選抜で見つけた「隠れ逸材」たち(後編)
前編:荒木雅博の教えを体現した遊撃手、三拍子揃う捕手、14球で流れを変えた右腕はこちら>>
今大会はスター選手だけでなく、プレーの細部に光る"原石"たちの存在も際立った。強肩強打の捕手、驚異的な身体能力を誇る外野手、そして大物の風格を漂わせる若き司令塔──。
【大会屈指のスローイング】
大会4日目第2試合のシートノック前。近江(滋賀)の選手たちが、大垣日大(岐阜)との初戦に備え、キャッチボールを始めた。ナインの先頭に、いわゆる「主将」のポジションで強肩を披露する背番号2の粘り強い下半身に目を引かれた。
杉本将吾(3年)は、しっかりと割れた股関節を自然と前後へ動かし、体重移動で投げている。近年、こういうスローイングのできる捕手が少なくなった。
「畳にあぐら」から「椅子に腰かける」生活様式への変化が、その一因であることは間違いない。盗塁を阻止するため、しゃがんだ姿勢から立ち上がって送球する捕手にとって、低い姿勢のまま投げられることは大きなアドバンテージとなる。究極は、座ったままの二塁送球だ。
二塁送球タイムは1秒92。きれいな回転で伸びのある低い送球は、今大会でも屈指のスローイング能力とみた。
走る姿も、まるで透明な自転車をこいでいるかのように、下半身が自然に動く。その弾力が前へ進む推進力となっている。
外角低めにスライダーが決まる。左手にミットをはめたまま手を叩き、エース・上田健介(3年)が投じたベストボールを「祝福」している。よく言われる捕手の「リード」とは、こういうことを指すのだろう。投手を案じ、気遣い、励まし、叱り、そして共に喜び合う......。杉本は、「ハート」を持った捕手になれそうだ。
資料によると、選抜まで高校通算26本塁打。昨秋の公式戦では7試合で26打数15安打、打率.577を記録し、チームトップの打撃成績を残している。
初回、完璧に捉えすぎたことでラインドライブがかかり、結果はレフトライナーに終わった。8回には左中間への強烈な当たりを放ち、センターのファンブルを見逃さず、一気に二塁を陥れる走塁も見せた。右の長距離砲としての資質だけでなく、すぐれた野球勘も持ち合わせている。
【驚異の身体能力でスーパープレー】
第5日第1試合。帝京長岡(新潟)と対戦した東北(宮城)の中堅手に目を奪われた。
投手仕様と言っていいほどの全身のバランス感覚と、縦に振り下ろす腕の軌道。投じたボールが、軌道の途中からさらにグイッと伸びて見えるのは、指にしっかりかかったきれいな回転をしているからだろう。
決して手を抜かず、一球一球を丁寧に投げている点もすばらしい。こうした「習慣」が、いざというときに送球精度として発揮されるのだ。資料には「遠投110メートル」と書かれている。
試合前のシートノックでは、ノッカーの打球に対して一気に距離を詰めるスピードが際立っていた。さらに、三塁や本塁への返球も圧巻だった。スローイング能力、守備範囲の広さ、そしてアクションスピードは、今大会注目の外野手のひとりである神村学園の梶山侑孜(ゆうしん/3年)といい勝負だろう。
9回には、左中間寄りのポジションから、右中間へ飛んだライナーをダイビングキャッチするスーパープレー。必死に追いかけて、ギリギリで捕ったわけではない。
「そうなんです。フィールディングにベースランニングと、フィジカルは抜群ですね。助走をつけない立ち三段跳びでは、8メートル30センチを記録しました」
鈴木雄太部長も、その驚異的な身体能力に太鼓判を押す。
打っては4打数2安打1打点。三塁正面へのゴロでも全力で一塁を駆け抜ける。そのひたむきさとスピードは、この目にしっかりと焼き付けた。
「昨年の夏までは守備と走塁が持ち味の控え選手でしたが、バッティングにも地道に取り組み、昨秋は4割近く(37打数14安打、打率.378)を記録しました。間違いなく、今が伸び盛りだと思います。一方で、打てるようになったことで野球の面白さを実感している反面、『いつか打てなくなるのではないか』という不安も抱えているようで......。その両方と向き合いながら戦っている印象ですね。
自信と不安の間で揺れる教え子を、鈴木部長は温かく見守っている。
「人一倍やる気のあるヤツですから、バッティングでも思いが前に出すぎることがあります。もう少し野球的に大人になり、セルフコントロールができるようになってくれればうれしいんですけどね。伸びしろの塊のようなヤツですから......」
【坂本誠志郎のような大物感】
第6日第1試合。春22度目の出場となる熊本工業(熊本)を相手に、大阪桐蔭(大阪)の2年生左腕・川本晴大(はると)が14三振を奪い、3安打完封の快投を見せた。192センチ、95キロ──。これほど雄大な体躯を持つ大型サウスポーが、長い手足を自在に操りながら、これほど気持ちよさそうに、しかも豪快に投げ込む姿は、この50年で見たことがない。
衝撃の「2時間9分」だった。
しかしこの試合、川本と同等、いやそれ以上に注目したのが、熊本工の捕手・中村凌(2年)だった。彼もまた、川本と同じ2年生である。
上手な遊撃手がマスクを被っているようだ......と思ったのは、シートノックの時だ。中村は、宇土市立鶴城中では軟式野球部に所属していた。
捕球から送球への連動も、フットワークも、腕の振りも「どっこいしょ」という感じがまったくなく、それこそ軟球を扱うかのようなソフトなタッチとスピード感は圧巻だ。
投球練習後の二塁送球はすべて1秒8台で、ほぼストライク。捕球時にすでに一歩踏み込んで、握り替えも速く、体の連動にまかせて強く投げようとし過ぎないから、送球の再現性も高い。
また、投手への返球はオールストライク。気分よく投げてもらおうと思ったら、じつは必須の作業だ。
常に相手ベンチに目線を送りながらしゃがみこむ。敵の捕手から見られることを嫌う監督はすごく多い。打者の足元に遠慮なく潜り込み、しつこく体の近くを攻められる「勝負根性」も見上げたものだ。
何度も言うが、これだけの「仕事」ができて、まだ2年生になったばかりなのだ。
「キャッチャー、いいですねぇ!」
松岡順一部長に、そう話を向けたら、「そうでしょう!」と目が輝いた。
「ウチも長い伝統がありますが、これまでにないタイプのキャッチャーです。
西武の黄金時代を支え、2017年に野球殿堂入りを果たしたレジェンドOB・伊東勤をも凌ぐかもしれない──。そんな才能の片鱗を、随所で垣間見せてくれた。
川本との2年生対決では、7回に左翼線へ二塁打。内容としてはサードゴロに近かったが、それ以上に、見上げるほど大きなサウスポーを相手に、一歩も退かずに右打席で堂々と構えてボールを見極め、四球で出塁した第1打席が強く印象に残る。
川本を見て、履正社時代の坂本誠志郎(阪神)を思い出した。坂本も小柄なのに、なぜか"大物感"があった。
プロ野球では2016年から「コリジョンルール」が導入され、本塁上での過度な接触プレーが禁じられた。ショートバウンドの捕球が当たり前となり、高速変化球が決め球となる現代野球においては、165センチ66キロの中村のように、心身の強さと敏捷性を兼ね備えていれば、十分に適性はある。
坂本同様、体格で劣る捕手の絶好のお手本になり得る可能性を秘めている。










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