── 両投げ左打ち?
スコアブックに九州国際大付(福岡)の先発メンバーを書き込んでいたところ、8番・指名打者(DH)の岡松里樹(りき/3年)のプロフィールに引っかかりを覚えた。
誤植ではない。
身長169センチ、体重65キロ。いかにも小柄な控え遊撃手だが、両投げという希少性をどう活用するというのだろうか。
【高校に入って初めてスタメン出場】
3月22日、選抜高校野球大会(センバツ)の1回戦、神戸国際大付(兵庫)との4対3(11回タイブレーク)の死闘を制した試合後、岡松のもとを訪ねてみた。
この日、岡松は2打席に立ち、投手ゴロと三塁ゴロ。3打席目に代打を出されて交代している。ちなみに、この試合が高校に入って初めての先発出場だったという。
「初めてのスタメンが甲子園なんて、ビックリしました。今日は母が応援に来ているんですけど、たぶん喜んでくれていると思います」
昨秋は代打要員として公式戦では3打数1安打。センバツ初戦前日の練習で満塁本塁打を放ち、楠城祐介監督から「明日は8番・DHでいくぞ」と告げられた。
「DHでも代打と同じ気持ちで、1打席1打席入りました。
試合の感想をひと通り聞いたあと、核心に迫ることにした。「両投げ」とは、どういうことなのか。岡松は少し照れ臭そうに、こう答えた。
「右ではショートをしていて、左ではピッチャーをしているんです」
にわかに理解が追いつかない。そんな様子を察知したのか、岡松は補足をしてくれた。
「自分は小さい頃から右投げと左投げを使い分けできるのがストロングポイントだったんです。中学の頃は、両投げでピッチャーもやっていました。高校ではピッチャーをする機会は少ないんですけど、左投げだけ継続しています。たまに練習試合で最後の1~2イニングを投げることもあります」
幼少期から手先が器用で、訓練したところ右でも左でも違和感なくボールを投げられたという。
【中学時代は織田翔希と対戦】
現在は左投手として最速127キロを計測し、変化球はカーブ、スライダー、チェンジアップを操る。岡松は投手兼遊撃手としてプレーした折尾愛真中時代の逸話を教えてくれた。
「両投げ用のグラブを使って、相手が右打者の時は右投げに、左打者の時は左投げにスイッチしていました。
控えめな口調とは裏腹に、語られるエピソードはオリジナリティーにあふれていた。
中学3年春には北九州市大会の決勝戦で足立中と対戦。足立中のエースは、今やドラフト1位候補の織田翔希(横浜)である。
「ふつうのピッチャーなら低めのボールは多少(球筋が)垂れるんですけど、織田選手は低めが伸びてきました。今までに見たことのない球でしたね」
この試合は遊撃手で出場したため、両投げ投手として織田と対戦することはなかったそうだ。試合は折尾愛真中がサヨナラ負けを喫している。
学業成績優秀だった岡松は、当初は文武両道の公立進学校を志望していた。だが、「野球のレベルが高いところでやりたい」と方針転換し、エリートが集う九州国際大付に進学する。そこでは岡松の想像を絶する競争が待っていた。
「体がでかいやつが多くて、圧倒されっぱなしでした。本当にここでやっていけるのかなと。1年の頃は試合にも全然出られなくて、正直言ってやめたい時もありました」
それでも、岡松の小さな体には負けん気が詰まっていた。
2年生に進級すると、同じ遊撃のポジションに有望選手の吉田が入ってきた。圧倒的な吉田の実力と過酷な現実に打ちのめされながらも、岡松は「甲子園に行くチームなら、こういうことは絶対にある」と気持ちを切り替えた。2年秋には背番号16をつかみ、ベンチ入りを果たしている。
【イチローの教えで打撃開眼】
昨年11月には、岡松にとって大きな転機があった。イチロー(元マリナーズほか)が九州国際大付の指導に訪れ、ティーバッティングの方法をレクチャーしてくれたのだ。
「イチローさんは左足の前にティースタンドを置いて、アウトコース低めの球をレフト方向に打つイメージで振っていました。バットを内から外に向かって出す形です。自分もイチローさんのようなバッティングスタイルに憧れているので、それからずっと練習しました」
イチロー式ティーバッティングの成果は、徐々に表われるようになった。岡松が苦手にしていた外角球を強く打ち返せるようになったのだ。
「ボールを長く見られるようになって、選球眼がよくなり、打率が上がりました」
岡松が甲子園で先発出場を勝ち取った背景には、「イチローの教え」もあったのだ。
1回戦を突破した九州国際大付は、2回戦で専大松戸(千葉)と対戦する。
そして、岡松にはさらなる野望がある。今春は野手に専念しているが、夏までに左投げの精度を高めたいと考えているのだ。
「夏も甲子園に出て、バッターでもピッチャーでも活躍するのが目標です。甲子園のマウンドで、少しでも左で投げられるようになりたいです」
異色の両投げ選手・岡松里樹。この個性は全国屈指のタレント軍団にあっても埋もれることなく、独特の輝きを放っている。










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