この記事をまとめると
■アメリカではかつてセダンが人気のボディだった



■現在では新車販売台数の約80%はSUVかピックアップトラックだ



■アメリカブランドでのセダンはほとんどラインアップがなく、日本車や欧州車が目立つ



アメ車のセダンは絶滅危惧種!?

かつてアメリカ市場ではセダンが圧倒的に売れていた。リヤにテールゲートを持ったハッチバック車も1970年代、1980年代には走っていたものの、車内と荷室が一体化され、リヤのガラス面積も大きいので車上荒らしに遭遇するリスクが高いとして避けられる傾向も強かったようだ。その後、若者を中心に日本のサブカルチャーが支持されるようになると、「日本のアニメに登場していてクール」と、ハッチバック車も受け入れられるようになってきたようである。



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ただ気がつくと、2022暦年でのアメリカ新車販売台数でみると、全体に対するSUV(スポーツワゴン、CUV、クロスオーバー・ユーティリティ・ビークル含む)の販売構成比率は54.4%となっている。アメリカで人気の高い小型ピックアップトラックを合わせると、この2タイプで8割弱に達してしまっている。



たしかにカリフォルニアあたりでは、街を走っているクルマはSUVが圧倒的に多いが、全米すべてがそのような傾向ではなく、中西部などでは西海岸ほど極端にSUVが売れているわけでもなく、セダンが意外に健闘しているなど、地域差もあるのは広大な国土を持つアメリカならではの話。



アメリカでは「庶民が買える」クルマが減っている! デカイSUVやピックアップだらけでハッチやセダンは消滅気味
キャデラックXT5



ただ、アメリカンブランド内で、セダンのラインアップは極端に減っている。フォードはすでに乗用車ではマスタング以外はすべてがSUVとなっている。GM(ゼネラルモーターズ)では、キャデラックがCT4とCT5、そしてセレスティックが、そしてシボレーがマリブをラインアップしているにすぎない。



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キャデラックCT4



ステランティスでは、ダッジ・チャージャーとクライスラー300がラインアップされている。つまり、アメリカンブランドすべてを合わせてもセダンは6モデルしかラインアップされていない。ハッチバック車にいたっては、シボレーのBEV(バッテリー電気自動車)となるBOLT EVぐらいしか見当たらない。



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クライスラー300



アメリカンブランド車はほぼSUVとピックアップトラックしかないと言っても過言ではないのだ。



残りわずかなセダンでも、クライスラー300は間もなく生産終了になる予定、シボレー・マリブはレンタカープールでは良く見かける。つまり、フリート販売がメインというお寒い状況となっている。

ダッジ・チャージャーだけは、V8 OHV HEMIエンジンを搭載するマッスル系セダンとして存在感を見せ、街なかでも若い人が乗っていたりもしている。



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ダッジ・チャージャー



SUV以外は日本車か欧州車がメインの選択肢となる

つまり、全体の2割強となる、セダンやハッチバック車の販売構成比のなかでは、アメリカンブランド車よりも日本車や欧州車がかなり含まれているのである。トヨタで言えば、セダンやハッチバックではカローラ(セダン)、カローラハッチバック、GRカローラ、カムリ、ミライ、クラウン、プリウスがラインアップされている。日産でバーサ、セントラ、アルティマ、マキシマ、リーフが揃う。



前述したように、アメリカンブランドでわずかに残るセダンも、実用セダンと呼べるものはほぼ存在しないので、実用セダンの領域はカムリ、アルティマ、そしてホンダ・アコードをメインに日本車がフォローしているのが現状であり、富裕層をターゲットにした高級ブランドでは、ドイツ系ブランドのセダンやレクサスなどがニーズを担っているのだ。



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ホンダ・アコード



人気のSUVでも、ミシガン州あたりではアメリカンブランドの地元なので、アメリカンブランドの車種が多く街なかで走っているものの、南カリフォルニアあたりでは、圧倒的に日本メーカーのSUVが多く、これに韓国やおもにドイツとなる欧州系のSUVが目立っている。



アメリカンブランドのSUVといえば、トラックシャシーベースのクロカンと呼ぶにふさわしいような大型SUVばかりである。2021年にフォードがブロンコを復活させて人気を得ているものの、SUVでもアメリカンブランドが大消費地ほど盤石ではないのもまた実状のようである。



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フォード・ブロンコ



2023年9月にデトロイトで開催された、北米国際オートショー2023(デトロイトショー2023)会場内にはシボレー・マリブが展示されていた。とくに大きな変更も行われていないのだが、よほど平凡なセダン(アメリカンブランドセダンでFFなのはマリブだけ)が珍しいのか、意外なほど展示車のまわりには人が集まっていた。



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シボレー・マリブ



アメリカのレンタカーは、最大手ともいわれるレンタカー会社が破産に追い込まれるなど、新型コロナウイルス感染拡大で大打撃を受けたこともあるが、ここ最近はクラスレスで車両貸し出しを行っているようだ。



筆者はカローラクラスのセダンをよくリクエストするのだが、指定された車庫スペースに行ってみると、そこにあるセダンはマリブがパラパラで、あとはSUVやマスタング、ピックアップトラックなどを置いてあることもあった(筆者は利用するレンタカー会社の会員になっているので、決められたブロックの駐車スペースにあるクルマのなかから好きな車種を選ぶことができる)。



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アメリカの車庫スペースのイメージ



コンパクトカーはアメリカでもガソリン高が続いているので、小売りで引っ張りだこなのか、レンタカーにはほぼまわってきていない様子。あっても燃費がいいので取り合いになっているようだ。



2023年9月にロサンゼルス空港の営業所で借りたときは、カローラクラスより安かったので、マリブクラスをチョイスしたのだが、ガソリン料金が予想よりかなり高く、燃料代に泣かされることになってしまった。



その前滞在していたデトロイトでは、カローラクラスをチョイスしたのだが、カローラクラスではSUVすらなく、2リッター直4ターボを搭載する、カローラクラスより明らかに大きいシボレー・ブレイザーを借りることになった。



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シボレー・ブレイザー



半導体問題などでの生産体制の混乱が戻りきっていないこともあるようだが、昨今のSUV販売比率の高まりもあり、セダンなどの乗用車ラインアップが少なくなっていることもあり、いまのアメリカのレンタカーにおいてクラスレス化まで招いているように見える。



それにしても、日本車ありきにも見えるアメリカンブランドの割り切り(セダンをはじめ乗用車をラインアップしない、またはほぼしない)には驚かされてしまう。



ある事情通は、「もっとも気になるのは、日本でのリッターカーのようなエントリーモデルがアメリカンブランドだけでなく、海外ブランドでもなくなってきていることです。所得のそれほど高くない人が買える新車がなくなってきているのです」とのこと。



日本のレベル以上に中間層のない貧富の差の二極化が進んでいるアメリカでは、単に所得の問題だけでなく、ラインアップでも所得の高くない層では新車が買えなくなってきているようである。

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