野球人生初のワールド・ベースボール・クラシックWBC)で、最初の登板機会が回ってきたのは初戦のチャイニーズ・タイペイ戦の3回二死満塁。13対0と大きな点差があるにしても、日本代表の藤平尚真(楽天)が二番手でマウンドに上がった状況は決してラク楽ではなかった。

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【中継ぎ専門職の誇り】

「いつもどおりなので......。中継ぎとしてマウンドに上がることに変わりはなかったので、とくに気持ちのブレというものはなかったと思います」

 5球で空振り三振に仕留めた場面を、藤平は冷静に振り返った。

 シーズン開幕前に行なわれるWBCには、さまざまに独特の事情がある。先発の山本由伸が3回途中で交代したのは、前の打者に四球を出した時点で53球と、一定の球数に達したからだ。試合後、井端弘和監督はこう説明している。

「山本投手の球数は決まっていました。どのイニングでも球数で代えるということで、二死満塁の一番厳しい場面になってしまいました。でも、藤平投手にはいい経験になったと思います。僅差でも、ああいうピッチングをできるのではないかと思っていますので」

 藤平によると、山本のあとを受けて二番手で登板すること自体は予定どおりだったという。

「ブルペンには初回から入りました。『今日はどれだけ接戦でも、点差が開いても、由伸のあとに行く』と言われていたので。由伸のあとは緊張しますけど、ゼロで帰ってこられてよかったなと思います」

 順番的には予定どおりだが、二死満塁のピンチ。井端監督が「いい経験になった」と言ったように、無失点で切り抜けたのは今回の侍ジャパンにとって大きい。

宮崎合宿中に平良海馬(西武)、石井大智(阪神)、松井裕樹(パドレス)が故障で辞退し、中継ぎのスペシャリストが3人も削られたからだ。

 代わって真っ先に招集されたのが、2024年オフのプレミア12で好投した藤平だった。

「僕も松本裕樹さん、大勢もそうですけど、 チームに3人しか中継ぎがいないなかで、そこの専門職というところでは、僕たちのほうが慣れています。そこは本当に自信を持っていきたいなと思っています」

【山本由伸のあとを継ぐという緊張感】

 ピンチで求められるのは、三振を狙ってとる投球だ。藤平自身、そう考えて相手打者を迎えた。

 3番の林安可(リン・アンコー/西武)に対して初球、選んだのはカウントを取るフォークだった。

「あの場面でいって、僕が何を狙われるかというと、相手は真っすぐを狙ってくると思うので。そういうなかでファウルを取りにいく、空振りを取るということで、ゾーンの中にフォークを投げる。そこから決め球につなげていける配球を意識して、初球フォークで入りました」

 初球はフォークを真ん中低めに投じてストライク。つづけたフォークは低めに外れたが、3球目は外角高めに151キロの真っすぐを投じ、ファウルにさせて追い込んだ。4球目は外角高めに釣り球の真っすぐをはさみ、勝負の5球目。内角低めにフォークを投げ込み、バットに空を斬らせた。

「今日のミーティングでもいろいろ話をしました。しっかり高めの真っすぐと、(ストライクを取る)ゾーンのフォーク、決め球のフォークをしっかり使っていこうと言ってもらったので、そこは意識してブルペンでも投げていました」

 登板前から万全の準備を整え、いざピンチのマウンドでは練習どおりに投げて、イメージどおりに三振を奪ってみせた。

 マウンドでの堂々たる姿から一転、藤平らしい素直な様子を見せたのが、試合後のミックスゾーンだった。エース・山本由伸のあとを受けるのは、独特の緊張感があったと語った。

「あれだけすごい選手ですし、あそこの場面で僕が打たれた場合、由伸に点が入って防御率が上がってしまうと思ったので。何としてもゼロで抑えて、防御率0.00の状態でいってほしいなと思って投げました」

 緊張感をプラスにつなげられるのは、勝負師の資質と言えるだろう。

 チャイニーズ・タイペイ戦は大量リードでの登板だったが、前回大会で宇田川優希(オリックス)が担ったイニング途中の火消しは、球数制限のあるWBCではとくに不可欠な役割だ。3人しかいなくなった中継ぎ陣で、はたして誰がその役割を務めるのか。藤平が初戦で出した答えは、侍ジャパンにとって大きな収穫だった。

「先発の方たちはあまり経験していないところだと思いますし、本当に僕たちのほうが経験はあると思うので。球以前に、経験というところをしっかり踏まえて、やっていいこととやってはいけないことをしっかり判断して、投げていければいいかなと思います」

 侍ジャパン投手陣がチャイニーズ・タイペイ打線を1安打に抑えての快勝。なかでも光ったのが、5球でピンチを脱した藤平の仕事だった。

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