柏レイソル
リカルド・ロドリゲス監督インタビュー(前編)

【Jリーグ】柏レイソルを変貌させたリカルド・ロドリゲス監督「...の画像はこちら >>
――柏レイソルは現在、J1リーグ第25節(8月12日時点、以下同)を終えて2位。勝ち点(47)では首位の鹿島アントラーズと並んでいます。
この成績をどう受け止めていますか。

「今、タイトル争いをしている状況ですが、リーグ優勝できる力はあると思いますし、その可能性も十分にあると思います。我々は、負け数が一番少ないチームですし、このまま最後までタイトル争いを続けていきたい。優勝する自信はあります」

 今季から柏の指揮官に就任したリカルド・ロドリゲス監督は、キリッとした表情でそう語った。

 柏の現在の好成績は、同監督のこれまでの日本での指導経験が生きていることは間違いない。日本に来て最初に率いた徳島ヴォルティスでは自身が志向するポゼッションサッカーを構築し、就任4年目の2020シーズンにチームをJ2優勝へと導いた。とりわけ、その経験は大きいのではないだろうか。

――柏を指揮するに当たり、徳島での経験が生きた部分はありますか。

「徳島では、攻撃的なポゼッションサッカーを機能させる、というところで多くのことを経験することができました。選手の成長をどのように促し、どのようにチーム作りを進めていくのか。

 また、(監督就任)3年目には、チームが13名もの選手を引き抜かれてしまう事態に直面。そこから、どうチームを再編成し、J1昇格を目指していくのか、頭を悩ませました。

しかし、そういう困難がありながらも(J2で)4位になり、翌年にはJ2優勝を果たしてJ1昇格を成し遂げることができました。

 徳島では、監督として指導するうえでの自信と満足感を得られたと思っています。その自信と経験が、柏を指揮するうえでのベースになっていることは間違いないです」

――外国人監督が日本のチームを指導する際、日本人の特性、国民性を理解することが求められると思いますが、日本人の特性をどう捉えていましたか。

「日本の選手は、学ぶ意欲、向上心が非常に高いです。しかも真面目なので、私が伝えたいことを素直に受け取ってくれる。そのために私は、監督としてどんなアイデアを持ち、それをどのようにわかりやすく伝えられるかを常に意識していました。今は、徳島にいた時よりも明確に自分のアイデアを伝えられるようになりましたが、それは昨年の中国(スーパーリーグの武漢三鎮足球倶楽部を指揮)での経験も大きかったですね」

――中国での経験とは、どういうものだったのでしょうか。

「中国では私が指揮を執り始めた直後にオーナーが代わり、クラブが不安定ななかでチーム作りをしないといけない状況でした。スピード感を持ってチーム作りをするためには、中国人選手に自分のアイデアを伝える際、より明確にわかりやすく説明しないといけない。そうやって、選手に明確にメッセージを伝える方法を学んだことは、今の柏を指揮するうえで生きています」

――浦和レッズ(2021年~2022年まで指揮)では、徳島の時とは少し異なり、選手を戦術的な枠にはめるだけではなく、選手個々の特徴を生かしたサッカーを実践していたように見えました。

「私が浦和で目指したスタイルは、明確でした。サイドには1対1で仕掛けられるウイングを配置し、後方からのビルドアップが得意な選手をそろえ、攻撃を組み立てていく。

それを踏まえつつ、前線の選手の特徴を生かして、自分たちのスタイルを構築していく、ということ。

 ただそのためには、どのようなプロセスをたどっていけばいいのか。その部分で、試行錯誤しました。

 それでも(浦和での)2シーズン目、夏の時期には私が目指すべきスタイルを表現できていたと思います。より完成度を高めるために、もう少し指揮を執りたかったのですが、2年間、リーグ戦で中位をさまようことになり、道半ばで終わってしまったのは非常に残念でした。とはいえ、(その後のクラブワールドカップ出場権獲得につながる)AFCチャンピオンズリーグ決勝進出を達成するなど、少しは成長を見せられたと思います」

 徳島で4年間、浦和で2年間指揮を執って、中国では武漢三鎮を1年間率いたリカルド監督。そして今シーズン、柏で指揮を執ることになった。柏はここ数年、残留争いに加わる苦しいシーズンを過ごしてきたが、ポゼッションサッカーを標榜するリカルド監督がチーム作りを進めると、テクニカルで能動的に動くスタイルを実現。勝てるチームへと昇華していった。

――今シーズンから柏で指揮を執るにあたって、まずは何が重要だと考えていましたか。

「選手(の補強)ですね。(フットボールダイレクターの)布部(陽功)さんと話をするなか、私が目指すスタイルにはどのような選手が必要なのか。

お互いに意見を出し合いながらすり合わせて決めていきました。(補強する)選手はかつて一緒に仕事をした選手というよりも、私のスタイルに適した選手であったり、選手の持っている特徴などを重視して選びました。

 既存の選手たちも、たとえば垣田(裕暉)は攻撃だけではなく、守備の部分でも貢献してくれるFWですし、MFの小屋松(知哉)はスピードとドリブルに特徴があり、ウイングの特性を持った選手です。彼らのような選手がいて、(自分が)必要な選手を(クラブが)獲得してくれたことで、すばらしいチーム編成ができたと思いました」

――チーム作りにおいては、センターラインに主要選手を置いていく手法が一般的ですが、監督もそのやり方で進められたのですか。

「センターラインを重視する監督もいますが、私はそのような捉え方をせず、11あるすべてのポジションが重要ですし、(ピッチに立つ)11人すべてが主役だと思っています。すべてのポジションが機能しなければチームとしても機能しないので」

――チームに戦術を落とし込む際には、どういった形で進めていくのでしょうか。

「段階的にすべきことを伝え、選手がそのコンセプトを理解し、練習で何度も繰り返していきます。ここで大事なことは、急ぎすぎないことです。(新たなチームを率いると)どうしても選手に多くを伝え、すぐに次から次へと違うことを教えてしまいがちですが、これは習得のプロセスとしては適切ではありません。

 私はスペインで指導を始めましたが、その際、一日にひとつのコンセプトをトレーニングし、翌日には異なるコンセプトに取り組みました。選手はいろんなアイデアに触れられますが、結果的にほとんど習得できず、時間だけがすぎていったのです。

 そうした経験から、反復しなければ選手は学べないと理解したので、柏では心理学的要素を加えながら、(選手たちには)反復の時間を与え、確実に自分のモノにしていけるようにしています」

――今の柏のサッカーは、戦術的なベースや狙いがあって、ロジックに相手を崩していくスタイルですが、同時に選手の特徴を生かしたサッカーも展開。

さらに、対戦相手によっても戦い方に違いが見受けられます。

「選手の特徴を生かすことは、浦和を率いていた時に、より考えるようになりました。最初のシーズンは、中盤に攻撃よりも守備が得意な選手が多くおり、その特徴を生かして中盤を構成していました。2年目は、(全体的に)攻撃的な選手が増え、自分のスタイルを目指すことができました。

 柏でも(戦術のなかで)すべきことは各選手に求めますが、枠にはめることを優先してしまうと、(選手は)そこにとらわれてしまい、合わない選手が出てきてしまいます。私は、出場する選手の個性を生かして、それを最大限に引き出すスタイルが今の柏の姿だと思っていますし、それが柏の強さだと思います」

(つづく)

リカルド・ロドリゲス監督
1974年4月3日生まれ。スペイン出身。若くして指導者の道を目指して、最初はスペイン下部リーグの各クラブを指揮。その後、サウジアラビアの代表スタッフを務め、タイ・プレミアリーグのクラブでも手腕を発揮した。2017年、J2の徳島ヴォルティスの監督に就任。4年目にJ1昇格へと導く。2021年から2年間、浦和レッズの指揮を執り、2024には中国スーパーリーグの武漢三鎮足球倶楽部を率いた。

そして今季から、柏レイソルの指揮官となった。

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