"守備の名手"として黄金時代の西武で長く活躍し、引退後は2016年から22年までの6年、監督も務めた辻発彦さんは、果たして、今季の西武をどう見ていたのか。さらに、辻さんが選ぶ、現役ナンバーワンのセカンド、1番打者、2番打者も聞いた(聞き手・上重聡さん)。

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上重聡(以下、上重)まず、今季の西武はどうご覧になりましたか?

辻発彦(以下、辻)これからのチームじゃないですか。経験を積んでいる時期だと思います。昨季の91敗を見れば、今季は......(まだいいほう)とファンの方には思ってほしいです。いい部分が見えてきているので、今年よりも来季はよくなるんじゃないかと思っています。

上重 西武は若い選手も多いです。そのなかでも辻さんが注目している選手はいますか?

辻 野手に関して言うと、西武は長年1番打者で苦労してきたので、西川愛也選手が1番に入ったことは、すごく楽しみです。押しも押されもせぬ好1番バッターとして、来季はさらに活躍してほしいなと思います。

 あとはルーキーの渡部聖弥選手。1年目ながら試合に出続けて、故障した時もありましたけど、経験を積んでいる時期なので、来季はさらに楽しみです。

上重 若手が経験を積んで自信を持てば、面白いチームになりそうですよね。

辻 なります。投手力はあるので。

上重 投打がかみ合えばいいチームになる。

辻 そう思います。まあ、私が監督の時は打撃陣がよくて、ピッチャーがちょっと弱かったのでバランスよく強くなるというのは、なかなか難しいんですけどね。

【今の野球はガンガン打っていく時代だけど...】

上重 そして、辻さんは現役時代にセカンドを長らく務めていましたが、今の日本野球界でナンバーワンのセカンドは誰でしょうか?

辻 総合力だと中野拓夢選手(阪神)かな。今の野球はガンガン打っていく時代ですけど、中野選手は守備はもちろん、出塁率もいいし、四球も選べるし、打率も残せているし、いいなと思います。

上重 辻さんの考えるいいセカンドは「守れて、肩もよくて、打てて、小技も含めていろんなことができる」っていうオールマイティーな選手ですかね。

辻 そうですね。セカンドってそういう役割のポジションじゃないですか。ショートやサードにボールが飛んでも、ファーストのうしろに走って行くんです。もしかしたら暴投があるかもしれないと。そういう地味な仕事も手を抜かずにキッチリできる選手がいいんじゃないのかなと思います。

 今季の阪神が強いのは、その中野選手を含めて野手陣がある程度固定されていて、1番から6番まで出塁率のいい選手ばかりそろっているから。積極的に打ちにいっているのに、選球眼がいい。

そういうチームが強いのは、僕としてはうれしいです。

【自分が心がけていたのは「ホームベースを多く踏むこと」】

上重 続いて、辻さんが考える理想の1番打者像を教えてください。

辻 1番打者は、いかに球数を投げさせるかとか、とにかく塁に出ることとか、いろいろなことを求められますが、僕が現役の時は年間目標として「ホームベースを多く踏むこと」を心がけていました。

 あとは(ランナーがいたら)進塁させることも重要。たとえば、1死2塁なら、当然、ライター、センター方向へのヒットを狙いますが、ヒットにならなくても、最悪、進塁打さえ打てれば、点が入る可能性が出てきますよね。

上重 現役選手で辻さんの評価が高い1番打者は誰でしょうか?

辻 今季またグっと伸びてきた、ソフトバンクの周東佑京選手。彼のバッティングがまたよくなっている。打率もいいし、あの俊足で塁に出られたら、どれだけのプレッシャーが相手にかかるか。彼みたいな選手が1番にいるのはすごいなと思いますね。

【打順を組むうえで考えること】

上重 確かにピッチャーにかかるプレッシャーは全然違います。続いて2番打者もお伺いしたいのですが、最近は"2番最強"説もありますよね。

辻 2番に限らず、それぞれの打順での役割って絶対にあるので、一概には言えないと思います。クリーンアップには長打のある選手、打力のいい選手がそろっているわけで、その前に得点圏に進めるかが重要です。

いろいろな小技ができるとか、2番にはそういう選手が必要だと思いますし、僕はそうやって(チームを)作っていました。

 ただ、僕が西武で監督として(2018年、19年と)2年連続リーグ優勝した時は、クリーンアップがふたつあるような(強力)打線だったので、そういうのはあまり必要なかったんですけどね。

上重 山賊打線ですね。では、セカンド、1番打者に続いて、現役選手で一番評価の高い2番は誰でしょう? 答えづらいとは思いますが。

辻 阪神の中野選手にしましょう。

上重 阪神の1番・近本光司選手、2番・中野選手の並びっていうのは......。

辻 相手は嫌だと思いますよ。簡単にバントで送ってこないじゃないですか。粘って、カウントを作って、ランエンドヒットの形を作る。そうすると打ってもゲッツーにならない。ランナーが残る。これは脅威ですね。

上重 なるほど。簡単にひとつのアウトを取らせてくれないというところは嫌ですよね。ちなみに、1番から9番まで、辻さんがもっとも重要視するのは何番ですか?

辻 やっぱり4番だと思いますよ。4番打者を決めてから、他の打順を決めます。ちなみに、僕の監督時代は、(7番、8番に) 中村剛也選手とかメヒア選手がいたので、6番に(小技もできる)外崎修汰選手を入れると、もうひとつのクリーンアップができたわけです。そして、外崎選手をアクセントとして、ランナーがいたらバントさせるとか。昔の西武の黄金時代には、石毛宏典さんが(6番、7番に入って)バントもしていましたし、そこは似ていると思います。

上重 そう考えると、6番、7番も重要ですか?

辻 つなぎとしてはもちろん、クリーンアップのあとの6番、7番は必然的にチャンスがたくさん来るので重要なんです。だから、勝負強い石毛さんがいたんですよ。

【Profile】
辻発彦(つじ・はつひこ)/1958年10月24日、佐賀県出身。1983年にドラフト2位で西武ライオンズに入団。16年間の現役時代で複数のゴールデングラブ賞やベストナインを受賞。

2017年より2022年まで6年間、西武ライオンズ監督を務めた。現在は野球解説者として活動している。

上重聡(かみしげ・さとし)/1980年5月2日生まれ、大阪府出身。PL学園時代にエースとして活躍。立教大では東京六大学リーグで史上ふたり目の完全試合を達成。卒業後の2003年にアナウンサーとして日本テレビに入社。2024年3月末をもって同社を退社し、現在はフリーアナウンサーとして活動している。

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