日本で野球の試合が行なわれる時、特別な視線を向けられるのが「4番打者」だ。打線の中心であり、勝負を決める存在と期待されている。

 第6回ワールド・ベースボール・クラシックで連覇を目指す侍ジャパンが初戦のチャイニーズ・タイペイ戦、つづく韓国戦で4番に起用したのが、メジャーリーガーの吉田正尚(レッドソックス)だった。

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【吉田正尚を4番に置く理由】

 なぜ、日本代表の4番は吉田なのか。初戦のあとに聞かれた井端弘和監督は、こう答えている。

「吉田はすごく状態がよく、1番(の大谷翔平)から流れをくんだ時に(4番が)適任かなと」

 1番・大谷翔平(ドジャース)、2番・近藤健介(ソフトバンク)、3番・鈴木誠也カブス)、そして4番・吉田正尚。ヒットメーカーとして期待される2番・近藤はここまで無安打だが、2試合つづけて上位打線が爆発力を発揮し、13点を奪って勝利した3月6日のチャイニーズ・タイペイ戦につづき、翌日の韓国戦では8点を挙げて2連勝を飾った。

 先発・菊池雄星エンゼルス)が1回表に3点を先行されるなか、鈴木は直後のツーランを含めて2本塁打。大谷は3回、前日につづく大会2号の同点弾を放った。

 身長193センチの大谷、同183センチの鈴木というトップメジャーリーガーのふたりが圧倒的なパワーを披露している一方、ひと味違った凄みを見せているのが173センチの"マッチョマン"吉田だ。ひと振りで、確実に仕留めていくのである。

 2対3で迎えた3回一死、大谷の右中間への本塁打で追いつくと、二死後、鈴木がレフトに勝ち越しソロ。韓国が2番手投手のチョ・ビョンヒョンに交代した直後、吉田はライトスタンドに大会1号を突き刺した。

「カーブがポンと浮いたので、うまく止まって1球で仕留められたと思います」

 交代直後の初見の投手に対し、技ありの一打だった。

「短期決戦はどんどんピッチャーが代わってきますので、それにしっかり対応できるように」

【失投をひと振りで仕留める集中力】

 5対5の同点で迎えた7回裏には、二死満塁から鈴木の押し出し四球で勝ち越した直後、吉田がセンターへの2点タイムリーで貴重な追加点をもたらした。

「イケイケの展開でしたし、甘く入ってきたところを1球で仕留められてよかったです」

 確かに、147キロのストレートが真ん中高めに来たところをしっかり捉えた。

さかのぼって3回のライトへの本塁打も、真ん中高めに甘く入ったカーブを見逃さなかった。いずれの打席も初球のストライクに手を出さなかったあと、相手の失投をひと振りで仕留めている。

 さらに言えば、3回の打席は二番手投手が登板した直後の初球、微妙な判定だった。真ん中高めのストレートをストライクとコールされたが、少々高くなかっただろうか。少なくとも筆者にはそう映ったが、吉田は不満そうな様子を微塵も見せなかった。

「もう切り替えて、1球1球できたと思います」

 微妙な判定の直後に失投を捉えるまで、吉田は何を思っていたのだろうか。胸の内を知りたくて、ミックスゾーンでテレビ局のインタビューに1分20秒ほど答えて帰路につこうとする吉田を引き留めた。問いかけに返ってきたのは、上記のシンプルな答えだった。

 たとえ微妙な判定でも、すぐに頭を切り替える。そして、次の球をひと振りで仕留める。

 大一番の勝負どころで仕事を着実に果たすことができるのは、MLBで3シーズンを積み重ねたなか、能力が磨かれていったからだろうか?

「集中力が大切になると思います」

 またしても、シンプルな答えだった。余計な言葉がないから、大切な内容が明瞭に伝わってくる。

 吉田の集中力と言えば、思い出されるのが前回大会の準決勝・メキシコ戦で7回に放った同点3ランだ。内角低めの変化球を技術とパワーで弾き返した一打は、集中力あってこそだろう。

【理想の4番像はない】

 大事な場面で仕事を果たすから、周囲は「4番」として期待したくなる。今回のWBC初戦のチャイニーズ・タイペイ戦後には、ミックスゾーンでこんな質問が飛んだ。

── 今回の代表では初めて4番に入りましたけど、その4番というのはいかがでしたか?

「みんな4番を打てるバッターばかりですので、打線の"線"になれるように。それだけです」

── この代表での理想の4番像というのはありますか?

「ないです」

 周囲に惑わされず、自分のペースを貫き、着実に仕事を遂行する。だからこそ、井端監督は是が非でも吉田を必要としたのだろう。

 1月26日、WBCに出場する30人の全メンバーが発表される予定だった同日、明かされたのは29人だった。後日、最後のひとりとして告げられたのが吉田だ。その裏では、所属球団のレッドソックスと水面下で交渉がなされていたのだろう。

 WBC開幕後、吉田は2試合つづけて結果で応えた。韓国戦のあと、井端監督はこう称えている。

「なにより押し出しのあとの2点タイムリーが非常に大きかったですね。彼の打席での集中力は、球界でもナンバーワンじゃないかなと思っています」

 1番・大谷を中心に、どうすればより多くの得点を奪えるか。4番をまかされた吉田は、非常に重要な仕事を果たしている。

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