宇野昌磨は本田真凜とのアイスダンスで新境地を切り開く 高橋大...の画像はこちら >>

 7月31日、愛知県の愛・地球博記念公園アイススケート場では、アイスショー『Ice Brave-A TURNING SEASON-』が開幕を迎えていた。

 最大の目玉は、座長でもある宇野昌磨(28歳、トヨタ自動車)が現役復帰を決めたアイスダンスの演目だった。

宇野が本田真凜と組んだカップル「しょまりん」は2030年五輪出場を目指し、まだ競技デビュー前ながら大きな話題を呼んでいる。その日はリズムダンス『ポエタ』、フリーダンス『四季』が大勢のファンの前で初披露になった。

「日々の練習のなかで"いいな"と思える演目を作れていました。今の練習を続けていったら、きっとすばらしいものになるなって。僕はよほど自信がないと大口は叩かないんですけど、そう言えるだけの演目を作れているかなって」

 初演後、宇野はそう言って胸を張ったが、観客の大声援がプログラムの魅力を裏付けていた―――。

 ショー序盤の見どころで、しょまりんは『四季』の楽曲に乗って滑っている。鳥のさえずりのなかで春の命の煌めきを、最後は冬に降る雪の結晶のような切なさを、ユニゾン(ふたりが調和して動く)で表現した。息の合ったツイズル、リフト、そしてダンススピンは溶け合うようだった。カップルとしての華を感じさせた。

 まだまだ改善点はあるが、暗く(照明は演出のため、めまぐるしく変わり)、狭いリンクで、競技プログラムをショーサイズで滑るというのが、どれだけ難しいか。

「先輩方にも『アイスダンスはシングルよりもリンクサイズを変えたときに、すごく違いを感じる』と言われてきたんですが、ここまでかって」

 宇野はそう明かし、こう説明を続けた。

「シングルだったら"壁が近いから曲がろう"とか、滑りながら考えられるんです。

でも、アイスダンスは事前にふたりで想定しないと成り立たない。アイスダンスはシングルのようにジャンプとか目立った成功や失敗はないですが、ふたりの動きのひとつひとつが合わないと全部、失敗につながって。ひとりがふたりになるだけで、こんな難しいんだって純粋に感じています。ひとりだとジャンプも滑り方も個性になりますが、アイスダンスはふたりでそれを合わせて、タイミングも同じでやらないといけない。そこは難しさですが...ただ、ふたりで揃ったときのすばらしさも練習をしながらも感じられているんで、これからよくなっていくはずです」

 宇野はアイスダンスの本質に向き合いながら、調和する楽しさも感じていた。

 それは、アイスダンス1年目の高橋大輔の証言とも重なるものだった。

「課題しかないです」

 新競技に挑み始めたばかりの高橋は、現実と真摯に対峙していた。

「今までひとりでやってきたので。自分の思いだけでなく、ふたりでやっていく、という気持ちの面でまず違う。人と気持ちをすり合わせるというか、そこから変えていく必要があると思います。お互いをよく知ることが、最初の段階で」

 一方で、高橋はこう言葉を継いでいた。

「アイスダンスを、もっと知りたいと思いました。

そうすれば、スケートの広がりが感じられるはずで。今の自分は(スケートに関して)競技者か、プロか、その境をなくしています。どっちか、というのはありません。もちろん勝たないと注目してもらえないし、形としては競技者になりますけどね」

 宇野も競技者か、プロか、という境界線をなくした演技を見せることになるだろう。

 ショー終盤の『ポエタ』はフラメンコの楽曲で、ふたりはより近い距離で滑った。それぞれの衣装の黒と赤が混ざり合うようで、実際、宇野は全身が黒で、本田は赤いドレスだったが、右半身は黒い布で覆われていた。ふたりが同じステップを踏むと、スパニッシュギターの弦を弾く音に調和した。そして律動が上がると、狂おしい激情が増していった。

「日々が楽しいですね。毎日たくさんの練習を積み重ね、"もっとこうしたい"って」

 宇野は朗らかな声で言う。

「(ショーの準備は)練習内容が濃く、量も多くなるほど、さらに求めてしまいますね。試合をやるだけよりも、圧倒的に体力が使われていて。

今は思い残すことがないほど全部やって、日々成長できている実感があるので、"今日はここができた"ってひとつひとつクリアしながら。結果、これから臨む競技の場で、自分たちが望むものができたら、きっと誇りに思える、感動できる現役生活になる予感があります。まだまだ過ごした時間は短いですが」

 彼はアイスダンス競技のシーズンに向けて準備しつつ、ショーではシングルソロも含めて仕上げながら、座長としても全体をけん引している。複数のミッションをやり遂げる苦難に挑むことを、どこかで楽しんでいるようだった。それが革新につながり、新たな自己の創出につながることがわかっているのだろう。現役に戻ることでスケートへの没入感が増し、その深淵に近づいたのか。

「こうしたインタビューの感じも、現役選手に戻ったなって感じています」

 宇野はそう言っておどけ、こう付け加えた。

「ストイックさのところでは、これがアスリートだなって実感しています。でも、このメンバーでアイスショーを続けていきたいっていうのもあって。現役選手だけど、アイスショーや社会人として違う部分も頑張りつつ。生きていくために頑張らないといけないなって思っています」

 アイスショー『Ice Brave』では、そうして殻を破りつつある宇野の姿を目撃できるだろう。愛知公演後は、8月8、9、11日に東京辰巳アイスアリーナで全6公演が行なわれる予定だ。

小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

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