蘇る名馬の真髄
連載第19回:フジキセキ

かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。

ここでは、そんな『ウマ娘』によって再び脚光を浴びている、往年の名馬たちをピックアップ。その活躍ぶりをあらためて紹介していきたい。第19回は、デビューから4連勝を達成して将来を嘱望されながら、屈腱炎を発症し引退したフジキセキを取り上げる。

『ウマ娘』のプロフィールにも記される「幻の三冠」――サンデー...の画像はこちら >>
 幻の三冠――。『ウマ娘』フジキセキの公式プロフィールには、このような文言が記されている。これは、モチーフとなった競走馬のフジキセキが「幻の三冠馬」と言われたからに他ならない。

 競走馬のフジキセキは、1994年に3歳(現2歳。※2001年度から国際化の一環として、数え年から満年齢に変更。以下同)でデビューした。同馬の父は、大種牡馬のサンデーサイレンス。現役時にアメリカでGⅠを6勝すると、引退後は日本で種牡馬生活を送り、数々の名馬を輩出した。ディープインパクトをはじめ、スペシャルウィーク、ゼンノロブロイなど、"代表産駒"とされる馬は数知れない。

 フジキセキは、そんな偉大なる父の初年度産駒としてデビューした。そして、サンデーサイレンスの子として初めてGⅠを制したのである。

 8月の新馬戦で圧勝を決めたフジキセキは、続くオープン特別のもみじS(阪神・芝1600m)も快勝。デビュー2連勝を決めると、GⅠ朝日杯3歳S(中山・芝1600m)に出走した。現在の朝日杯フューチュリティSの前身であり、若き3歳の精鋭が集う舞台だ。

 フジキセキは単勝1.5倍の圧倒的1番人気に支持された。2番人気に続いたのは、武豊騎手が騎乗するスキーキャプテン。姉に海外のGI馬スキーパラダイスがいる良血で、こちらも2戦2勝で同レースに挑んできた。

 10頭立ての少頭数となったこの一戦。1番枠を引いたフジキセキはインの5番手につけ、先行集団の一角で流れに乗った。一方、スキーキャプテンはほぼ最後方からレースを進める形となった。

 3コーナーを前にして、フジキセキは3番手にポジションを上げた。

といっても、仕掛けていったわけではない。鞍上の角田晃一騎手はガッシリと手綱を押さえ、依然として内でじっと我慢している。スキーキャプテンはまだ最後方だ。

 直線入り口を迎えて、フジキセキはやはり最内のポジションのまま。先頭を行くニッシンソブリンの真後ろになり、外にも他馬がいる。進路がない状況と思われた。

 ここで角田騎手が選択したのは、ニッシンソブリンと内ラチの間にできたわずかな隙間だった。そのスペースから抜け出すと、鋭い伸びを見せて先頭に立ったのである。

 しかし今度は、大外からスキーキャプテンが迫ってきた。ものすごい勢いで強襲し、一気に差を詰める。それでもフジキセキは最後まで先頭を譲らず、1着でゴールしたのだった。

 2着スキーキャプテンとはわずかクビ差。

最後は相手の末脚が目立っていたため、一見ギリギリの勝利に見えた。しかしレース後、肩ムチしか入れていない角田騎手は「まだまだ余裕があった」とコメント。その言葉を聞き、「来年はこの馬を中心にして回るだろう」と、多くのファンが確信したに違いない。

 無論、中心になる「来年」のレースとは、GⅠ皐月賞(中山・芝2000m)、GⅠ日本ダービー(東京・芝2400m)、GⅠ菊花賞(京都・芝3000m)の牡馬クラシック三冠である。その底知れない強さから、フジキセキがすべてのタイトルを総なめにするという声も上がっていた。

 だが、稀代の俊英に悲劇が襲った。年が明けて4歳となったフジキセキは、皐月賞の前哨戦となるGⅡ弥生賞(中山・芝2000m)を完勝したものの、その後に屈腱炎を発症。引退へと追い込まれたのである。

 この年のダービーを制したのは、同じサンデーサイレンス産駒のタヤスツヨシ。実は、フジキセキがもみじSで2着に負かした馬だったのである。こうしたことも含め、フジキセキは「幻の三冠馬」と呼ばれたのだった。

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