この記事をまとめると
■現在の市販車にはF1からフィードバックされた技術を搭載するモデルが少なくない■最近では、マセラティとメルセデスAMGが、それぞれF1技術を応用したエンジンを開発している
■カーボンモノコックフレームやグランドエフェクトなどもF1で培われてものだ
マセラティの最新ハイパーカーもF1技術を搭載
「マジかよこのエンジン」と思わず唸らされたのは、マセラティが2022年秋に、ニューモデルのミッドシップスポーツ「MC20」を発表したときのことだった。その美しいボディフォルムに一瞬で魅了されたことも忘れられない体験だったが、もっとも大きな感動は、冒頭に触れたとおりそのエンジンにあった。
スペック表で簡単に書くならば3リッターV型6気筒DOHCターボ。
この3リッターエンジンには、ネットウーノの名が与えられているが、これはマセラティが本社を置く、イタリアのモデナの象徴ともいえるネプチューンを意味している。

エンジンそのものをネーミングするあたりには、マセラティのネットウーノにかける意気込みが伝わってくるが、はたしてパッシブプレチャンバー(副燃焼室)とはどのような技術なのだろうか。
これは小さな副燃焼室、実際にはプラグの先端を覆った程度のスペースの中でまず混合気を点火。ここで発生した火炎をメインの燃焼室に送り、混合気を瞬時に燃焼させるというシステムだ。燃焼時間の短縮化、熱効率の向上等々、このシステムにはさまざまなメリットがあり、マセラティは堂々とF1由来の技術と主張する。

F1のパワーユニットのなかで、現在もっともその重要性が話題となっているエネルギー回生システムも、すでに市販車への導入が始まって久しい。ただし、それが市販車で実用化されているのは、一般的には運動エネルギーを電気エネルギーへと変換するMGU-K(モーター・ジェネレーター・ユニット・キネティック)のほうで、これはF1の世界では2014年シーズンから導入が可能になった技術(その前身となったKERSは2009年に採用が始まった)。
キネティック、すなわち運動エネルギーをブレーキング時などに回生し電気を生み出し、必要時にはモーターを介してICE(内燃機関、現在では1.6リッターのV型6気筒)のアシストを行う仕組み。
昔からF1は実験室として多くの技術を輩出してきた
メルセデスAMGは最新のハイパーカー、AMG ONEにそれを搭載しているが、その目的は、おもにエレクトリック・モーターによるターボラグの解消にあるということだ。ちなみにMGU-Hの開発は非常に難しいが、メルセデスAMGは今後もその採用モデルの拡大を計画しているということだ。

1979年、マクラーレンが製作したMP4/1で採用したカーボンファイバーモノコックは、もはや現代のスーパーカーやハイパーカーでは珍しくない基本構造体だ。その特長はもちろん軽量で高剛性であること。
ちなみにマクラーレンのプロダクションモデルにおける最新のモノコックは、MCLA(マクラーレン・カーボン・ライトウエイト・アーキテクチャー)と呼ばれるもので、それはPHVシステムの搭載とともに大きな話題となった。

カーボンモノコックを使用するモデルは、価格的にもかなり高価なモデルになるが、実際に走りを体験してみればその効果が絶大であることは一目瞭然であるといってもよいだろう。
このモノコックやエンジンをカバーするボディも、F1マシンからさまざまなテクニックを応用している。2022年のレギュレーションでは、「シンプリフィケーション」、すなわち簡素化をキーワードに、ボディの下面でダウンフォースを得る、いわゆるグランド・エフェクトカーとしてのデザインが主流になったが、これは後続車が前走車による乱流を受けて安定性を損なう危険性を減少させるための策だった。

ロードモデルにおけるグランド・エフェクトカーといえば、フェラーリが360モデナでそれを採用した頃から他社もまたそれに追従するようになったが、今回、F1マシンが新たにその方向性を打ち出したことで、ボディ上面に多くの空力コンポーネントを持つモデルは徐々に減少していくのではないかという予想もある。

つまり、各社のデザイナーは、基本となるシルエットとボディ下面にいかに高速で(高圧で)エアを導入し、それを効率的に車体後方から抜き去るかに重点を置いたデザインを生み出す必要に迫られることになる。
これからのスーパーカー、ハイパーカーは、よりクリーンでスムースなデザインになると予想したいのだが、はたしてそれは正解だろうか。