この記事をまとめると
■レーシングドライバーの中谷明彦さんが「神岡ターン」と呼ばれるドラテクを解説■走行中にリバースギヤを使うテクニック
■速さを追求するというよりも緊急回避的な技術と解釈できる
ラリーで使われたと言われる伝説のテクニック
編集部:伝説のドラテク記事、非常に好評でしたね! ところで読者からも「神岡ターン」についても中谷さん的解説を読みたいという声が届いているのですが、いかがでしょうか?
中谷:「神岡ターン」って何? 初めて聞いた。
編集部:そうなんですか!? 中谷さんでも知らないことがあるんですね。「神岡ターン」はラリーストの神岡政夫選手が行なっていたとして有名らしいです。
中谷:コーナリング中にリバースにいれた事あるよ。僕的解釈で良ければ、なぜその時リバースに入れたのかは説明できる。
編集部:えっ! 中谷さんもやっていたんですか!? その解説お願いします!
ということで「神岡ターン(コーナリング中にバックギヤを使う技)」について、解説します。
僕が用いたのはサーキットで速さを競うための技としてではありません。いわゆる緊急回避的な場面で使ったということです。
とくにミューの低いグラベルや雪道といったラリー競技のスペシャルステージに多く見られるようなコースやダートトラックなどで、クルマはステアリング操作だけではスムースな回頭性を得られません。そこで多くのラリーストは「フェイントモーション」を起こしてコーナーの入り口から車を大きくスライドさせ、立ち上がり方向に向きを変えつつパワーをかけてスライドさせて立ち上がっていきます。直線部分でブレーキを踏んでも低ミュー路では減速Gが大きく得られず、フロントタイヤに荷重をかけにくいことも一因としてあります。

コーナー手前の直線区間で大きくステアリングを切り込み車体を横滑りさせ、素早くステアリングを戻し逆方向に切り込んでヨーを反転させる。それを2~3度繰り返すことでヨーダンピングが発生し、アクセルで姿勢と速度をコントロールしながらコーナーのクリッピングポイントでクルマが綺麗に立ち上がりラインに向くようにする技です。

次に左に振り返し、もう一度右に振り、最後に左に振り返した時に左30Rのクリッピングポイントで立ち上がり方向を向きつつ旋回ヨーレートを維持できていてアクセルオンのパワースライドで脱出する、という感じです。この2~3回クルマを振る間に減速され、車速コントロールもできているのです。
コーナーでイン側に向きすぎたときにリバースに入れる
ドリフト競技では「直ドリ」という技が使われますが、それはラリーでのフェイントモーションを応用した技といえるでしょう。難しいのは直線での慣性力を利用して減速と旋回を同時に行なうので、目測を間違えると手前で向きが変わり過ぎてしまったりクリッピングに向かって反対向きになってしまうこともあります。

左コーナー手前で左向きになり過ぎてしまった時、そのまま走り続けようとするとイン巻き状態となってイン側に刺さってしまうか、スピンして進路を塞ぐ形になってしまう。そんな時に車体がインに刺さる(あるいはイン側の崖などに落ちてしまう)のを防ぐために素早くリバースに入れて回避するために使うのです。
アイスバーンの氷上などでは使う頻度が高まります。通常は一旦停止させてリバースに入れ、後退させて走行ラインに戻しますが、氷上ではブレーキが4輪ともロックしたまま滑って行きますので、その間にリバースに入れ後退駆動力をかけます。競技中はタイムロスを少しでも少なくしたいので車体停止する前にアクションを起こしているわけです。

乾燥舗装路やサーキットではこうした行為はタブーです。あくまでクローズドの低ミュー路で、秒を争い、車体へのダメージを最低限に抑える緊急テクニックとして活用することはあり得る。
編集部:なるほど。巷ではラリーのスペシャルステージで「神岡ターン」が見られると思っている人がいるようですが、そうではないのですね。
中谷:理論的にもそれで速さを稼げる技ではないので、緊急回避テクとして仕方なく用いる、って考えていいのでは。違うというなら神岡選手に直接伺って実践して見せてもらうしかないよ。
編集部:「フェイントモーション」や「直ドリ」も伝説のドラテクにノミネートされるべきですね。ありがとうございます、参考になりました!