今夏の甲子園(第107回全国高校野球選手権大会)は「スーパー2年生」の存在が際立った。とくにスカウト陣を驚かせたのは、末吉良丞(沖縄尚学)である。

 昨秋の明治神宮大会、今春のセンバツと全国の舞台を経験してきた左腕だが、今夏は見違えるような姿を見せた。初戦の金足農戦では、14三振を奪って3安打完封勝利。3回戦の仙台育英戦では延長11回の死闘をひとりで投げ抜いた。チームは初の夏の甲子園優勝を飾り、末吉は2年生ながら侍ジャパンU−18代表に選出されている。

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【来年のドラフトの目玉】

 今春から大きく進化したのは、ストレートの球威だった。とくに右打者の外角高めに向かってシュートしながら伸び上がってくる球筋には、目を見張った。金足農戦の試合後に末吉に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「シュートハイを外に浮き上がらせて、空振りを取るイメージで投げています。今日はボールが抜けることなく投げられました」

 今春のセンバツ以降、右翼手だった宜野座恵夢が捕手にコンバートされた点も末吉の躍進につながった。沖縄尚学の比嘉公也監督は宜野座のリードについて、「左右だけでなく、高低を使って配球できる」と評価する。

 高校入学直後から将来を嘱望される大器・織田翔希(横浜)も、進化を感じさせた。初戦の敦賀気比戦は、降雨のため1時間7分の中断を挟む劣悪なコンディションながら、7安打完封勝利。だが、「自分の思い描いた軌道で投げられなかった」と明かしたように、圧倒するようなボールは少なかった。

 つづく2回戦の綾羽戦では、リリーフ登板直後に、自己最速タイの152キロをマーク。ただスピードが速いだけでなく、美しいスピンのかかった迫力満点のストレートだった。織田も「本当に、あのボールは(指の)かかりがよかった」と満足げに語っている。

 チームの逆転勝利を呼び込む、圧巻の投球。春夏通じて、甲子園で自己最高の投球ができたのではないか。綾羽戦の直後に尋ねると、織田からこんな答えが返ってきた。

「自分の結果がすべてではないので。チームの勝利に貢献できるピッチングができたのは、よかったと思います」

 引き締まった表情からは、エースの風格が漂っていた。

 今大会は準々決勝で県岐阜商に屈したものの、その豊かな潜在能力を思えばまだ通過点。身長185センチ、体重75キロと線が細く、フィジカル的な伸びしろは大いに残されている。残り1年の高校生活で、偉大なOB・松坂大輔(元・レッドソックスほか)を超えるだけの存在になれるか。

【夏の甲子園2025】来年のドラフトは大豊作! スカウトを唸らせたスーパー2年生たち 「今大会で一番見どころのあるショートだった」
投打「二刀流」での活躍が期待される山梨学院・菰田陽生 photo by Matsuhashi Ryuki

【この夏に評価を上げた3投手】

 菰田陽生(山梨学院)もまた、急成長を見せた2年生だ。身長194センチ、体重100キロの巨躯を誇る怪素材だが、今夏は実戦での強さを発揮した。

 初戦の聖光学院戦では6回までノーヒット投球を展開。とはいえ出力は抑え気味で、打たせて取る投球に終始した。試合後、菰田はこう語っている。

「少しでも長いイニングを投げられるように、8割くらいの力感で投げました」

 菰田は強い二刀流志向を持っているが、初戦は投手としての活躍が目立った。吉田健人部長は「私はピッチャーのほうがいいと思う」とも明かしている。

 だが、2戦目以降は12打数7安打6打点と大暴れし、打者としての才能も見せつけている。かねてより菰田を「日本球界の宝」と評する吉田洸二監督は、試合を重ねるごとに新たな一面を見せる菰田について「いい意味で期待を裏切ってくる」と頼もしげに語った。

 準決勝では右ヒジ痛を発症して、わずか1イニングで降板。まだポテンシャルの底を見せていない大器だけに、焦りは禁物。万全な状態で大舞台に戻ってこられるか。

 髙部陸(聖隷クリストファー)も鮮烈な印象を残した2年生左腕である。2回戦の西日本短大付戦で惜敗したとはいえ、打者に向かってホップする体感の快速球と鋭く変化するカットボールは、甲子園の強打者たちを苦しめた。

 1回戦の明秀学園日立戦は、わずか4安打1失点に抑えて完投。奪三振は4に留まり、打たせて取る投球に見えた。その理由を尋ねると、髙部はこう答えている。 

「守備からリズムをつくろうと思っていたので。初戦なので、まずは野手の足を動かそうと思いました」

 この戦術眼には舌を巻くしかなかった。いずれまた、パワーアップした姿を甲子園で見せてくれるかもしれない。

 新垣有絃(沖縄尚学)は準々決勝以降、疲労の目立つ末吉をカバーして初優勝に大きく貢献した。

 線の細い右腕だが、最速146キロを計測。さらに鋭く変化するスライダーのキレが抜群だった。日大三との決勝では、7回2/3を投げて1失点とゲームメイク。大会通算でも22回を投げ、防御率0.82と安定感が際立った。

【夏の甲子園2025】来年のドラフトは大豊作! スカウトを唸らせたスーパー2年生たち 「今大会で一番見どころのあるショートだった」
2年生ながら超高校級の守備力を誇る横浜・池田聖摩 photo by Matsuhashi Ryuki

【野手陣もプロ注目の逸材揃い】

 野手も、将来性のある逸材2年生がひしめいた。

 あるプロスカウトが「今大会で一番見どころのあるショートだった」と語ったのは、池田聖摩(横浜)だ。

 キレのある身のこなしと流麗な足運び、三遊間の最深部から鋭い一塁送球ができるスローイングは、2年生ながら超高校級。とくに強肩は、中学時代に陸上・ジャベリックスローで熊本県記録を樹立したほど。今大会では投手としても活躍した。

 一方、打者としては4試合で打率.143に終わっている。それでも、細身な体ながらシャープに振り切るスイングは、目を惹いた。今後はチームの中軸として、決定的な仕事ができるか。

 チームメイトの小野舜友も持ち前の打撃は4試合で打率.154に終わったものの、ハンドリングの巧みな一塁守備でチームに貢献した。

 強烈な存在感を見せた強打者といえば、田中諒(日大三)が挙がる。今大会は2本塁打を記録。低反発バット導入以降、1大会で複数本塁打を放った初の打者になった。

 柔らかい前さばきから放たれる打球は、予想以上によく伸びる。

ただ飛距離があるだけでなく、ここ一番の場面で決定打を出せる勝負強さが頼もしい。

 赤間史弥(花巻東)、古城大翔(花巻東)の木製バットコンビも、将来が楽しみだ。赤間はバットヘッドを鋭くしならせる振り抜き、古城は木製バットを1本も折ったことがないというコンタクト能力が光る。互いにライバル意識を強く持っており、切磋琢磨した先に新しい高校野球の未来が拓かれそうだ。

 田山纏(仙台育英)もたくましい体躯から、右へ左へ快打を連発。右翼からの力強いスローイングも白眉だ。その打撃スタイルと独特の世界観から、須江航監督は「いろんな意味で度会隆輝選手(DeNA)みたい」と評する。

 スピードスタータイプでは、石田雄星(健大高崎)が際立つ。初戦で京都国際に敗れたものの、意表を突くセーフティーバントでくせ者ぶりを発揮している。京都国際の小牧憲継監督も「野球センスがずば抜けている。ウチにほしい」と絶賛するほどだ。

 今夏に躍進したといっても、彼らは高校2年生。

まだまだ野球人生の「序章」に過ぎない。

 すでに新チームの戦いは始まっている。「スーパー2年生」が今秋以降、全国各地でどんな戦いぶりを見せてくれるのか。今から楽しみでならない。

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