大阪桐蔭・吉岡貫介~不完全燃焼の春(前編)
選抜大会の閉幕から1週間あまりが過ぎた。4年ぶりに春を制した大阪桐蔭は、息つく間もなく、4月11日から始まる大阪の春季大会に挑み、夏の頂点へ向けた戦いをスタートさせる。
「過去2回の春夏連覇のチームに比べれば力がないのは明らかなので、さらに頑張らないと」とは、西谷浩一監督のコメントだ。過去の連覇といえば、藤浪晋太郎(DeNA)らを擁した2012年、そして根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)らを中心とした2018年である。
春時点での比較で「力がない」との評価はやむを得ないところだろうが、来るべき夏に向けて一本の柱が力強くそびえ立てば、3度目の連覇のイメージも一気に膨らむはずだ。春に悔しさを噛みしめたエースが、夏にどれだけのボールを投げてくるのか。大阪桐蔭の夏を占う最大のポイントは、エース・吉岡貫介にある。
【決勝で投げられなかったエース】
選抜優勝決定の瞬間、甲子園球場のネット裏の通路に設置されたモニター越しに、歓喜の輪へやや遅れて加わる背番号1の姿を確認した。表情までは見えなかったが、輪の一番外側で飛び跳ね、喜びを表現していた。ただ、力を十分に出しきれないままチームが勝ちきったなかでのエースの心境を思うと、少し複雑な気持ちになった。
閉会式が始まるまでの間、三塁側ベンチ前に一列に整列した選手たちは、そのまましばらく報道陣の取材に応じていた。記者たちは背番号を確認しながら目当ての選手に声をかけていくのだが、見つけた「1」の背中はどこか硬く、声かけを拒んでいるようにも感じた。
決勝戦での登板はなく、大会を通して際立った活躍を見せたのは、背番号10の2年生左腕・川本晴大だった。このタイミングで吉岡に聞くべきことがあるのか......。自問しながらも、やはり今この瞬間の声を聞いておきたかった。
── 投げたかった?
「そうですね」
── 今日はリリーフに備えて?
「ブルペンで投げて、準備はしていました」
── 調子は?
「よかったです」
本来は笑顔のよく似合う選手だが、表情は硬く、言葉も少なかった。
智辯学園(奈良)との決勝戦は、7対3で大阪桐蔭がリードして9回を迎えた。最後は、エースナンバーを背負う3年の吉岡に託すのではないか──。そんな思いが一瞬よぎった。
前田悠伍(ソフトバンク)が2年時の2022年の選抜決勝では、最後の2イニングを、3年生の背番号1・川原嗣貴(ホンダ鈴鹿)に任せた場面があった。あの時は大差がついた8回からのスイッチだった。
しかし、今春は9回も川本がマウンドに上がり、最後はじつに15個目の三振を奪って試合を締めくくった。
昨年は春夏とも甲子園を逃し、頂点からは丸3年遠ざかった。わずか3年にもかかわらず、大阪桐蔭に向けられる世間の目は厳しかった。そうした背景もあり、西谷監督は最後まで石橋を叩いて渡った。その結果が川本の完投であり、この春の時点で吉岡への信頼がまだ完全ではなかったことも確かだろう。
とはいえ、この春の活躍によって川本に一気に注目が集まったが、吉岡が万全であれば、その視線を一身に集めていてもおかしくなかった。吉岡とは、それほどの力を秘めた投手なのだ。
【関係者が口を揃えた異次元の球質】
吉岡への関心が高まったのは、1年前の春の大阪大会だった。ゴールデンウィーク中に行なわれた履正社と大阪学院の5回戦を、金光大阪の横井裕一監督と観戦していると、合間に夏へ向けた話題から大阪桐蔭の話へとつながった。すると、横井のトーンが一気に上がった。
「桐蔭にまたとんでもないのが出てきたみたいです。中野(大虎)、森(陽樹)がいて、2年の吉岡がまたとんでもないボールを投げるみたいで。桐蔭と練習試合をしたチームの監督さんが、『大阪桐蔭史上最高の投手じゃないか?』と言っていましたからね。とにかくストレートが速くて、変化球も一級品。打てない、当たらないと絶賛でした」
歴代の大阪桐蔭の"怪物"たちのすごさを熟知する横井である。大阪桐蔭史上最高の投手となれば、藤浪や辻内崇伸、中田翔、前田をも超えることになる。さすがにそこまでは......という思いもあっただろうが、語り手の尋常ではない熱量に、新たな怪物候補の出現を感じたのかもしれない。
その頃から、大阪桐蔭の周辺でも吉岡の名を耳にする機会は確実に増えていった。
「アイツのストレートはモノが違います。胸郭が柔らかく、よく開くんです。その分、肩の回りもスムーズで、リリースまでの距離も取れる。球速だけでなく、ボールの質が高いんです。自分のなかでは、順調にいけば石垣(元気/健大高崎→ロッテ)くらいの評価になるというか、そのレベルの可能性を感じています」
中野とともに前チームで大阪桐蔭のマウンドを支えた森陽樹(現・オリックス)が絶賛したのは、キャッチボールだった。
「試合前のキャッチボールを見てください。とにかくエグいっす。自分も『おまえのキャッチボールはエグい』って言われるんですけど、その上をいっています。どこまでいってもボールが垂れないですから」
大阪桐蔭でおもにスカウティングを担当する石田寿也コーチは、昨夏前の時点でこう語っていた。
「回転数は森並み、回転効率(ホップ成分を示す指標)は中野並み。ふたりのいいところを備えたストレートです」
さらに、これまで幾人もの怪物を見てきた西谷監督も、その球質をこう表現する。
「ストレートが"飛んでくる"んです。僕のなかでは弾丸のイメージで、打者に迫ってくるほどボールが大きく見える。ほかとはちょっと違うストレートです」
【怪物覚醒の直後に訪れた異変】
昨夏のチームには中野、森という二枚看板がいたため、吉岡の大阪大会での登板は、決勝までの7試合中わずか2試合にとどまった。
記録を振り返ると、3回戦(星翔戦、13対0)では1イニングを投げ、奪った3つのアウトはすべて三振。つづく4回戦(天王寺戦、16対2)では先発し、2回を投げて被安打1、奪三振3と、片鱗を感じさせる結果を残している。
そんな吉岡がベールを脱いだのは、昨年の秋だった。
勝てば近畿大会出場が決まる大阪大会準決勝の金光大阪戦で、被安打2、奪三振14の完封勝利。奇しくも春に吉岡のすごさを伝えてくれた横井監督は、試合後、敗戦の悔しさを通り越し、あきれたような笑みを浮かべながら嘆くしかなかった。
「エグい! なんですか、これは......」
その体型やストレートの質からは、山本由伸(ドジャース)や石井大智(阪神)らの系譜を思わせる。その吉岡は試合後、記者からの質問に対し、あれほどの投球を見せたにもかかわらず、何事もなかったかのように終始淡々と受け答えしていた。
「2週間前の大商大戦では力んでしまったので、まずはストライク先行を意識しました。前半は直球も変化球もコントロールできたのがよかったです。
この時、選抜に出場すれば大きな注目を集めるのは間違いないと確信していた。しかし、1週間後の大阪大会決勝・近大附属戦では、まるで別人のような投球だった。戦いの最中に本人が口にすることはなかったが、コンディション面に何らかの問題を抱えていたことは明らかだった。
大阪1位で臨んだ近畿大会でも、好投手・丹羽涼介を擁する市和歌山との初戦、つづく天理(奈良)戦はいずれも川本が先発。吉岡は準決勝の神戸国際大付(兵庫)戦を含め、初戦でリリーフとして3イニングを投げたのみ。出力の高さゆえの宿命か。一抹の不安を残したまま、新怪物候補は秋の戦いを終えた。
つづく>>










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