ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――3歳牝馬三冠の最終戦、GⅠ秋華賞(京都・芝2000m)が10月19日に行なわれます。
大西直宏(以下、大西)現役時代、京都や阪神で騎乗する機会は少なかったのですが、秋華賞には2003年に騎乗。
当初騎乗する予定だった蛯名正義くん(現調教師)が、同じ日に東京で行なわれるGⅢ府中牝馬Sの出走馬(レディパステル)にどうしても騎乗しないといけなくなり、直前になって依頼をいただいたのを覚えています。
――2003年の秋華賞と言えば、鮮やかな勝利を飾って牝馬三冠を達成したスティルインラブをはじめ、そうそうたるメンバーがそろっていました。その一戦で、大西さん騎乗のマイネサマンサはコンマ2秒差の5着。大健闘と言える結果だったのではないでしょうか。
大西(マイネサマンサに対する)予備知識がほとんどないままレース当日を迎え、跨って返し馬に行くとガツンと持っていかれて、口の中が血だらけになりました。かなり焦りましたけど、馬とケンカしても折り合いを欠くだけだと思って、レースでは腹をくくって逃げました。
スタート後、競り込まれずに単騎で行ききれて、道中は思いのほかリズムよく馬群を引っ張ることができました。最後は差されてしまったのですが、直線では一瞬、(勝利する)夢を見たぐらいですよ。
――さて、今年は節目となる第30回の秋華賞。出走メンバーをご覧になっての率直な印象を聞かせてください。
大西 2歳女王で、春のGI桜花賞(4月13日/阪神・芝1600m)、GIオークス(5月25日/東京・芝2400m)で連続2着となったアルマヴェローチェの戦線離脱は残念ですが、桜花賞馬とオークス馬が顔をそろえ、賞金1500万の3勝馬が抽選対象になるほど。
異なる路線からフルゲートとなる数の馬がエントリー。勢いのある上がり馬もいて、二冠目を目指す2頭にとってもまったく気の抜けないメンバー構成だと思います。
――それほどの好メンバーによる争いとなった今年の秋華賞。大西さんが中心視しているのはどの馬でしょうか。
大西 先ほど「気の抜けない」と言いましたが、二冠を狙うオークス馬のカムニャック(牝3歳)が総合力で一歩リードしていると思います。
昨年の勝ち馬チェルヴィニアなど、近年はオークスからのぶっつけで臨んで結果を出している馬が多いのですが、この馬は前哨戦のGⅡローズS(9月14日/阪神・芝1800m)に出走。そこを勝って、秋華賞に挑んできました。
名門・友道康夫厩舎ですから、そうした臨戦もこれまでのノウハウの蓄積があってのことでしょう。腕利きスタッフの手腕は頼りになりますし、仕上げの面では抜かりはないはず。本番にピークがくるような調整を進めているのではないでしょうか。
――カムニャックはタイプ的に、直線が長いコース向きの印象があります。
大西 牝馬三冠レースのラストということもあって、道中のペースが結構流れやすい、というのも秋華賞の特徴。自分がマイネサマンサに騎乗した2003年も、結局は力のある馬に差し込まれました。脚力と確かなキャリアさえあれば、内回りだからといって、神経質になる必要はないと思っています。
それに、今年は序盤にタメが利かないスピード馬、エリカエクスプレス(牝3歳)も参戦。ペースが緩んで前が恵まれるような展開にはならないと見ています。
そうした状況にあって、カムニャック自身、春よりも前目で運べたローズSに成長の跡が見られました。確かな上積みも期待できるので、主役として最もふさわしい存在だと思います。
――では、そんなカムニャックを脅かす馬、一発を狙えるような存在はいますか。
大西 1頭に絞るのは難しいのですが、キャリア3戦の良血馬セナスタイル(牝3歳)に大きな魅力を感じています。
母はオークス馬で、秋華賞2着のヌーヴォレコルト。その血統背景もさることながら、3戦とも異なるスタイルのレース運びをして結果を出している点に目を引かれます。特に重賞初挑戦となった前走のローズSでは、発馬が決まらずに後方で追走する形になりましたが、直線で渋滞する馬込みを縫うように伸びてきて3着。しっかりと優先出走権を獲得しました。
キャリアの浅い馬には、難しい芸当を披露。そこに、底知れない可能性とスケールの大きさを感じました。母の手綱もとったベテラン岩田康誠騎手による"乾坤一擲"の勝負騎乗がハマれば、大仕事を成し遂げることも夢ではないでしょう。
ということで、伸びしろが大きい好素材、セナスタイルを今回の「ヒモ穴」に指名したいと思います。