この記事をまとめると
■クルマのカテゴリー分けで「MPV」という言葉が欧米でよく使われている■日本でMPVのカテゴリー名をわかりづらくしているのはマツダMPVが存在していたからだ
■クルマのカテゴリー分けに明確なルールはなく、統一基準で分類することはできない
多目的車両を意味するMPVというクルマ
現在ではミニバンやクロスオーバーSUVと呼ばれるカテゴリーのクルマを1990年代の日本では「RV」と呼んでいた。これは「Recreational Vehicle」の略称で、レクレーションを楽しむための遊びクルマという意味合いだ。まだまだミニバンやSUVの選択肢が少なかったこともあり、ひとつにまとめていたのだ。
ただし、英語圏で「RV」というのはキャンピングカー的なクルマを指すイメージが強い。20世紀の日本でRVに分類されるモデルの一部は、北米でMPVと呼ばれていた。これは「Multi-Purpose Vehicle」の略称で、直訳すると「多目的乗用車」となる。

ただし、クロスオーバーSUV的なモデルがすべてMPVと呼ばれていたわけではない。
そもそもSUVという言葉は1980年代には北米で使われていた。余談めくが、当初のSUVというのは、ピックアップトラックの荷台をキャビンとして乗用仕立てにしたモデルという意味合いだった。日本でいうと初代のトヨタ・ハイラックスサーフや日産テラノといったモデルが典型的なSUVだ。トラックベースだったSUVを、乗用車のプラットフォームを利用して生み出したことが「クロスオーバー」と呼ばれる所以でもある。

それはさておき、20世紀のMPVというのはミニバンよりはクロスカントリー4WDに近いシルエット・メカニズムという印象が強い。一部には3列シートの多人数乗車パッケージであることもMPVの条件と考えている人もいるだろう。
日本でそうした印象を生んでいるのは、1990年に国内販売が始まった「マツダMPV」の影響が大きいことだろう。

カテゴリー名をそのまま車名に使うというのは、ユーノス・ロードスターなど当時のマツダのブランディングに共通する部分であるが、このモデルが日本でのMPVというカテゴリーの基準となったことは間違いない。
MPVというカテゴリーに基準は存在しない
初代MPVは、エンジン縦置きのFRプラットフォームにV6エンジンを積んだ高級志向のモデル。3列シートではあるが、リヤドアはヒンジ式で、じつは初期の駆動方式はFRのみだった(のちに4WDが設定された)。

この初代マツダMPVは、1999年まで販売されるロングセラーモデルとなったが、それもあって日本でMPVはカテゴリー名として浸透しなかったという印象もある。MPVという表記が特定の車名を示しているのか、カテゴリーを指しているのか、文脈から理解しなくてはならないため、メディアでMPVという言葉が使いづらかったというのも影響しているだろう。
なお、マツダMPVは、1999年にスライドドアボディでFFプラットフォームベースの典型的なミニバンとして生まれ変わった。その後、2006年に3代目へと進化したが、2016年にはマツダがスライドドア車から撤退するということで生産終了になっている。

現在、MPVという表記を見かけることが多いのは欧州マーケットだ。
たとえばメルセデスはVクラスについてMPVというカテゴリー名で表現している。そして、欧州ではスライドドアの乗用車をMPVと称している印象が強い。

そのため、ルノー・カングーに代表される2列シートのスライドドア車もMPVにカテゴライズされているようだ。MPVは3列シート車の呼び名とはいえないのだ。

モヤモヤが残る結論で申し訳ないが、自動車のカテゴリー分けというのはマーケティング的であり、主観的であり、明確なルールは存在しない。
日本でいえば車検証に明記される車体の形状(箱型・幌型・ステーションワゴンなど)が、ほぼ唯一の公が認めた分類である。それ以外の、セダンやスポーツカー、ミニバンといったカテゴライズは業界やユーザーが勝手に呼んでいるだけといえる。

その意味では、自分が「このクルマはMPVである」と思えばMPVに分類すればいいだろう。もっとも、それが万人の共通認識とならないことは各人が自覚しておくべきだ。