F1第15戦アゼルバイジャンGPレビュー(前編)

「エンジンにトラブルがあると思う。BOX(ピットイン)する」

 第15戦アゼルバイジャンGP決勝の20周目、フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)はそう告げるとスロットルペダルを緩め、ピットに戻ってマシンを降りた。

 スタート直後のターン1でバルテリ・ボッタス、ターン3でセルジオ・ペレスをかわしてキャデラック勢の前に出たものの、次のメインストレートでペレスに抜き返され、アロンソはお決まりのお手振りを見せた。

 一度抜かれれば、もうついていくことはできないと、アロンソ自身がわかっていたからだ。

【F1】アロンソの心はすでに折れていた 「すまない」と告げ、...の画像はこちら >>
「1本のストレートで0.7秒(のロス)だ!」

 アロンソの無線が飛んだ。

 1周目のセクター3で、ペレスに対して0.685秒の遅れを取ったことを指していたのだろう。

 実際には、キャデラックがラップ前半でエネルギーをセーブし、メインストレートで集中的に使うエネルギーマネジメントを行なっていたからこそ生まれた差だった。しかしそれがわかるのは、あとになってからだ。

「最初にキャデラック(ペレス)を抜いたけど、その後に抜かれて引き離されて、それから数周の間はバルテリ(・ボッタス)とバトルをしたね。5~6回くらい抜きつ抜かれつを繰り返したけど、最後はピットに戻らざるを得なくなった」

 アロンソは3周目の終わりにボッタスに抜かれ、そのまま引き離されるかと思われた。だが、実際には追随し、7周目には1秒以内に入ってオーバーテイクモードへ切り替えた。11周目と12周目にはターン3で並びかけたものの、抜ききれなかった。そこでエネルギーマネジメントのモードを変え、13周目のターン3でオーバーテイクに成功した。

 ただ、そこでエネルギーを使えば、そのぶん別の区間が苦しくなる。

 エンジニアの指示を受けながら、抜かれる心配のないツイスティな区間では手動でディプロイメントをカットし、次のメインストレートに向けてモードを切り替えるなど、さまざまな工夫を重ねた。しかし、続くターン1でボッタスに抜き返されてしまった。

【抜いても簡単に抜き返される屈辱】

 ストレートでスロットルペダルを全力で踏んでいても、なす術もなく抜かれていく。

 しかも、上位争いでもポイント争いでもなく、最下位争いでの出来事だ。アロンソのプライドが傷つき、心が折れていく音が聞こえてくるようだった。

「ストレートで1.1秒だ。エンジンが何かクリーンに動いていない。不可能だ」

 もちろん、実際に1.1秒もの差があったわけではない。だが、前を追いかけることでどうにか保っていたアロンソの心のバランスは、ボッタスにも抜かれたことで崩れた。

「モード5。もう一度トライしよう、フェルナンド」

 レースエンジニアのクリス・クローニンにうながされ、アロンソはもう一度モードを切り替え、17周目のターン3で再びオーバーテイクした。しかし、再びメインストレートで抜き返される。

 19周目のターン3でも抜くが、またしてもメインストレートで抜き返される。

 キャデラックは、メインストレートを抜けたあとの1本目のバックストレートからターン3にかけてエネルギーをセーブしているため、その区間で追い抜くのは容易だ。しかし、彼らがエネルギーを使ってくるメインストレートでは、いとも簡単に抜き返される。いわゆる"ヨーヨーレース"だ。

「エンジンにトラブルがあると思う。今や0.8秒だ」

 20周目のターン1で抜かれ、ターン3で抜き返したものの、アロンソの心はすでに折れていた。

 クローニンは「今チェックしているが、現時点でやれることはない」と伝え、不満を述べても誰も得をしないことを遠回しに示していた。だが、アロンソは自らバックオフし、チームからの返答を待たずにピットへ戻ってきた。

「この周の終わりでBOXする、すまない」

 開幕戦オーストラリアGP、第2戦中国GP、第5戦カナダGP、第13戦イタリアGPに続いて、今季5度目の自主的リタイアだった。

◆つづく>>

米家峰起●取材・文 text by Mineoki Yoneya

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