろ、修羅場をかいくぐってこそ、栄光をつかむことができる。CBというポジションは、失敗を糧にできるキャラクターが求められる。
まずはゴールを守るディフェンスとして番人になれるか。しっかりと相手を跳ね返したあとに攻撃の一手を指す。そこまで到達できたら、ふたりの若いCBは日本サッカーを高みに押し上げているはずだ。
新天地フランスでは早くも複数ポジションでプレー
瀬古歩夢(ル・アーヴル)
中山淳●文 text by Nakayama Atsushi
2022年1月にセレッソ大阪からスイスのグラスホッパーに移籍した瀬古歩夢が、今夏、リーグ・アンのル・アーヴルに加入した。グラスホッパーとの契約が満了となったため、今回はフリー移籍となったが、日本代表定着を狙う瀬古にとっては5大リーグへのステップアップを実現した格好だ。
ル・アーヴルは、昨シーズンの最終節で試合終了間際の劇的な逆転勝利によって残留に滑り込んだ地方のスモールクラブ。歴史と伝統のある古豪クラブのひとつでもある。今夏にアメリカ資本に変わったばかりだが、今シーズンも補強資金は乏しく、主力は若手中心の構成。現在25歳の瀬古は、即戦力としての期待がかかっている状況だ。
瀬古の主戦場はセンターバック(CB)だが、主力としてプレーし続けたグラスホッパーではボランチを務めた試合も多く、キャラクター的には板倉滉(アヤックス)に共通する点もある。
実際、新天地のル・アーヴルでも、プレシーズンマッチではボランチを任されるところからスタートし、8月8日に行なわれたデポルティーボ・ラ・コルーニャとのプレシーズンマッチでは4-3-3の右CBとして先発出場。DFラインの要でもある左CBガウティエ・ロリス(元フランス代表のGKウーゴ・ロリスの弟)とコンビを組んで及第点のパフォーマンスを披露すると、後半65分からベンチに下がる82分まではボランチにポジションを移し、チームのスタイルに合わせて流動的にポジションを変えながらプレーした。
指揮を執るディディエ・ディガールは就任2年目を迎える39歳の青年監督で、極めて現代的なサッカーを標榜する。複数のフォーメーションを使いながら、後方からしっかりボールをつないで前進するスタイルを好むだけに、左右両足からの配給力の高さを武器とする瀬古にとっては、フィットしやすいサッカーと言えるだろう。
もちろん、フランスにはフィジカル能力が高いアタッカーが多いので、瀬古にとっての最初のハードルは、できるだけ早くリーグ・アンのサッカーに適応することだ。そのなかでアフリカ系選手のスピードや独特の間合いに対応できるようになれば、自ずと世界トップレベルに対抗できる対人の強さも身につくはず。そうなればDFとしての自信も増し、当然ながら日本代表での序列も上昇するに違いない。
冨安健洋(元アーセナル)や伊藤洋輝(バイエルン)など、現在の日本代表では主力CBに負傷離脱者が目立っている。そんななか、6月のインドネシア戦では3バックの中央でフル出場を果たした瀬古が新天地ル・アーヴルでレギュラーに定着できるかどうか。瀬古の成長を期待しながら、ル・アーヴルでのパフォーマンスに注目していきたい。