第6回ワールド・ベースボール・クラシックWBC)で連覇を狙う侍ジャパンにとって、グループリーグ2戦目の相手は韓国だ。国際大会に並々ならぬ意気込みで臨んでくる韓国は、これまでも日本代表の前に幾度となく立ちはだかってきた。

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イチロー発言でチームは結束】

 WBCの日韓戦で、今なお語り継がれるのが2006年の第1回大会だ。日本は最終的に初代王者に輝いたが、大会フォーマットの関係で韓国と3度対戦し、結果は1勝2敗。唯一、負け越した相手が韓国だった。

 当時、韓国代表の捕手としてメンバー入りしていたのが洪性炘(ホン・ソンフン)だ。韓国プロ野球(KBO)で18年間プレーし、2004年には最多安打のタイトルを獲得。ゴールデングラブ賞にも6度輝いた名捕手である。

「初めて開催された大会だったので、全選手が優勝を目指し、すべてのチームに勝とうと意気込んでいたよ」

 現在、ドミニカ共和国にあるパイレーツのアカデミーでコーチを務める洪は、20年前の第1回大会をそう振り返った。

「とくに日本は強力なライバルチームだと見ていたので、韓日戦は勝利したいと思っていた」

 そして今も語り継がれているのが、アジアラウンド開幕前の記者会見でイチローが放った、「向こう30年は日本に手は出せないな、という感じで勝ちたいと思う」の発言だ。

 このイチローの並々ならぬ意気込みを、洪はどう捉えていたのだろうか。

「イチロー選手の発言は、韓国では意図どおりに伝わりませんでした。とても失礼なことを言っている、と受け止められたのです。それで韓国代表は『我々の力を見せよう』と結束を固め、大会に臨みました」

【脅威だったイチローのバッティング】

 韓国は東京ドームで行なわれた第1ラウンドの日本戦で、0対2から3点を奪って逆転勝利。さらに舞台をアメリカへ移した第2ラウンドでも日本を破った。そして、その直後に"あの事件"が起きた。

勝利に興奮した徐在応(ソ・ジェウン)が、太極旗(韓国国旗)をマウンドに突き立てたのだ。

 イチローは「野球人生で最も屈辱的な日」と苦々しい心情を口にしたが、なぜ韓国はあのような行動に出たのだろうか。その理由を、洪が代弁する。

「他国の選手があのシーンを見た時は、とても失礼に見えたかもしれない......。マウンドの近くに太極旗が転がっていて、それでマウンドに立てたみたいだ。ほかのチームが見れば、『あいつは何をしているんだ?』と無礼に映ったと思う。でも、そういう意図はなかった。韓国では感動的なシーンだと捉えられた」

 決して、意図して屈辱を与えようとしたわけではなかったという。数々の因縁が生まれた第1回WBCの日韓戦。それほど両国はライバル意識をむき出しにして戦ったということだ。

 同じ大会で3試合対戦し、洪にとって日本代表で特に印象に残ったものは何だっただろうか。

「もちろんイチロー選手だ。

バットの使い方が柔軟で、コンタクトの技術に優れている。日本のチャンスメーカーであり、打席に迎えるのは脅威だった。しかも、いろいろなことがあり、韓国に闘志むき出しで向かってきた。彼はすさまじかった」

 韓国にイチローの恐怖が植えつけられたのは、試合前の打撃練習だったという。

「常に反対方向へ打ち返す姿を見て、『なんてえげつないバッティングをするんだ』と感じさせられた。スムーズな打撃動作でボールを捉えていくし、試合でも韓国の投手たちに完璧にコンタクトしてみせた。すばらしい打撃だったね」

【韓国が国際大会で勝てなくなった理由】

 第1回WBCの準決勝で韓国に雪辱を果たした日本は、その勢いのまま初代王者に輝いた。3年後の2009年大会でも連覇を達成。さらに前回大会(2023年)では3度目の優勝を成し遂げている。

 一方、韓国は国際舞台で苦しんでいる。WBCでは過去3回続けて1次ラウンドで敗退中だが、なぜ、思うように勝てなくなっているのだろうか。

「それは難しい質問だ......」

 ため息をついた洪は、韓国球界の"構造問題"を口にした。

「以前、韓国の選手たちは日本やアメリカに挑戦して多くの経験を積み、それをほかの選手たちに共有し、国際大会での戦いに生かしていた。しかし、現在は韓国国内で高い年俸を得られるようになったため、海外に出て経験を積むのではなく、国内にとどまる選手が増えている。その結果、選手たちが現状に満足してしまい、実力の向上につながっていないように感じる」

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第1回WBCに韓国代表の捕手としてメンバー入りしていた洪性炘 photo by Ryu Voelkel
 たしかに、1998年から中日で活躍した李鍾範(イ・ジョンボム)、2000年代にロッテや巨人でパワーを発揮した李承燁(イ・スンヨプ)など、以前は韓国のトップ打者がNPBにやって来た。投手では朴賛浩(パク・チャンホ)が1994年にドジャースに入団し、MLBで通算124勝98敗という成績を残した。

 現代表にはジャイアンツの李政厚(イ・ジョンフ)、ドジャースの金慧成(キム・ヘソン)とMLBでプレーする野手はいるが、投手の育成は長らくうまいっていない。洪が続ける。

「アメリカの球団は近年、韓国人投手にあまり関心を示していないんだ。韓国人投手のストレートの球速や変化球が、アメリカのチームにとって魅力的に映らなくなっているからだろう。そのため、アメリカや日本の球団は韓国の投手に目を向けなくなっている」

 現在メジャーでは、フォークを操る日本人投手たちが高く評価され、リーグ全体でも落ちるボールを投げる投手が増えている。

 対して、KBO各球団のエース格を務めるのは外国人投手たちだ。そうした影響が韓国代表にも及んでいるのではないだろうか。それが元韓国代表で、現在MLB球団で最先端を知る洪の見解だった。

 はたして今回のWBCでは、韓国代表はどうなるだろうか。

「日本はもちろん、チャイニーズ・タイペイの選手たちも実力が大きく向上していて、簡単に戦えるレベルではなくなっている。韓国代表は、相手を徹底的に分析することが必要だ。そうしなければ、アジアのチームに勝つのは難しいと思う」

 初戦は打線の大量援護を受けてチェコに11対4で快勝。韓国にとって山場となる2戦目の日本戦は、投手陣が侍ジャパン打線をいかに封じられるかがポイントになるだろう。

 楽しみな日韓戦が、両国の行方を大きく左右しそうだ。

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