無理もない。
自らが自陣ペナルティエリア付近で失ったボールを相手につながれ、決勝点を献上してしまったのである。誰もが悔しい敗戦だったが、悔恨の思いは誰よりも強かったに違いない。
ワールドカップ決勝トーナメント1回戦となるラウンド32で、日本はブラジルに1-2で敗れた。
試合序盤からブラジルにボールを保持される展開が長く続いたが、前半29分、中盤でパスカットした佐野海舟がそのままゴール前まで持ち運んでミドルシュート。これがゴール左隅に決まり、日本は先制することに成功した。
ところが後半、攻勢を強めたブラジルが日本ゴールに迫る回数を増やすと、日本は後半56分に同点ゴール、後半アディショナルタイムの95分に逆転ゴールを許し、万事休した。
2018年ロシア大会のベルギー戦から8年、またしても試合終了間際の失点による逆転負けである。
決勝ゴールを喫した場面、確かに田中は、奪ったボールを味方につなごうとして相手に奪い返され、それが失点に直結している。
実はその直前にも、田中は右サイドの深い位置でボールを持ったとき、簡単に蹴り出すことをせず、ドリブルで運ぼうとして相手に奪い返されている。
単純にクリアしていれば問題なかった、のかもしれない。
しかしながら、さらに時計を少し巻き戻すと、佐野が、菅原由勢が、クリアで逃げるシーンが続いていた。
特に佐野のそれは、自陣ペナルティエリア内ではあったものの、周囲には味方選手もおり、パスをつないで前進できるのではないか、とも思える状況だった。
クリアばかりしていても、ブラジルの連続攻撃を浴びるばかりで、埒(らち)が明かない。このままでは、後半の残り時間を守りきることは難しい。
田中がそう考えたとしても不思議はない。
チームとしての戦い方が徹底されていなかったと言えば、そうなのかもしれないが、どうにか状況を打開しようとした田中を責める気にはなれない。
そもそも、あれだけペナルティエリア内にボールを入れられ続ければ、どんなに粘り強く守っていても、思わぬ"事故"も含めて失点する可能性は高まる。
相手にカウンターをちらつかせつつ、試合を落ちつかせる、あるいは押し返す。そんな時間が間違いなく必要だったからだ。
「現実として(相手に攻められ続けて)、やっぱり90分間守備をしたっていう感覚が残っている」
そう語る伊藤洋輝は、ブラジルの同点ゴールのシーンについても、こう振り返る。
「センターバック(ガブリエウ・マガリャンイス)があの高さまで来て、ボックス脇からクロスを上げるっていうのは、僕らが本当に押し込まれる状況が続いた時間だった(ということ)。より(ゴール前に)入ってくる人数もかけてきたし、どんどんシンプルにボックスのなかに(ボールを入れてくる)っていう感じだった」
前半はさすがのブラジルも無為な横パスが目立ち、効果的な攻撃は少なかったが、後半に入ると、ギアチェンジ。日本への圧力を強め、疾風怒涛の攻撃でゴールをこじ開けた。
得意の粘り強い戦いから勝機を見出したい日本にとっては、前半に先制し、望みどおりの展開で進んだはずの試合だったが、結局は地力の差を見せつけられたと言うしかない。
「セカンドハーフ(後半)の戦い方も踏まえて、まだ日本は強豪国と対等に渡り合えるレベルじゃないのかなっていうふうに痛感させられたというか......」
うつむき加減に語る冨安健洋が、こう続ける。
「守備時でも主体的にやることができないと、彼らとは対等に渡り合うことはできないし、けど、それがわかっていたからこそ、ワールドカップで勝つためにこういう戦い方を貫いた。着実に少しずつは前進しているとは思うけど、本大会でブラジルだとか、他の国も含めて、そういう(強豪)国にどう勝っていくかってところは、個人的にはまだまだなんだろうなと思う」
たとえば、今年3月に行なわれたイングランドとの親善試合がそうだったように、日本は守ってカウンターという戦い方を手に入れたことで、確かに勝ちパターンは多彩になった。
だが、これだけ相手にボールを保持され続け、攻め返す暇を与えられなくなってしまえば、いずれどこかで決壊してしまう。
そこで行なわれた選手交代も、堂安律に代えて菅原を、中村敬斗に代えて鈴木淳之介を投入するというもの。その顔ぶれを見れば、守備強化であることは明らかだ。
つまりは、押し返せないなら守りきろう、である。
しかしながら、1点リードのまま試合終盤を迎え、ブラジルに焦りが見えてきたのならともかく、すでに同点に追いつかれ、さらに猛攻を受けている状態とあっては、結果的に相手を勢いづかせるだけの選手交代となってしまった。
そんな状況のなかに途中交代で送り出された田中は、だからこそ、どうにかして勝利への道筋を見出そうとしたのではないだろうか。
やはり田中を責める気にはなれない。
彼がひとりで敗戦の責を背負う必要はない。

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