143試合に及ぶ長いペナントレースも、いよいよ最終盤を迎えた。パ・リーグは連覇を狙う王者・ソフトバンクを、若き力と勢いで日本ハムが追う展開となっている。

はたして、日本ハムの逆転優勝はあるのか。現役時代、日本ハム、ソフトバンクでプレーした鶴岡慎也氏に語ってもらった。

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【日本ハムの完投数は12球団トップ】

── 9月7日現在(以下同)、首位ソフトバンクは2位・日本ハムに4ゲーム差をつけ、優勝までのマジックを15としています。昨年とは違い、しびれるような戦いが続いています。

鶴岡 昨年は首位・ソフトバンクに13.5ゲーム差をつけられて2位に終わりましたが、日本ハムの選手たちは確実に実力をつけてきました。2016年の優勝を経験しているのは、宮西尚生投手と中島卓也選手くらいです。今は1つの敗戦や1つのミスが、春先とは比べものにならないほど大きな意味を持ちます。リーダー格の松本剛選手にしても、優勝争いの緊迫した雰囲気を肌で感じるのは初めてであり、この経験がまだ発展途上にあるチームの血肉になっているのだと思います。

── 日本ハムの先発陣は、伊藤大海投手、北山亘基投手、加藤貴之投手らに若い達孝太投手が加わりました。

鶴岡 完投数はリーグでダントツの21試合に達しました(2位の西武は8試合)。各投手が「長いイニングを投げよう」という意識を持ったのは、とてもいい傾向だと思います。ですがここにきて状況は変わり、ペース配分を考える段階は終わりつつあります。今は、最初から全力を出しきるフェーズに入ってきました。

── チーム完投数が増えた分、セーブ数は田中正義投手11個、柳川大晟投手11個と、他球団と比較して多くはありません。

鶴岡 チーム状況もあるのですが、柳川投手は少し前まで一軍登録を抹消されていましたし、田中投手は9回より前のイニングを任されることも多かったです。

── 開幕投手を務めた金村尚真投手はいかがですか。

鶴岡 現在、金村投手は配置転換されて"ジョーカー"的な存在として、第2先発で投げたり、勝ち試合の8回を投げたりしています。また、上原健太投手、玉井大翔投手、斎藤友貴哉投手が大事なところを任されています。

【圧巻の10勝カルテット】

── 一方のソフトバンクは、メジャーで最多セーブの実績を持つ守護神ロベルト・オスナ投手がわずか8セーブ、中継ぎのダーウィンゾン・ヘルナンデス投手が9ホールドポイントと不振にあえいでいます。

鶴岡 ただソフトバンクは、セットアッパーの藤井皓哉投手が19ホールドポイント、松本裕樹投手が38ホールドポイント、杉山一樹投手24セーブと、しっかり結果を残しています。

── またソフトバンクの先発陣は、リバン・モイネロ投手、有原航平投手、大関友久投手、上沢直之投手ら「10勝カルテット」が誕生しました。

鶴岡 プロ野球はトーナメントではなく、半年間で143試合を戦い抜くペナントレースです。ソフトバンクの選手たちは一時的に調子を落としても立て直して結果を残しており、あらためて選手層の厚さとチームの底力を感じさせます。

── そのソフトバンクに、日本ハムが逆転優勝するために必要なことは何ですか?

鶴岡 やはり、エース・伊藤大海投手のピッチングにかかっていると思います。両チームともローテーションを崩してまで「伊藤 VS モイネロ」の直接対決が、今季5度ありました。直近の2試合は1勝1敗です。

直接対決は、9月9日、18日、30日の3試合ですが、おそらく両エースのマッチアップになる可能性は高いです。そのなかで、伊藤が勝利をつかめるかどうかが大きなポイントになるでしょう。

【来日2年目、レイエスの活躍】

── 打つほうでは、日本ハムは万波中正選手、ソフトバンクは山川穂高選手が本調子ではありません。

鶴岡 しかし日本ハムは、五十幡亮汰選手や奈良間大己選手といった"伏兵"が日替わりヒーローで活躍しています。それに来日1年目の昨年、DH部門でベストナインに輝いたフランミル・レイエス選手が、今季もいい場面で打っています。

── レイエス選手は、具体的にどんなところがいいのですか。

鶴岡 現在、打率.286、28本塁打、80打点を記録しており、本塁打と打点はいずれもリーグ1位です。打撃練習では、まずコンパクトに右方向へ打ち、最後は引っ張る形で締める。常に工夫を凝らして打席に立っているのが印象的です。配球を読む力もさすがで、1、2打席目で抑えられても3打席目にはしっかり仕留めてくる。最終的には35本塁打、100打点に届くと見ています。

── 一方、ソフトバンクは序盤ケガで出遅れていた近藤健介選手、今宮健太選手、栗原陵矢選手はもちろん、柳田悠岐選手も戻ってきそうです。

鶴岡 主力が離脱している間に、野村勇選手(12本塁打)や柳町達選手(交流戦MVP)が、なくてはならない存在へと成長しました。

また、ベテランの牧原大成選手や中村晃選手の実力もさすがです。牧原選手は内外野を守れるうえに、下位打線でも上位打線でも役割を果たせる、"ジョーカー"的存在。中村選手も、不振の山川選手の穴を見事に埋めました。

── 鶴岡さんは現役時代、ソフトバンクにも所属しましたがどんなチームですか。

鶴岡 ソフトバンクは勝利を義務づけられていて、"勝利"と"育成"は相反するものですが、そのバランスが絶妙ですね。現在は四軍までありますし、選手の絶対数が多く、常に激しい競争が繰り広げられています。まさにビッグクラブという感じがします。

── それぞれ打線のキーマンになるのは?

鶴岡 ここまで来たら、最後は主力のバッティングにかかってくると思います。日本ハムはレイエス選手、ソフトバンクは近藤選手が打つか打たないかではないでしょうか。

【カギを握る日本ハムの大型右腕トリオ】

── ほかにカギを握る選手はいますか。

鶴岡 達投手は2021年のドラフト1位ですが、先発の福島蓮投手は同期の育成ドラフト1位、抑えの柳川大晟投手は同期の育成ドラフト3位です。3人はいずれも身長190センチ台の"大型右腕トリオ"。

彼らが最後のカギを握る存在になるかもしれません。

── 残り試合はともに20試合程度です。

鶴岡 今季、日本ハムは楽天を得意(16勝6敗1分)にしていて、逆にソフトバンクは楽天に苦戦(11勝11敗)しています。残りの試合を見れば、日本ハムは最下位ロッテと6試合、ソフトバンクは3位のオリックスと8試合残しています。そこでしっかり勝ち越したいところです。

── 新庄剛志監督と小久保裕紀監督は、奇しくも同い年ですね。

鶴岡 現役時代、新庄監督はMLBから帰国した2004年から、「これからはパ・リーグです」と盛り上げ、2006年には日本ハムの日本一に貢献しました。小久保監督は2007年に巨人からソフトバンクに戻って、2011年に日本一、翌年通算2000安打を達成しました。

── ともにパ・リーグを盛り上げてきました。

鶴岡 ライバルチームの監督ですが、お互いリスペクトしているのを感じます。そのふたりが指揮官となって激しい優勝争いを演じ、パ・リーグを盛り上げているのはすばらしいことですよね。両チームのOBであることを誇りに思います。


鶴岡慎也(つるおか・しんや)/1981年4月11日、鹿児島県生まれ。樟南高校時代に2度甲子園出場。三菱重工横浜硬式野球クラブを経て、2002年ドラフト8巡目で日本ハムに入団。2005年に一軍入りを果たすと、その後、4度のリーグ優勝に貢献。2014年にFAでソフトバンクに移籍。2014、15年と連続日本一を達成。2017年オフに再取得したFAで日本ハムに復帰。2021年オフに日本ハムを退団し、現在は解説者として活躍中

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