3月5日に東京で開幕を迎えた第6回ワールド・ベースボール・クラシックWBC)。1次ラウンドの4グループで、最も激戦になると予想されるのがプールAだ。

 MLBで3度の本塁打王に輝いたノーラン・アレナド(ダイヤモンドバックス)が主軸に座るプエルトリコ、エースのリバン・モイネロ(ソフトバンク)と抑えのライデル・マルティネス(巨人)を誇るキューバ、昨季MLBで20本塁打のジョシュ・ネイラー(マリナーズ)を擁するカナダ、同じく昨季MLBで19本塁打のイバン・ヘレーラ(カージナルス)が捕手を務めるパナマ。

 そして、初の1次ラウンド突破を狙うのがコロンビアだ。

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【圧倒的な力で予選ラウンドを突破】

「我々にとって、最良のグループに入ることができた。十分にチャンスがあると思う」

 そう話したのは、母国の代表チームを率いるホセ・モスケラ監督。普段はドミニカ共和国にあるパイレーツのアカデミーで監督を務めるモスケラは、昨年の予選でコロンビア代表を本大会に導いた。

「キューバとパナマに対しては、我々も同等のタレントを擁していると思う。コロンビアは3度目のWBCで経験豊富だ。今回こそ決勝ラウンド進出を目指している」

 コロンビアは前回、1次ラウンドで強豪メキシコを撃破。アメリカとも1点差の接戦を演じるなど、力を示した。

 MLB.comは今年2月、「サプライズを起こすかもしれない6チーム」と題した記事を配信し、そのひとつにコロンビアを挙げた(ほかはベネズエラ、カナダ、チャイニーズ・タイペイ、メキシコ、イタリア)。予選ラウンドではブラジル、中国、ドイツに3連勝を飾り、「23得点、1失点」と圧倒的な力を見せつけたことが根拠のひとつだった。

 実際、同予選でブラジル代表として先発して負け投手になったボー・タカハシ(西武)はこう話している。

「コロンビアにはすばらしい選手がたくさんいて、本当に強いチーム。

ラテンアメリカではトップ3か、少なくともトップ5に入ってくると思うよ」

 コロンビアで最も人気のある競技はサッカーだが、バランキージャなどの北部では野球も盛んだという。コロンビアのウインターリーグは"登竜門"的な位置づけにあり、過去には日本人選手もプレーしている。

【メジャー実績組と若手が融合】

 今回のWBCに臨むチームでは、投手陣の大黒柱として、MLBでシーズン2ケタ勝利を6度記録している37歳の左腕ホセ・キンタナ(ロッキーズ)が名を連ねる。さらに、35歳の右腕フリオ・テヘランもMLB通算81勝82敗を誇るなど、経験豊富な顔ぶれが揃っている。

 打者では、ジャイアンツ時代の2020年に二塁手としてシルバースラッガー賞を獲得したドノバン・ソラーノ、レイズ時代の2023年に12本塁打を放ったハロルド・ラミレス、MLBで通算10年のプレー歴を誇るジオ・ウルシェラら、実績あるメンバーが名を連ねている。

 いずれも30歳を超えるベテランが中心だが、一方で将来を嘱望される若手も控えている。ESPNが「2026年WBCで注目すべきプロスペクト」として紹介したのが、22歳の二塁手マイケル・アローヨ(マリナーズ傘下)だ。2025年は1AでOPS.934、2Aで同.717を記録した打力が注目を集めている。同記事では、23歳の三塁手ダヤン・フリアス(ガーディアンズ傘下)の名前も挙げられている。

 また、NPBにゆかりのある選手もいる。最速167.4キロを誇る右腕タイロン・ゲレーロ(現レッドソックス傘下)は、2022年と2025年にロッテでプレーし、来日1年目には49試合に登板して3勝3敗3セーブ、24ホールドを記録した。さらに、昨季オリックスで50試合に出場したジョーダン・ディアスも代表入りを果たしている。

【心理学の専門家でもある異色の指揮官】

 個性豊かな面々を率いる監督のモスケラは現在39歳で、侍ジャパンで言えばアドバイザーを務めたダルビッシュ有(パドレス)と同世代だ。昨夏にドミニカでインタビューすると、落ち着きと知性を感じさせる指揮官だった。

 コロンビアの野球一家に生まれ、祖父は1947年にIBAFワールドカップを制した同国代表のメンバーだった。いとこはホワイトソックスでブルペン捕手、継父はヤンキースのスカウトを務めた。

 モスケラも野球に熱中して育った一方、医者でもある祖父から学業の重要性を説かれ、大学で心理学の学位を取得。その後はドジャースと契約し、のちにパイレーツへ。28歳までコロンビアのウインターリーグでプレーし、パイレーツのスカウトに転身した。

 中南米ではスカウトや指導者としてMLB球団と母国のチームを兼任するケースがよくあり、モスケラはパイレーツのスカウトを務めながら母国コロンビアでU−10やU−12のチームを指導した。2016年には同国U−15代表監督として福島県いわき市でのW杯に出場している。ちなみに日本戦は6対10で、宮城大弥(オリックス)も登板した。

 パイレーツでは2020年から指導者として携わる一方、コロンビアウインターリーグの名門カイマネス・デ・バランキージャの監督として2022年カリビアン・シリーズで初優勝に導いた。

 モスケラは日本代表の井端弘和監督のようにユース世代の指導歴を誇ることに加え、MLBではスカウトや監督を務め、かつ心理学の専門家でもあるから物事を多角的に捉えることができる。英語も堪能だ。

 だからこそ、さまざまなチームから引くてあまたなのだろう。

現在監督を務めるパイレーツのアカデミーには、ドミニカやベネズエラという中南米に加え、韓国やオーストラリア、ウガンダなど多様な国籍の選手が在籍しているが、チームをまとめ上げる秘訣をモスケラはこう話した。

「監督を務めるには、まずは野球に対する情熱を持っていなければならない。同時に自分が持っている知識や情報を、選手にうまく伝えられる準備も必要だ。我々のチームにはさまざまな国から来た選手がいて、学び方もそれぞれ違う。だから私が一番大事にしているのは、選手たちとしっかりつながること。そして、彼らが毎日少しずつ成長できるようにすることだ」

【前回大会でアメリカからあわや大金星】

 こうした手腕が評価され、今回のWBCでは予選に続いてコロンビア代表の指揮を任されることになった。

 前回大会では同国代表のベンチコーチを務めたが、モスケラには心残りがある。1点差で敗れたアメリカ戦で、ベンチの意思疎通がうまく図れなかったことだ。

「我々には勝利するチャンスがあった。2対1でリードして迎えた5回一死二、三塁で打席にマイク・トラウト(エンゼルス)を迎えた時、私は監督に『歩かせてゴールドシュミット(現ヤンキース)と勝負しませんか?』と提案したんだ。でも監督は『いや、この打者と勝負しよう』と言って、結果的にトラウトにヒットを打たれ、その後のゴールドシュミットはセカンドゴロのダブルプレーだった。私の提案は採用されず、試合に敗れた。

アメリカのようなチームと戦う時は、ひとつでもミスを犯すと必ず代償を払うことになる。ああいうレベルの選手たちには、完璧な試合をしなければならない」

 もしコロンビアがトラウトを歩かせていたら、アメリカに大金星を収めていたかもしれない──。あくまで"たられば"だが、コロンビア代表はそれほどの地力を備えていたのだ。

 人口約5300万人の同国は、これまで30人以上のメジャーリーガーを輩出してきた。モスケラによると、過去5年で野球の存在感は高まっているという。もし今回のWBCで結果を残すことができれば、さらなる追い風となるかもしれない。

 コロンビア野球の未来をかけて、モスケラ率いる代表チームはWBCで初の1次ラウンド突破に挑む。

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