ビビる大木×宮本慎也
今シーズン2位につけていながらも、リーグ優勝はすでに厳しいジャイアンツの現状について宮本慎也が分析。また、若手選手たちがチャンスをつかむために必要なことを自身の現役時代を振り返りつつ、語ってもらった。
【今年の巨人について】
ビビる大木(以下、大木) 巨人は今年、ケガ人も多くて苦しみながらも、Aクラスを維持しているという状態なんですが、宮本さんから見て今年の巨人はどんな感じですか?
※(収録日の)8月25日の時点で56勝55敗3分の2位
宮本慎也(以下、宮本) 岡本の偉大さがよくわかりました。全然打てなかったですよね、岡本がいないと。見ていてこっちが苦しくなるくらい。
大木 阿部慎之助監督が記者に「4番誰がいいですかね?」って逆に聞いていたので、本当にその気持ちだったと思います。
宮本 打てないまでも、そのなかでもそこそこ打つ人はいたじゃないですか。丸佳浩とか泉口友汰とか。あのへんの打順を前にしたらいいのにと思っていたんですよ。打順を前で固めて、そこの選手で点を取るみたいな。そこは割り切って。間にアウトになりそうな選手がいっぱいいると、点が入らないと思うんですよね。
阿部監督は4番を打っていた人なので、4番はこだわりもあったでしょうし、これは監督の考え方なんですけど、でもよく粘ったと思います。
菅野智之もいないんですよ。
大木 今シーズン、ソフトバンクから甲斐拓也選手が加入しましたけど、巨人のキャッチャーはいるなと思っていたんですよ。それでもあえて阿部監督は、甲斐選手がいたほうがいい、ベストとお考えなんだなと思って。やっぱり宮本さんが見ても、その気持ちはわかりますか?
宮本 いや、僕は分からなかったです、正直。でも岸田行倫、大城卓三、なんなら小林誠司もいたので。数はいるけど、やっぱり経験とかそういうのも含めて、たぶん、阿部監督は甲斐が必要だと思ったと思うんですけど。今回ケガしましたけど、少し前ぐらいから結局、岸田が出ていましたよね。
阿部監督は甲斐を使おうと思っていたのかもしれないですけど、ここで岸田が「甲斐さんに負けねえぞ」って思って成長したのかもしれないし、だから取ったことで岸田がよくなったんじゃないですかね。
大木 甲斐選手のおかげで岸田選手が覚醒したんじゃないかという。
宮本 そうです。
大木 先ほどのドラフトの話じゃないですけど、やっぱり捕手とショートはいいのがいたらやっぱり欲しいというのは、その部分もあるかもしれませんね。
宮本 そうなんです。キャッチャーとショートで注目される選手って打つほうもいいから注目選手なんですよね。キャッチャー、ショートで打ってくれたら、もうチーム編成めちゃくちゃ楽ですよね。そういう選手がいたら取ったほうがいいですよね。
大木 そうですね。甲斐選手ぐらいになれば全球団欲しいっちゃ欲しいですよね。
宮本 それはそうですね。
大木 ジャイアンツの泉口選手も今年ドーンときましたけども。
宮本 僕は、門脇誠推しだったんですね。たまたまタイミングがあって、プロに入る前に1回見たことあるんですけど、「プロでできるよ」って本人に言ったんです。ただ、「バッティング頑張らないと、レギュラーではなかなか出れへんからね」って言っていたら、1年目に頑張ったんで、そのままいくと思ったんですけど、やっぱりバッティングですよね。泉口が打ったので。守備力でいうと門脇のほうが上だと思うんですよ。でも安定して泉口が打っているので、これをあと2年です。門脇も1年はやったんですよ。泉口も1年はやりました。やっぱり3年はやらないと。
僕が今一番残念なのは、違うチームなんですけど、DeNAの森敬斗。めちゃくちゃポテンシャルが高い選手で、昨年ちょっと頭角を現したのに、今年いないじゃないですか。
大木 いけそうだなと思ったものがうまく続かないっていうのは、どういう壁があるんですか? 単純に周りの警戒が厳しくなりますよね。
宮本 もちろんそれもあります。あまり思いたくないんですけど、ちょっと油断する。「いけるな、俺」みたいな。やっぱり最初にうまくいった時に、みんなが研究するので、(翌年は)うまくいかないですよ。よく2年目のジンクスとか言われると思うんですけど、そこを上回っていかないといけないので、悪ければ悪いなりにチームに貢献していったら試合に出られるじゃないですか。
そうするとスキルも上がるし、自分の引き出しもいっぱい増えるので、試合に出続けることが大事なんです。ショートだったら守りはもうこいつに任せて大丈夫、そのなかで2割5分を打ってくださいね、チームプレーができますよねってなると、たぶんどんどんよくなっていくと思います。僕が最初そうだったんですよ。最初から3割打ってたわけじゃないんで。
大木 この選手は2割5分を打つけど守備がなぁってなると、やっぱりなかなか使ってもらえないですか。
宮本 ショートはそうですね。でもそれ以外はよく「守れないと使えない」と言うんですけど、見ているとほとんど打つやつが出ますよね。だから基本的にはまずボールを投げられないと大ケガにつながるので試合に使ってもらえないけど、ボールさえ投げられたらあとは打つほうで頑張るぐらいでいいと思います。
大木 それぐらいシンプルに考えたほうがいいということですね。
宮本 そうです。打てたほうがいいです。
大木 最初、打撃は苦しいかな、と思われた宮本さんがずっと出続けられたのは何ですか?
宮本 大きかったのは、昔はキャッチャー、ショートって打てなかったと思うんですけど、2割5分打ったらいいですよっていうポジションだったところに、古田敦也さんというクリーンアップを打つ人がいたので、打てなくてもいいよっていうところで、僕はチャンスをもらえたと思います。だから8番バッターだったわけですね。
あまり打たなくても大丈夫みたいなところで試合に出続けた。野村克也監督にいろいろ教育されて、チームバッティングももちろんそうですし、ちょっと打てるようになってきたというのがありました。
大木 野村さんに教えてもらうと打てるようになるっていうのは、どういうことなんですか? 急に打てるようになるんですか?
宮本 考え方ですよね。たとえば僕は(野村さんの考えを)古田さんに教わったんですけど、8番バッターで次の打順はピッチャーじゃないですか、セ・リーグの場合。
そうなるとたぶんピッチャーでいくなと思ったら、そんな難しく追っかけなくていいので、投げミスだけを待っているとか。そういうことが最初はわからないわけですよ。わからないけど一生懸命なんですよ。どうかなと思って振っちゃったみたいになるので、そこが割り切れるようになったり。
たとえば「お前はなんでショートゴロとか、打ち上げたりするんだ?」って聞かれた時に、「ちょっとインコースで気になるんです」って言ったら、「じゃあインコースにくるカウントをちゃんとデータ見て頭に入れとけ。それ以外は詰まっても何してもいい」って言われるんです。
もう一生懸命、自分で「キャッチャーこの人で、ピッチャーこの人だったらこうやって攻めてくるんだな」とか考え出すと、予測の確率がよくなってくるんですよね。
僕はホームランを打たなくていいので、それをヒットにすればいいんです。だからそこまで難しくないんですよね。
たとえばデッドボールはもったいないわけですよ。ヒットもフォアボールも一緒です。デッドボール避けたいから、ランナーがいない時はシングルヒットだったらOKと考えて、外に投げてくるわけですよ。まっすぐかスライダーなんです。
それだけ考えて、強引に打つんじゃなくて、ポンポンって打っていたらヒットになる確率が上がるので、「8番バッターはめちゃくちゃいいな」みたいな(笑)。だから2番にいった時は最初ちょっと戸惑いました。ランナーが出たりして、僕につながったらクリーンアップですから。ピッチャーが本気で投げてくるんです。ピッチャーは8番打者の時は抜くんですよ。本気で投げてこない。(巨人の)斎藤雅樹さんとか本気の球を見たことないんです。
大木 そのときは、もう相手が本気にならなきゃいけないプレーヤーに、宮本さんはなったわけですね。
宮本 (打順が)上に行ってしまうとダメなんで、下のほうがいいです。8番くらいがいい(笑)。
大木 すごいところで戦ってきた証拠ですよ。
つづく
【Profile】
宮本慎也(みやもと・しんや)/1970年11月5日、大阪府出身。1992年にドラフト2位でヤクルトスワローズに入団。2004年のアテネオリンピック、2008年の北京オリンピックではキャプテンを務め、2012年に2000本安打を達成。2013年に現役を引退。現在は野球解説者として活動している。