’26年も止まらない物価上昇。もはや生活するのが精いっぱいと感じる日々だが、街にはなぜか「安すぎて怖い!」と思ってしまう店が存在する。
掘り出し物ばかりの超激安アウトレット店に、前代未聞の「0円」配布店まで! 怖安のカラクリに迫った!

60~80%引きは当たり前。“怖安い”アウトレットの裏側

 ディスカウントストアや業務スーパーなど家計を助ける「激安店」は、これまで人々の生活を支えてきた。都市部では数年前から、賞味期限間近の商品や余剰在庫を安く売る「半額ショップ」も相次いで登場している。だが、ここ最近はその“安さ”がさらに一段階進み、半額どころか60~80%オフは当たり前。なかには「0円」で商品を配る店まであるのだ……。

 いったい、どうすればそんな値段で商売が成り立つのか。まず向かったのは、“埼玉一安いアウトレットショップ”を掲げる「39アウトレット埼玉店」だ。

 西武池袋線・入間市駅から徒歩13分。ショッピングプラザサイオスの2階に「39アウトレット埼玉店」はある。同店のコンセプトは「まだ価値のある商品を、必要とする人へ、より手に取りやすい価格で届けること」。それを体現するように、店前には堂々と「賞味期限切れ食品 店頭価格から60%引き」の垂れ幕が掲げられていた。さっそく店内に入ると、倉庫のような空間に食品、日用品、アパレル、家具、雑貨が混在……。
段ボールが山積みの売場で値札を確認すると、やはり60~80%引きが当たり前だ。

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「80%引きは当たり前、0円配布も」物価高なのに“安すぎて怖い店”の裏側。扱う商品の基準は「店主が食べられるか」それでも客とのトラブルは無し
「怖いほど安い店」の裏側
 この日はここから半額というワケのわからない大決算セールが行われていた。ほかにも、型落ちのAmazonブランドの日用品やペット用品、さらに18禁ののれんが掛かったコーナーまで!記者が手に取った缶詰は定価500円が100円、定価1020円の「PREMIUM TENGA」を250円でゲット。

「掘り出し物じゃん!」と心で叫びつつ、次々とカゴに放り込んでしまう危険な空間だった。

二束三文の買い取りでも、廃棄コストのほうが高い

 どうやって60~80%引きで利益が出るのか。その理由は、流通に乗らない商品や賞味期限の迫った商品などのワケあり品だ。流通ジャーナリストの渡辺広明氏が儲けの裏側を解説する。

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渡辺広明氏
「Amazonなどのネット流通で箱が潰れていて返品になったり、卸業者が余剰在庫を抱えていたりするので、そういうものが激安業者に流れてきます。食品の製造原価は定価の15~20%が平均的ですが、業者側からすると廃棄するほうが輸送費も処分代もかかります。二束三文でも買い取ってもらえば捨てるよりも得。だから、半額以下で投げ売りしても十分に利益が出るんです」

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倉庫のような39アウトレットの店内。日用品や雑貨、衣類、食品など大体のカテゴリーでは分かれているものの、来店客は段ボール箱を漁りながら“掘り出し物”を探す
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返品されたままらしき段ボールが乱雑に積み上げられた店内。売り物かわからない、謎のマネキンがこちらをまっすぐに見つめている
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現在のAmazonでは調べても出てこない、型落ちらしきAmazonベーシック「トイレブラシ&ホルダーセット」799円(3826円から79%オフ)
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「ソープディスペンサー」500円(2173円から77%オフ)
 また、かつての激安店と違い、宣伝広告にお金をかけずとも集客しやすい環境になってきている面もある。渡辺氏が続ける。

「昔からご当地で有名な激安店はありましたが、店頭に目玉商品を置いて、在庫の山をただ安く叩き売るだけでした。
今は消費者の側にフードロス削減やSDGsへの理解が高まり、“賞味期限切れでも品質に問題なければOK”という意識が広がっています。その追い風を受けて、お店側もチラシを刷って折り込む時代から、SNS、ネット販売を駆使して“ワケあり品から掘り出し物を探す楽しさ”を演出する時代に変わった。儲ける仕組みそのものが変わってきているんです」

基準は店主が食べられるか、食べられないか

 その一方で、生真面目な熱い思いに支えられている「怖安い」のお店もある。

 足立区の住宅街にひっそりと店を構えるワケあり食品専門店「エコロマルシェ」だ。’19年に開業し、現在は通信販売でお菓子や飲料、お米、レトルトなど、さまざまなワケあり食品を販売している。ほぼ全品が賞味期限切れ商品だが、仕組みが根本的に異なる。店主の尾形祐介さん(53歳)はこう話す。

「80%引きは当たり前、0円配布も」物価高なのに“安すぎて怖い店”の裏側。扱う商品の基準は「店主が食べられるか」それでも客とのトラブルは無し
食品専門店「エコロマルシェ」
「80%引きは当たり前、0円配布も」物価高なのに“安すぎて怖い店”の裏側。扱う商品の基準は「店主が食べられるか」それでも客とのトラブルは無し
エコロマルシェ店主の尾形祐介氏。飲食業での廃棄体験が契機となり、食品ロス削減を掲げてエコロマルシェを開業。メール対応から発送まで全工程を一人で担い、自ら毎日賞味期限切れ品を食べて安全性を確認するポリシーを貫く
「ウチに相談がくるのは、一般企業の備蓄品交換時の廃棄品や小売店・卸業者から期限切れの在庫商品が持ち込まれるケースが多いです。なので、全体の半分以上の商品は無償での引き取りです。先方には『販売先ではなく、廃棄ではない処分方法として考えてください』と話して、買い取る場合でも1個あたり数円から数十円ですね」

 そこから販売価格はどうやって決めているのか。

「定価の70~90%引きぐらいにハマる感じですかね。でも適当につけちゃってるものも多いです(笑)。なかには値段がつけられない商品もあるので、“0円”と書いて店前に置いたり、ご近所さんに配ったりしてます」

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なす漬けの素0円
 同店で扱う商品の基準は、驚くほどシンプルだ。
尾形さん自身が「食べられるか、食べられないか」。店主自らが実食して安全性をたしかめた商品だけが棚に並ぶ。客とのトラブルは、7年間で皆無だという。

 実は、賞味期限切れ食品の販売や購入は法律上問題ない。賞味期限はあくまで「おいしく食べられる期限」であり、安全性を示す消費期限とは異なる。販売者が品質を確認したうえで売ること自体は違法ではないのだ。

「80%引きは当たり前、0円配布も」物価高なのに“安すぎて怖い店”の裏側。扱う商品の基準は「店主が食べられるか」それでも客とのトラブルは無し
エマージェンシークッキー、税込み64円。開始時点ではワケあり品が手に入らず、店舗商品の8~9割が通常品だった。その後、ワケあり食品の他店や仲介業者からの仕入れを開始したという
「賞味期限なんて他人がつけた数字で、その日付だけ見て判断して廃棄する。それこそが、今の食品ロスを生んでる原因になっちゃってるんですよ。僕はほぼ365日三食、期限切れ商品を消費してるんで、“日本一賞味期限切れ品を食べている男”を自負してます(笑)。7年ぐらいお店をやっていますけど、過去にお腹を壊したのは1回だけです!」

「あえて決済機能を外した」通販では平均客単価5000円超のワケ

 ’25年11月末に店舗営業を終了し、通販専業へシフト。店舗時代の客単価は500円程度だったが、通販では平均客単価5000円を超える。その仕掛けは送料にあった。


 通常のネット通販なら商品をカートに入れて決済まで一気に進むが、同店はあえて決済機能を外した。顧客が注文を押すと「ショップからのご連絡をお待ちください」と止まり、そこで尾形さんが仮梱包して箱のサイズと送料を算出。さらに「あと半分空きがありますけど追加しますか?」とメールで伝えると、ほぼ全員が追加注文するという。つまり、箱単位で送料を設定することで、1個数十円の商品でも送料負けせずに売れるというわけだ。

「80%引きは当たり前、0円配布も」物価高なのに“安すぎて怖い店”の裏側。扱う商品の基準は「店主が食べられるか」それでも客とのトラブルは無し
ネット通販では一度に27万円分を購入した人も。ちなみに、以前は引き取る基準もゆるめに設定していたが「届いた箱を開けたらネズミの糞尿まみれだった」ことも……。店内中を消毒するハメになったので基準を厳しくするようにしたと尾形さん
 8000億円ともいわれるフードロス市場。尾形さんのもとには、無償提供の商品を販売することに非難の声も届くというが、こう反論する。

「今は相談メールのやりとり、サイトの管理、発送作業までひとりでやっているので、儲けようと思ってやっていない。ただ、活動を続ける固定費や家族を養っていく責任があるので、その分だけ確保できればいい。今は経費を引いてサラリーマンの平均年収ぐらいの利益ですね」

 これらの激安ビジネスの供給源は永遠に続くのか。前出の渡辺氏は「余剰在庫の確保が難しくなってくるのではないか」と指摘する。

「80%引きは当たり前、0円配布も」物価高なのに“安すぎて怖い店”の裏側。扱う商品の基準は「店主が食べられるか」それでも客とのトラブルは無し
記者が帰り際にお土産でもらったお菓子の賞味期限は11年前。日本一賞味期限切れ品を食べている男の姿勢は最初から最後まで一貫している
「食品・飲料を製造する大手メーカーはプライベートブランド商品の開発に軸足を移していることや、セブン‐イレブンが商品の製造日から賞味期限の3分の1が経過するまでに店舗へ納品する仕組みから2分の1へルール変更しました。それによって不良在庫が減少し、激安店への供給も少しずつ縮小していくので、激安店も徐々に消滅していくかもしれないです」

 損して得する小売り業者、廃棄予定品をお金に変えるお店、掘り出し物に歓喜する客。
怖安い店の裏には三者の利害が交錯している。

「怖安い」激安店の裏側
●メーカー/仲卸は廃棄より売ったほうが得
●備蓄品交換時の廃棄を引き取り
●期限切れ在庫商品をほぼ“無償”で買い取り
●箱単位で送料負けしない工夫
●陳列簡素化・人件費カット

【流通ジャーナリスト 渡辺広明氏】
東洋大学法学部経営法学科卒業。流通ジャーナリスト、コンビニ評論家。780品超の商品開発に携わった“売れる理由”の専門家。著書に『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)など

<取材・文/吉岡俊>

―[「怖いほど安い店」の裏側]―
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