この記事をまとめると



■2022年10月26日に開かれた政府税調で「走行距離税」が提案された



■その背景には電気自動車の普及による自動車関連税の減収にある



■走行距離税の問題として流通を担うトラックやバンの税負担が大きいことがあげられる



新たに提案された走行距離税とは?

すでに各種メディアで報道されているように10月26日に開かれた政府税調で「走行距離税」が提案された。自動車ユーザーからすると、自動車関連税が新設されるという最悪の話題である。



EV乗りからの徴税を目的とする「走行距離税」案! エンジン車...の画像はこちら >>



もっとも、走行距離に課税するという話が出たのはいまに始まったことではない。

すでに何年か前から噂されている。その背景にあるのは環境対応(カーボンニュートラル)としての電気自動車の普及だ。



電気自動車にはエンジン排気量という概念がないため、自動車税はリッターカーと同じとなっているし、事実上の走行税といえるガソリン諸税も免れている。現在の普及レベルであれば無視できる範囲といえるが、将来的にエンジン車が消えてしまうとすれば、事実上の走行税(走ったぶんだけ納税額が増える)として機能していた燃料への課税に変わる何かを考えなければならないというのは、徴税側からすれば予想できる話だからだ。



EV乗りからの徴税を目的とする「走行距離税」案! エンジン車乗りにとっても物流にとっても「増税」の可能性あり



道路というのは走った分だけ傷む。走行距離の多いユーザーに多く課税するというアイディアは、税金は公共サービスを受けている人こそ負担すべきという租税利益説に適っている部分もある。



実際、平成29年(2017年)1月からは車検証の備考欄に走行距離値としてオドメーターの数字が記載されるようになっている。この数字を基準とすれば、車検ごとに走行距離に応じて税を課すことはフローとしては不可能ではない。



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そして、この方法を使えば燃費性能に優れたハイブリッドカーでも、そもそも燃料を使わない電気自動車でも、走行距離に応じて道路整備などの公共サービスを享受している対価として納税することになる。理屈としては通っており、国民の理解を得られると考えているのかもしれない。



とはいえ、もし走行距離税が新設されるとして、単純に増税をするというのは難しいだろう。2019年10月に環境性能割という名前の実質的な環境税が設定されたが、その際には自動車取得税が廃止されている。



走行距離税は物流への影響が大きすぎる

もし走行距離税が新設されるとして、それが上記で予想したように車検時に課税されるものだとすれば、自動車重量税からの置き換えとなるかもしれない。もっとも、そうしてガス抜きしつつ、実質的には増税するというのは政府・官僚の常套手段であり、一部のケースでは実質減税になるというシミュレーション的プロモーションをみて納得することがないようにしたいものだ。



ところで、走行距離税の問題といえるのは、流通を担うトラックやバンの税負担が大きくなってしまうことだ。物流への増税というのは、各種商品の小売価格上昇に直結する。インフレ対応が求められる現在において、小売価格が上がるような政策を推進するというのは考えづらい。



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商用車については走行距離税を軽減するといった対応もあり得るだろう。

現在でも乗用車より商用車のほうが自動車税などの税率は低くなっている。もし走行距離税が新設されるとしても、商用車と乗用車では単価なりを変えるべきといえる。



そうなると、一般ユーザーが商用車をパーソナルユースに使うというトレンドが生まれるかもしれない。たとえば、ダイハツ・アトレーはフルモデルチェンジによって5ナンバーの乗用車から4ナンバーの商用車となったが、4ナンバーは各種税率が低く、維持費を抑えることができるというユーザーメリットを実現するためだったりもする。



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古くは、初代のスズキ・アルトはボンネットバンと呼ばれる商用車とすることで、車両本体価格のみならず維持費の安さでもアピールして大ヒットモデルとなった。はたして、税制変更によって、市場トレンドは変わってしまうのだろうか。



もちろん走行距離税には反対意見も多く、課題も山積みといえる。いずれにしても自動車ユーザーの負担は現状でも大きい。増税を検討するよりも減税をしてほしいと願うユーザーが多いはずだ。