この記事をまとめると
■発売前の日産スカイライン・ニスモに中谷明彦さんが試乗した■外観では、エアロパーツやバンパーのエッジ形状などに空力ノウハウの投入が見て取れる
■最高出力を420馬力まで高められたスカイライン・ニスモの走りは質感と剛性感が高められ軽快感が引き出されていた
400Rをベースにニスモがチューニング
日産スカイラインは、FR(フロントエンジン後輪駆動)のグランドツーリング(GT)セダンとして長い歴史と実績に支えられた、日産が世界に誇るモデルである。スカイライン(S54)が第一回日本グランプリのために桜井慎一郎氏の手により直列6気筒エンジンを組み込まれ、ポルシェ904などの本格的なレーシングカーを相手に闘い、GT-IIクラスで2位から6位までを独占するという偉業を成し遂げたのも、そうした日産のモータースポーツに対する熱意の表れであったといえる。
今回登場したのは、そんなスカイラインの血統を引き継ぐモデルとして、現在ある400Rをベースにニスモが手がけたというモデルだ。
今回、そのスカイライン・ニスモに、日産のテストコースとして知られる横浜の追浜に位置する「グランドライブ」で試乗することができた。試乗モデルはスカイライン・ニスモに純正オプションとなるレカロ社製のシートを組み込んだ仕様である。標準はレザーの電動パワーシートが備えられているが、オプション設定ながら専用設計のレカロシートを組み込むと、重さが20キロほども軽量化されるという。
レカロシート仕様ではトランクスルー機構が省かれるなど、実用性をやや犠牲にしてでも軽さを追求したものであり、スカイライン・ニスモの開発ポリシーにのっとって設定されたといえる。

外観的な特徴は、非常に空気的に洗練されたさまざまなエアロパーツや、バンパーエッジ形状の処理など、ニスモがレース活動で培ったエアロダイナミクスのノウハウが詰め込まれた印象である。
こうした空力処理のチューニング効果は元々0.27と優れた空気抵抗値(CD値)であったのが、0.26まで向上させられ、また車体のリフトを表すCL値も0.04と低く抑えることに成功している。これはほとんどゼロリフトであることを意味し、高速走行時においても4輪の接地荷重がきちんと得られ、優れた操縦性が確保されていることを数字からも見て取れるのである。

エンジンはV6、3リッターのVR30DDT型で400Rと同じユニットだが、コンピューターチューニングなどで最高出力は420馬力にまで高められ、また最大トルクも550Nmと大幅に強化されている。最高出力の向上もさることながら、とくに実用域でのトルクアップが大きな目標であり、それに合わせて7速ATトランスミッションの変速制御なども見直された。

トランスミッション自体は400Rからキャリーオーバーされているが、ロックアップ領域を広めてなるべくシフトダウンをさせないで、エンジンのトルクで走るというドライバビリティの獲得を目指している。
スカイラインNISMOの狙いは「より速く、気持ちよく、安心して」を目標としておりスタビリティを重視している。
420馬力ものハイパワーなエンジンを後輪2輪で駆動するFRレイアウトゆえに、運動性能面においてはスタビリティの確保が極めて重要である。400Rで245mm幅だった後輪タイヤは20mm幅広くされ265/45R19に改められている。
フロントタイヤは400Rと同様の245サイズ幅であり、前後で異なる幅のタイヤを装着されたことになる。また、400Rではランフラットタイヤを採用していたのだが、今回はランフラットタイヤをやめ、タイヤの接地面積やコンパウンド、ケーシングの剛性などにもこだわり、テストドライバーが非常に細かく走り込んでチューニングを行ったという。

そうしたチューニングは電子制御においても作動タイミングや介入度合いの面でも行われ、ドライバーが作動介入を過剰に意識することなく、気持ちのいい運転が可能になっているという。ランフラットタイヤをやめたことでタイヤ自体の重量も軽くなり、バネ下重量はかなり軽量化されているのもメリットとして挙げられるだろう。
では、早速乗り込んで走り出してみる。室内に乗り込んだ感想としては、インストゥルメントパネルのデザインがすでに10年以上経過したもので、電動モデルの多い現代においては古さを感じさせるものであることは否めないが、それでもカーボンパネルの採用やステッチの縫い込みなど、高級感を演出することでスポーティな走りの印象を具現化していることは受け入れられるものである。

エンジンを始動するとV6のサウンドが心地よいが、数字で見るほどのパフォーマンスの高さを感じさせるようなものでもない。
そうした部分は後発のニスモ・リミテッドや今後用意されるニスモパーツのチタンマフラーなどを装着していくことで、より迫力のあるサウンドが演出されていくことだろう。

デフォルトでドライブモードはスタンダードとなっているが、スポーツやスポーツ+を選択するとエンジンの制御も切り替わり、また変速制御も変化して、より高いパフォーマンスを発揮できるようになる。一方でECOモードを選択すると、400Rと同様の制御となって、より燃費に特化したエンジンやトランスミッションの制御が行われることになる。
車両との一体感を感じ取れるスポーツ性の高いシャシー
走り出すと非常にがっちりとしたボディ剛性が感じられ、走りの質感、剛性感が高まっていることがうかがえた。400Rはもともと重厚感のある質感の高い走りが特徴であったが、シートやバネ下の軽量化などで重厚さよりも軽快なイメージがより強く表れ引き出されている印象となっている。

また、バイワイヤーのステアリングも操舵フィーリングが非常にナチュラルで、路面からのフィードバックも上手く伝わり、バイワイヤーであることのデメリットを感じさせない。走り始めると、ステアリングの切り込みに対する応答性がシャープではあるものの、リヤのスタビリティが高いためにライントレース性が高く、安定感に富んでいる。
一方、直進においては直進性の良さとして現れ、またコーナー区間においては、ライントレース性の自由度の高さとして感じ取ることができる。車両の運動特性は非常に軽く感じられ軽快である。一方で、リヤタイやのサイズがアップされたことで後輪のグリップが増し、またタイヤのケーシングがソフトになったことでタイヤ自体の撓みが重なることでリヤの車両姿勢はややロールが大きい。
リヤサスペンションのスタビライザーも強化されているのだが、タイヤのケーシングの撓み度合いがそれを上まわるように感じる。

しかし、挙動自体は軽快感があり、ライントレース性にも富んでいることからコーナーの通過速度は速い。試しにVDCをオフにしてパイロンスラロームを試してみたが、機敏なフロントの旋回性に対してリヤのヨーダンピングが徐々に大きくなり、最終的にはドライバーがカウンターステアとアクセルコントロールで姿勢を制御することになる。
よりグリップの高い幅広のリヤタイヤを履けば、そうした限界特性もより収まるはずだが、今回VDCの制限を見直したことで、VDCオンのままで走れば、そうしたヨーダンピングが上手く抑え込まれ、またアクセル開度も必要以上に閉じる必要はなく、速度をキープしたまま通過することができる。

日産の社内テストでは、陸別のテストコースにおいて1420mほどの非常に難易度の高いS字コーナー部分で、約2秒短縮することに成功しているという。
また、前後のガラス(フロントガラスとリヤガラス)接着剤を高剛性接着剤とすることでボディ剛性が15%も向上している。これにより、限界走行下でも車体のきしみや剛性不足を感じさせることなくドライバーと車体が一体感を持った挙動として感じ取れるスポーツ性の高いシャシー、車体特性となったと言えるだろう。

スポーツやスポーツ+を選択すると、シフトダウンがアクセル開度に対して応答よく行われるようになり、また全開加速ではより高回転まで引っ張ってくれるようになる。
日産の社内実験では、0-100km/hまでの加速タイムは5.2秒とされている。筑波サーキットでも1分7秒台のラップタイムが計測されているという。ニスモを名乗るスカイラインの走行性能としては十分な速さを備えているといえるだろう。
今回、外観デザインの特徴としてフロントフェンダーの横に「GT」のバッチが追加されている。

電動モデルが多く登場している昨今において、純ガソリンエンジンでスポーツ性の高いスカイライン400Rやニスモのようなモデルが存在することをひとりのドライバーとして非常にうれしく思うし、こうしたモデルを支持することで、スポーツドライビングやサーキットでのドライビングスキルを高めたいというユーザーをひとりでも多く惹き付け、クルマだけでなくドライバーのスキルも引き継がれていくことを期待したい。
