10月のニュージーランド戦で、森保一監督は思い立ったように4バックを採用した。

 サイドバック(SB)には、右に中野就斗、左に鈴木淳之介のふたりが先発した。

それぞれウィングバック(WB)の名残のような不具合を感じさせたものの、サイドアタッカーの堂安律、中村敬斗らが活躍したことを考えれば、システムとしての出来は上々だった。やはりSBがいて、サイドアタッカーがいるほうが組織として無理がないのだ。

 森保ジャパンは、2022年11月のカタールワールドカップで3バックを採用し、2024年1月のアジアカップでは4バックで戦った。しかし、同6月の北中米ワールドカップアジア2次予選のミャンマー戦からは再び3バックに移行すると、以降はそれが基本になった。

 なぜ森保監督は4バックを"放棄"し、3バックで北中米ワールドカップに突っ込んでいったのか。欧州のクラブでは4バックでプレーしている選手のほうが多い。3バックを用いる必然は乏しかった。日本は4バックを、少なくとも手持ちのカードにはすべきだった。

 3バックを採用する理由として「日本にはサイドバックがいない。だから4バックは無理」という意見も少なくないが、それは真実なのか。

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 確かに内田篤人、長友佑都、酒井宏樹がいた時代と比べれば、SBは「人材難」とも言える。3人とも世界有数の人材だった。
もっとも、カタールワールドカップでは長友、酒井がいたにもかかわらず、3バックに移行している。結局のところ、森保監督の志向なのだろう。サンフレッチェ広島を率いていた時代も3バックがベースで、要はフィーリングの問題なのだ。

 逆に言えば、森保監督は4バックの運用に長じていない。だからこそ、2024年のアジアカップでイラクに敗れる失態を演じ、準々決勝でイランに敗れることになったとも言える。その敗因を4バックに結びつける声もあった。守りが崩れたのは、ミスを連発したGK鈴木彩艶を用い続けたことが理由だったにもかかわらず、だ。当時、鈴木はキャッチングに問題を抱え(判断が悪く、メンタル的にも引きずられやすかった)、ミスの連鎖は失点につながった。

 ちなみに鈴木は、その後も何事もなく使われ続けている。その経験を糧にしてGKとして殻を破ったわけだが。

【左の一番手は小杉啓太】

 森保監督は鈴木を重用する一方、SBをうまく使えず見切りをつけた。SBに人材がいないというなら、WBはもっといないだろう。

森保ジャパンに選ばれてきたWB候補のほとんどは、欧州の所属クラブではWBをメインにプレーしていないのだ。

 有力なSBは確実に何人かいる。

 右の一番手は菅原由勢だろう。オランダ、イングランド、ドイツのトップリーグでプレーしてきた実績は伊達ではなく、今シーズン移籍したイタリア・セリエAのカリアリでも出場時間を徐々に伸ばしている。もともと球出しに優れ、クロスの精度も高く、右サイドでは久保建英との相性もいい。WBのようにフィジカル的な対人能力や走力を求められると苦しいが、SBならサッカーIQの高さを発揮できる。

 二番手は関根大輝か。フランスのスタッド・ランスで屈強な選手たちと対峙して研鑽を積んだあと、今シーズンはドイツ2部キールで開幕から右SBの定位置をつかんでいる。身長187cmの体躯を生かした空中戦は、ロングボールの対応やセットプレーの枚数として頼もしい。対人守備はパワーを感じさせ、攻撃のフォローもできる。試す価値はあるはずだ。

 Jリーグでは、横浜F・マリノスの井上太聖を推す。

守備面の強度や勘のよさを感じさせ、攻め上がりの迫力もある。ただし、欧州でプレーする日本人選手が優先されるのは、異国で違うリズムや強度の選手と対峙する修羅場を乗り越えないと厳しいからだ。

 左の一番手は、ドイツ1部フランクフルトで出場機会を増やしている小杉啓太だろう。20歳と若く、何より左利きというのは日本人では貴重で、待望の左SBと言える。サイドで攻守をサポートするプレーは、欧州仕込みの高水準。アジア大会の準決勝ウズベキスタン戦で、石橋瀬凪のヘディングゴールをアシストしたクロスはすばらしく、9月、10月はフル代表のシリーズに参戦していてもおかしくなかった。

 二番手は伊藤洋輝か。バイエルンでの主戦場もセンターバックで、左SBはあくまでオプションだが、左利きでハイスペックの選手であることは間違いない。森保ジャパンでは、カタールワールドカップのコスタリカ戦の失点に関わるミスや、しばしば攻撃でノッキングを起こすなど、SBとしてのイメージは悪い。しかし、それらにはチームのプレーモデルの問題もあるはずだ。

 現状の体調面の不安を別にすれば、利き足の問題をクリアするほどのセンスとパワーを誇る冨安健洋(クリスタル・パレス)も推したい。アーセナル時代、攻撃サッカーを体現した姿は眩しいほどだった。

前輪駆動のチームを失点から救うディフェンスも次元が違っていた。ケガや年齢の影響で当時の再現が望めないにしても、サイドにしっかりとふたをし、攻撃のバックアップはできるはずだ。

 鈴木淳之介(コペンハーゲン)は左右で万能さを感じさせる。残念ながら、SBに求められるサイドのプレーメイカーになる技術やリズムは持っていない。しかし、サイドアタッカーがボールを持ってリズムを作れる場合、その背後を堅実に守りながら縦のスペースを走り、いい連係を生み出せるだろう。中村敬斗、堂安律らと、どちらのサイドでも変わらないクオリティを見せられるはずだ。

 攻撃の仕組みを高める場合は、MFのSBへのコンバートも選択肢だろう。技術と賢さのあるMFとSBには互換性があり、適応に時間を要しない(遠藤航、守田英正、佐野海舟もSB経験がある)。

 スペイン代表のエリック・ガルシア、ドイツ代表のヨシュア・キミッヒはその代表格だ。相手の攻めにふたをして、ボールの出口になることはボランチの基本だが、SBはタッチラインを使えるだけに、むしろ優位に立てる。旗手怜央(バーンリー)は左右のSBの適性があるし、福井太智(アロウカ)にもバルサの新鋭、シャビ・エスパルトのような道はあるのではないか。

 ディフェンダーでありながら、サイドで攻撃の厚みを与えることができる。

SBは日本サッカーのストロングポイントを引き出すために不可欠と言える。堂安、中村、三笘薫、伊東純也、そして久保建英など、サイドアタッカーは恩恵を受けるはずだ。

 今やSBがゲームを作るのは、ひとつのトレンドである。日本人にはテクニカルで俊敏な人材が多く、彼らの可能性を信じるべきだろう。それが「世界」と戦うための正攻法だ。

 11月のブラジル戦とパラグアイ戦には、このうち何人のSBが招集されるだろうか。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya

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