この記事をまとめると
■BYDのコンパクトBEV「ドルフィン」に試乗した■日本に輸入するために日本製外板パネルを採用するなど手厚い対応を行なっている
■コンパクトカーでも質感の高さを追求
リヤにマルチリンクを奢ったロングレンジモデル
先日、中国比亜迪(BYD)汽車のコンパクトBEV(バッテリー電気自動車)となる、ドルフィンに試乗する機会を得た。BYDではすでにクロスオーバーSUVスタイルのBEVとなるATTO3をラインアップしているが、このドルフィンこそ日本市場におけるBYDの本命車種ではないかともいわれている。
韓国ヒョンデ自動車がBEVのアイオニック5をオンラインでのみ販売しているのに対し、BYDは全国でディーラーネットワークの拡充を進めている。
ドルフィンは日本だけでなく、タイやEU(欧州連合)などでもすでにラインアップされている。日本市場へはおもに航続距離(400kmと476km)の違いで2タイプが用意されるが、今回は航続距離の長いロングレンジに試乗した。航続距離の短いタイプのリヤサスペンションがトーションビームなのに対し、ロングレンジはマルチリンクを採用している。重量増などへの対応がサスペンション形式の違いとのことであるが、実際にロングレンジモデルを試乗した印象では、これが欧州仕様なのかなといった印象を受けた(調べてみると、欧州では4タイプあるなかで3タイプがマルチリンク式)。

試乗前のカンファレンスでは「コンパクトカー」を強調していたが、ICE(内燃機関)搭載モデルとの比較になってしまうが、日系コンパクトカーのイメージで試乗するとまったく異なった世界観に驚かされる。とにかくサスペンションが心地の良い柔らかさでありながらしっかりしていて高架道路の継ぎ目もいなしてくれる。
タイヤはブリヂストンのエコピアが装着されており、採用に際しては、BYDと相当煮詰めているなという印象を受けた。全幅1770mmというのも効いていて、安定感のある走りを見せてくれた。筆者が所有している現行型カローラセダンの全幅は1745mmなのだが、1750mm以上1800mm以下ぐらいの全幅のほうがより安定感があることを感じた。

ドルフィンでは「タワーパーキングに入るBEV」というのも強調していた。電池容量確保のためもあり大型化しやすいBEV。ドイツ系某車では車両寸法ではなく2トンを超える車重のため、とくに簡易タイプの多いマンションの立体駐車場に停められないことが販売に影響を与えているとのこと。ドルフィンでは標準スペックでは1570mmとなる全高を、中国本社を説得し、シャークフィンアンテナの形状変更で日本の立体駐車場を意識した1550mmにしているとのこと。

いま以上にきめ細かかったかつての日本車のクルマ作りを見ているような話しを多く聞くことができた。
コンパクトカーでも質感を高めたインテリア
コンパクトBEVという限られた開発コストのなかで、インテリアは質感が見劣りしないように凝った造形などを採用していた。ヒューマンインターフェースも良く、ダイヤル式のシフトもすぐに慣れてしまった。専門家にいわせると、インテリアデザインではまだまだといった部分もあるようだが、それは経験を積めば解決されるだろうという話を聞いたことがある。

欧州車に試乗すると、同じブランドのラインアップにおけるモデル間のはっきりしたヒエラルキーの存在を感じ、それに違和感を覚えることがある。かつては、「Aセグメント(いわゆるコンパクトカー)車だからATはいらない」とか、「Aセグメント車にはカーナビスペースはいらない」など、日本車ではなかなか信じられない話も聞いていたが、一部ブランドで東欧系などのローコストブランドを抱えるようになったこともあり、いまでは昔ほどヒエラルキーは感じなくなったが、それでも感じることは少なくない。
欧州に対し、日本や中国で階級社会がまったくないというわけではないが、欧州ほどはっきりしたものを感じることはない。その点で、同じ東アジア地域の自動車メーカーということで妙な違和感を覚えず馴染みやすかったのも印象的である。

ドルフィンがどこまで日本市場で受け入れられるかは未知数だが、日本市場のことを強く意識した日本仕様となっているので、その気持ちは伝わるものと考えている。
