この記事をまとめると
■ボブ・ラッツとキャロル・シェルビーによって1991年に生み出されたダッジ・バイパー■ランボルギーニがチューニングしたV10・OHVエンジンを搭載
■2002年に2代目、2012年に3代目がデビューするも2017年に惜しまれつつも生産を終了
ライバルであるコルベットを超えるV10エンジンを搭載
アメリカのスポーツカーといえば、やはり誰もが最初にその名前をあげるのは、シボレーが1950年代からの伝統とするコルベットにほかならないだろう。そのコルベットも現在では第8世代へと進化を遂げ、ついにその基本設計をミッドシップとするに至ったことは周知のとおり。アメリカ車のファンとしては、それに対抗するライバルの登場を期待したいというのも正直な気持ちではないだろうか。
時はさかのぼって1989年の北米国際自動車ショー(デトロイト・ショー)。ここでそのような期待を一気に高めてくれる一台のコンセプトカーが発表されたことを覚えている人はどれくらいいるだろうか。
それは当時フォードからクライスラーへと移籍してきたボブ・ラッツの指揮のもと製作された、1960年代のシェルビー・コブラを彷彿とさせる「ダッジ・バイパー・コンセプトVM-01」で、ロングノーズとコンパクトな2シーターのキャビンは、そして何よりクサリヘビ科に属する毒蛇「バイパー」の名を掲げたことで、シェルビー・コブラの残像を多くのファンは頭の中に描いたに違いない。参考までにこのコンセプトカーの開発には、コブラの産みの親であるキャロル・シェルビーも関係していたのだから、期待は大きく高まった。
VM-01に搭載されていたエンジンは、アメリカン・スポーツらしく、360立方インチ(約5.9リッター)のクライスラー製V型8気筒OHVだったが、クライスラー(ダッジ)は、最初からバイパーにV型8気筒エンジンを搭載する計画は持ち合わせていなかったようだ。
ファンの目がその斬新で独特なスタイリングに魅了されるなかで、彼らは並行して生産型のバイパーに搭載するべきエンジンの開発に集中。それはこれまでクライスラーのライトトラック、ダッジブランドならば、あのラムに搭載されていたV型10気筒OHVエンジンを、当時クライスラーが傘下としていたランボルギーニの手でチューニングしたものだった。
新たにアルミニウム製のブロックなどに改良を施したもので、8リッターの排気量から得られた最高出力は実に450馬力に達していた。組み合わされたミッションは6速MT。駆動輪はもちろん後輪で、ダブルウイッシュボーン形式のサスペンションの開発にも、ランボルギーニは深く関係している。
ニュル市販車最速挑戦でアメリカ車が速いことを証明した
ファーストモデルとなったプロダクションモデルのバイパー、「RT/10」は、1991年12月に発売されたのだが、それはサイドウインドウさえも着脱式とする、きわめてスパルタンな仕様のモデルだった。
最高出力は400馬力に抑えられたが、1995年にはあのデイトナ・コブラの復活ともいうべきクーペ仕様のバイパー「GTS」を追加設定。
バイパーの市場での人気はクライスラーの予想どおりに高く、2002年には搭載されるV型10気筒エンジンをさらに8.3リッターにまで拡大した、セカンド・ジェネレーションのモデルも発表された。パワーは517馬力にまで向上し、同時に車名もバイパー「SRT/10」に改められた。
2008年にはさらに排気量を8.4リッターに拡大しているが、このときはマクラーレン・パフォーマンステクノロジーとリカルドの両社がテクニカルパートナーだった。最高出力は608馬力へと大幅に向上し、エンジンフード上には新たにエアアウトレットが追加されたのが外観上の特徴だ。
また、2008年からは「ACR」と呼ばれるよりスパルタンな仕様を選択することも可能になった。ちなみにACRとは「アメリカン・クラブ・レーサー」の略。専用のエアロパーツやサーキット走行にフォーカスしたサスペンション、スタンダードなACR比でさらに18kgのダイエットを可能にしたハードコアパッケージなどの設定もあった。
このモデルでダッジはニュルブルクリンクの市販車最速タイムアタックを行い、7分22秒1を記録。2012年には、バイパーACR-Xが7分3秒058を記録して当時の世界最速の量産市販車となった。
そして、バイパーの最終モデルとなったのが2012年のNYモーターショーで発表されたサードジェネレーション。このときからブランドは長年親しまれたダッジではなく、クライスラーのハイパフォーマンス開発部門、「SRT」を掲げることとなり、生産モデルもクーペのみに統一された。
フロントのV型10気筒エンジンは649馬力にまで強化され、上級モデルのGTSでは、アクティブサスペンションの標準採用など、シャシー面でも多くの進化が見られた。そして2014年にはダッジとSRTの両ブランドが統合されたため、車名は再びダッジ・バイパーに。2017年8月には惜しまれつつもその生産が終了している。
オンロードのみならずサーキットでもその圧倒的な存在感を示してみせたバイパー。その勇姿を忘れる者はいないだろう。

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