この記事をまとめると
■運転時の体感速度はクルマによって異なる■何が体感速度に影響を及ぼしているのだろうか?
■関係しているのは目からの情報だけではないという
関係しているのは目からの情報だけではない
30年近く前のこと、私は東京・日本橋から三重県・鈴鹿サーキットまで、2週間かけて歩いて行ったことがある。その道中話はいずれ機会があればということだが、その際、一日30~40kmを歩くための筋力や体力は、3日ほどで身についてしまったことに驚いた。その経験から、人間は想像以上に素早く新しい環境に馴染めることを知った。
高速道路を1時間も運転すれば、時速100kmで走る感覚が身につく。その速度感覚によって、インターチェンジを降りたあとの一般公道で、つい速度超過をしてしまいそうになったことのある人は多いのではないか。これも、人間が新しい環境に馴染みやすい事例といえるだろう。したがって高速道路を降りたときは、一般公道の速度制限をより意識することが肝心だ。
速度感覚は、情報の90%近くを依存する目からの情報が大きいと思うだろう。それは事実だ。しかし、それだけではない。
かつて、とある新車試乗をした折、目で追う走行状況ではまっすぐ走っているのに、走りが安定しないような不安を覚えたことがある。いまどきのクルマで、まっすぐ走らないクルマなどそうあることではなく、自分の感覚が間違っているのではないかとも考えた。しかし、いくら走り続けてもまっすぐ走っていないような不安を覚え続けた。そのことを、メーカー広報に伝え、後日、実験部の人がそのクルマを調査したところ、タイヤのホイールアライメントがわずかにズレていたとの報告を受けた。
細部のつくりこみが速度感覚に影響を及ぼす
そのように、目で見てもおかしな兆候がなくても、体に伝わる感触として直進安定性を感じられないということがある。
新車開発や、その過程での走行実験などによって、クルマは精密につくられている。一方で、高性能化するにしたがい、わずかな変化が想定外の違和感をもたらすことがありえる。操縦安定性はもとより、速度感覚にも影響を及ぼすはずだ。
ドイツ車が高性能だと評価されるゆえんの一つに、速度無制限区間のアウトバーンをもつことがあるだろう。ドイツ以外の国は、欧州でも最高速度は時速130kmであり、ドイツのような超高速道路環境は世界で唯一のものだ。したがって、たとえば時速200kmで走っていたとすると、1秒間で55m以上先へ行ってしまうのであり、その間のわずかな変化が、大きな差として進路に影響を及ぼしかねない。いっそう厳密なクルマづくりが行われるはずであり、その成果は、時速100kmや130kmの状況では、盤石の安定感をもたらすはずだ。

そういうクルマを運転すると、国内において時速100kmで走っても、あたかも時速70~80km程度であるかのような運転感覚になる。新車が開発で目指した速度域を達成するためつくりこまれた性能が、人間の速度感覚にも影響を及ぼすのである。
速度感というのは、目の情報だけでなく、人間の体感的な感覚機能を含め、さらにはそのクルマの仕立て具合によっても影響を受けることになる。