名将が語る「令和の高校野球」~東洋大姫路・岡田龍生監督

 3月19日に開幕した第98回選抜高校野球大会。指名打者制が導入され、7イニング制が検討されるなど、高校野球界は過渡期を迎えている。

そんななか、長きにわたり指導者として実績を残してきた3人の名将に「令和の高校野球」について語ってもらった。まずは、履正社時代の2019年夏に全国制覇を達成し、2023年から母校である東洋大姫路の監督に就任し、2度目の日本一を目指す岡田龍生監督だ。

【高校野球】謹慎処分が変えた名将の指導論 履正社を頂点に導い...の画像はこちら >>

【選手の気質や特徴に応じてアップデート】

 強豪校がひしめく激戦区・大阪で、履正社を1987年4月から2022年3月までの35年間にわたり指導。1997年夏に同校を甲子園初出場へ導き、2019年夏には悲願の全国制覇を果たした岡田龍生監督。 

 2023年からは母校である東洋大姫路の指揮を執り、これまでに3度の甲子園出場を果たした。14年ぶりの出場となった昨夏の甲子園では、チームをベスト8へと導いた。さらに今年からは、侍ジャパンU−18代表の監督も兼任する。

 数々の実績を誇る64歳の指揮官だが、選手の気質や特徴に応じて、常にアップデートし続けてきた。

 T−岡田(元オリックス)、山田哲人(ヤクルト)、井上広大(ロッテ)ら強打者育成に長けたイメージがあるが、1997年の甲子園初出場時はバントを多用するチームだった。

「学校名の『リセイシャ』をちゃんと読んでもらうことすらできない状況でした。とにかくバントを多用しましたね。府大会で35、36個したんとちゃうかな。甲子園の初戦も、最後はホームスチールでした(笑)。

それくらい打てなかった」

 今いる選手の特性を見極め、その時々で最適な戦術とチームづくりを行なう。指導法についても、当初は厳しさを前面に出していたが、2002年に謹慎処分を受けたことを機に方針転換した。

 その後は選手と面談を重ねるようになり、現在では「しっかりと話ができる選手が多い時は勝てる」と語る。勝利と育成のバランスについても、「人間的に成長すれば野球の技術も向上するし、そういう選手が増えればチームは勝てる。育成はできるのに勝てないというのは、采配の問題です」と笑う。

【別格だった坂本誠志郎】

 話ができる子──その最たる例が、坂本誠志郎(阪神)だ。昨季は正捕手としてリーグ優勝に貢献し、今季は侍ジャパンの一員としてWBCにも出場した。

「あんな高校生はいないですよ。坂本みたいな社員がいたら、その会社はほんと楽です。投手交代も坂本が決めていましたし、人を見る力があるので対等に話ができました。配球にも必ず根拠があり、こちらが聞けばきちんと答えてくれる。ウチ(東洋大姫路)の捕手は、まだ黙りますけどね(笑)」

 履正社時代の強化を語るうえで欠かせないのが、「通い」というスタイルだ。寮は設けず、一部の下宿生を除いて選手は自宅から通っていた。

 岡田監督が「甲子園で優勝した高校で、履正社の前となるといつになりますか。佐賀北あたりまでさかのぼらないといけないのではないでしょうか」と語るほど、近年の強豪校では珍しい形態だった。 

「初出場の1997年と、優勝した2019年を比べると、選手ひとりあたり平均で身長は2.4センチ、体重は10.6キロ増えました」と語るように、履正社の選手たちの体は着実にたくましくなっていった。管理栄養士の指導を取り入れたことに加え、「通い」である利点を最大限に生かした成果でもあった。

「とくに野球は、小さい頃から二人三脚で取り組んでいる家庭が多いので、お母さんにも協力してもらおうと考えました。もちろん、それぞれの家庭の状況に応じてですが、少し意識するだけでも違うんです。たとえば、『コーラではなくオレンジジュースにしよう』とかね。ですから、親御さんにとって大きな負担になるものではなかったと思いますし、なかには『お母さんは管理栄養士ですか?』と思うほど意識の高いご家庭もありました」

【トラブルが起きた時の対応策】

 一方、東洋大姫路では寮生が8割を占める。もともと下宿生が多かったが、それでは管理に不安があり、学校に要望したところちょうどいい物件が見つかったという。

 それでも大事にするのは自主性だ。どのように育むのかを尋ねると「『ほんとにプロに行きたい』という選手に来てもらうことですね」と断言する。

「高校生ですから、気持ちや取り組む姿勢が落ちる時もあります。

ただ、そういう時には『プロに行きたいと言っていたんじゃないのか』『大学で野球を続ける選手はお金を払ってプレーするが、おまえはお金をもらって野球をやろうとしているんだろう。だったら同じような練習ではいけないんじゃないか』と声をかけます。プロの世界では、家族を養うなど生活がかかっているなかで、『やらされている』感覚で練習している選手はいません。そういう覚悟を持った選手が、チームを引っ張っていくのです」

 またトラブルへの対応についても、現代の実情に即した形で行なっている。

「生徒同士のトラブルは当事者だけで解決するのは難しいので、『まずは私たちに相談しなさい』と伝えています。私たちのほうが適切な進め方を理解していますからね。保護者の方にも『苦情が出ていますので、一度お越しください。こうしたことがあり、以前にもお伝えしましたよね』と説明すれば、それ以上大きな問題になることはありません。必ずそのようなプロセスを踏むようにしています。あとは履正社時代の同僚で弁護士になった方がいるので、万が一の場合にも対応できるようにしています」

 東洋大姫路の監督に就任してから3年が経った。目指すチームづくりについては、「ちょっとずつではありますが、近づいています」と語る。指揮官として2度目の頂点を、母校で狙っている。

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