アジア大会 注目選手
競泳・平泳ぎ/大橋信

 9月19日から10月4日まで愛知県・名古屋市を心に、32年ぶりの日本開催となるアジア大会が行われる。

 競泳では、2028年ロサンゼルス五輪での金メダルも意識しているという平泳ぎの大橋信(枚方SS/四條畷学園高3年)に注目する。


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【日本選手権で北島超えの最年少3冠】

 大橋が注目を集めたのは、今年3月の日本選手権(2026年は3月と6月の2回開催)だった。平泳ぎ100mでは、2位を0秒91突き放す58秒67の日本記録で優勝。翌日の50mでは26秒98の高校記録を出して優勝を果たした。そして、200mは日本記録に0秒19差まで迫る、2分06秒59(世界ジュニア新)で優勝し、3冠を達成した。

 彼の特徴は、大きく泳ぐのではなく、速いテンポの独特な泳法だ。

「小さい頃は掻けば掻くほど速くなると思っていましたが、体が上下するだけの速いテンポの泳ぎでした。中学生になってから少しずつ考えて泳ぐようになり、徐々にななめ前に出て、ななめ下に沈む泳ぎになっていきました。枚方SSのコーチは、選手の特徴を潰さない方針なので、『止めろ』とは言われませんでした」

 大橋が一気に成長したのは昨年、多くの経験をして刺激を受けたからだった。指導する枚方SSの太田伸コーチは、その成長ぶりをこう振り返る。

「世界ジュニアの代表に選ばれたことで、昨年5月にシニアの代表選手たちと一緒に練習させてもらいました。その時に打ちのめされて、『早くあの人たちと戦いたい』という気持ちが強くなったようです。続くヨーロッパグランプリでは、世界のメダリストと泳いで、自分のひと掻き、ひと蹴りの弱さや、相手のストロークの長さなどを実感しました。どんどん伸び始めたのはそこからです」

 それまでは、平泳ぎ200mの自己ベストが2分09秒22だったが、昨年6月の大阪高校選手権では2分07秒27をマークし、7月の近畿高校選手権では200m2分06秒91まで記録を伸ばした。

 さらに世界ジュニアでは100m、200mともに2位。この悔しさが、その後の飛躍につながった。

【目指すは世界記録】

 そんな高みを目指す姿勢が、大橋が一躍注目を集めた3月の日本選手権でも現れていた。

 平泳ぎ200mで世界記録(2分05秒48)を意識して、前半の100mは世界記録ペースを0秒86上回る59秒86という驚異的な入りをした。150m通過までは、世界記録ラップを上回ったものの、「ラスト50mでは、みんなの応援する声も全部聞こえていたのですが、それを力に変えきれませんでした。その前のラスト75mぐらいから、どんどんきつくなって、最後はほぼ力が出ない感じで泳いでいました」と失速。

 結果、日本記録にも届かなかったが、大崩れすることなく自己新記録で泳ぎきった。その時の泳ぎを太田コーチは、こう振り返る。

「本人が世界記録を狙いたいと言っているので、そのためにはああいうチャレンジを1回してみるのはいいかなと思いました。もう少し前半を抑えていたら日本記録は出たと思いますが、本人の意識はそこではないという感じで......。今は勢いがあるから行きたいと思っているのだと思います」

 男子平泳ぎで日本記録を更新し、世界記録に挑む姿は、2000年代初頭の北島康介を想起させる。大橋は、「強くなりたい」「速くなりたい」という気持ちから、北島を育てた平井伯昌コーチにも、日本選手権前の高地合宿時にハイスピードでの入りを相談していたと言う。

その時のことを平井コーチはこう話す。

「『前半を59秒で入ろうと思っているけど、どう思いますか?』と聞いてきたので、それは速すぎだと思ったけど、否定してはいけないと考え、『それ、さすがに速いけど、いいんじゃないか。でも最後に浮いても知らないぞ』と言いました(笑)。

 そういうマインドを持てるのも才能でしょうし、そんな速さで入ってくる"超天才"みたいな選手がいると、周りも『何をやってくるかわからないやつがいる』と警戒するし、世界から見たら脅威です。

(3月の日本選手権で)最後はへばったけど、(挑戦は)続けてほしいですね。信は練習でもしっかり泳ぎこめるタイプだから、北島みたいなスタイルにするよりは、信の特徴を生かしてやるほうがいいと思います」

 フォーム作りは基本的に自分でやっているという大橋だが、その進化の礎ともなっているのは、太田コーチが「水泳が好きでいろんな選手の映像をすごく見ているし、自分の泳ぎがどう変わっていくかも見ている」という探究心の強さだ。

 今季は、6月の日本選手権は強化途中で臨んだ大会だったこともあり、200mでは優勝したものの、50mと100mで2位に終わった。また、シニア初代表となった8月のパンパシフィック選手権では、100mで2位になり、日本記録を更新したものの、「疲労があった」とふり返った200mでは、150mまではトップに立ちながらも3位と悔しい結果に終わった。

 だが、今大会は泳ぎ慣れた東京アクアティクスセンターが舞台となる。アジア大会では、かつて2002年に北島康介が200mで世界記録を樹立し、その後、世界の頂点に立った。日本のお家芸である男子平泳ぎを受け継ぐ彼が、その再現にどこまで迫れるか、注目だ。

折山淑美●文 text by Toshimi Oriyama

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