連載 水沼貴史×平畠啓史
国内外のサッカー中継の解説者として活躍する水沼貴史さんと、日本屈指のサッカーマニアで知られる平畠啓史さんが、サッカー界のホットな話題をしゃべり倒す連載。今回は、平畠さんが選んだJリーグで「今見てほしい」という日本人センターバック3名を紹介する。
【DFは性格もすごく重要】
平畠 僕のひとり目行っていいですか? ヴィッセル神戸の山川哲史選手です。
水沼 ああ、いいですね。僕も(3名を選ぶ前のリストに)入ってますよ。
平畠 もう安定感が半端ない。安定感のレベルが高い。ミスが少ない。未然に相手の攻撃を防ぐ。こんないいセンターバックいないですよ。
水沼 いないですね。最初は右サイドバックをやってたでしょ? ということはスピードもある。マテウス・トゥーレルとのコンビもいいですね。
平畠 神戸って前に有名な人いるじゃないですか。大迫(勇也)さんもいます。
水沼 謙虚ですよね。一回僕が中継の時のインタビューで、違う選手をリクエストしていたんだけど、その選手がキャンセルになって、山川がキャプテンだから来てくれた。そこでしっかりとインタビューに答えてくれて、すばらしいなと思いました。
平畠 DFってやっぱり性格もすごく重要だと思うんですよ。あの、たまにおっちょこちょいな感じの人いるじゃないですか。
水沼 あと、わーっと熱くなっちゃって、冷静さを失ってしまうとかね。
平畠 山川選手は、本当に性格もDF向きというか、センターバック向きなんじゃないかなと。
水沼 山口蛍(現V・ファーレン長崎)が昨年、自分がチームを出ると決めた時に、キャプテンがいなくなることになるけど、「山川がいるから大丈夫」と言って出ていったそうですよ。
平畠 身長は186センチでスピードもありますし、相手も潰せる。カバーリングに入れる。
水沼 ここまで31試合で2試合だけ途中交代があって、あとはフル出場ですね。
平畠 だから、本当に見てほしい。そんなに派手なDFではないじゃないですか。相手をドカンって潰すみたいな派手な感じのDFもいるなか、そういうDFじゃないだけに、余計に見てほしいと思います。
【J3から日本代表へ】
平畠 もうひとりはですね。これは今さらって話かもしれないですけど、アビスパ福岡の安藤智哉選手です。
水沼 急成長というか。だってヒラちゃんは相当前から見ていた選手なんじゃないですか?
平畠 そうなんです。(当時J3の)FC今治時代から見てまして。愛知学院大学からまず今治に入るわけですよ。で、2年やるんですけど、「ああ、この人うまいなあ」って思って見てました。
あと忘れられないシーンがあって。相手に攻められて、ボールがもうゴールに入りそうという場面があったあったんですよ。それでカバーに入った安藤選手がヘディングでクリアするんですけど、ジャンピングヘッドした瞬間にボールはもちろん触りますよ。 その後クロスバーに頭が当たったんですよ。見たことあります? ジャンピングヘッドでクロスバーに頭が当たるところ(笑)。「すごいな、この人!」と思って。
水沼 恐れずに行くってことだよね。クロスバーがあったら、躊躇するもんね。
平畠 それで衝撃を受けて。そこから(J2の)大分トリニータにも行って活躍して、今の活躍ぶりです。
水沼 ボックス左ぐらいに普通にいるよね。
平畠 あれも安藤選手の足元のうまさとかを利用してるんだろうなと思うんですけど、なんかさらにこの人面白くなっていくんじゃないかなと思って。
水沼 攻撃的なセンスがあるんですよ。今はメンタル的にも相当自信をつけている時ですね。
平畠 9月の日本代表の活動に呼ばれてケガで辞退しましたけど、まだまだこれから伸びしろもあると思います。
日本代表に入る人って、やっぱりエリートな人が多いじゃないですか。でも、安藤選手のように大学卒業して、J3、J2とステップアップしていったDFが日本代表に入るのは、やっぱりドラマがあるなと。
水沼 ありますね。サイズがあって(190センチ)技術があると、海外とかもね。
平畠 もしかしたら。でも、すごくないですか? 今治でやっていて、どんどん上がっていって、海外まで。
水沼 頑張っていれば、夢があるんですよね。
【めちゃめちゃ男前】
平畠 それでもうひとりですが、個人的に結構好きなんですけど、東京ヴェルディの谷口栄斗選手。
水沼 いいですね! (リストに)入ってますよ。当然です。彼はここ(ハート)ですよね。
平畠 DF魂を感じさせる選手ですよね。俺がチームを守るぞ! みたいなところが、もうガンガン出てるじゃないですか。
それと、フィードもかなり正確で。
水沼 左側から右に蹴るフィードは好きですね、彼は。
平畠 ヴェルディは本当に苦しい時期があって、J2で戦っていた時代からJ1に上がっていったところにずっといた選手なので、たぶんサポーターの人もすごく思い入れがあると思いますね。
水沼 そんなに大きなタイプの選手じゃないかもしれないけど(181センチ)、ゴールカバーもそうだし、ボールの奪い方もそうだし、かっこいい顔をしていながらも、なんかこう強気のプレーが出る。スマートに見えるんだけど違うという。
平畠 僕は先ほどの山川選手もDF向きだなという話をしましたけど、谷口選手も本当にDF向きだなと思ったんです。
味スタ(味の素スタジアム)のミックスゾーンにいたら、谷口選手が声をかけてくれたんですよ。「平畠さんですよね」みたいな感じで。僕もそんな言われたらうれしいじゃないですか。なので彼が近くの自動販売機でジュースを買おうとしてたので、「あっ、僕出しますよ」って言ったんです。そうしたら、
「いいです」
「大丈夫です」
と、いっさい受け取ろうとしない(笑)。きっちりした人ですよ。男前でした。あの「大丈夫です」の時の顔、めちゃめちゃ男前でしたよ。なんかそこもDFやなあというか。たぶんFWの人だったら「ホンマですか!」ってなるじゃないですか。そこを断ったところが、僕は逆に好きになりました。