この記事をまとめると
■日産は毎年メディアやジャーナリストに向けて氷上試乗会を開催している■2024年は氷の上ではなく雪道での試乗となった
■話題の電動車からスポーツカーまで試乗した
予定変更の雪上試乗会で最新モデルを一気乗り
日産自動車が毎年開催して恒例となっている冬季の「女神胡氷上試乗」だが、残念なことに今季は暖冬の影響で女神胡が十分な厚さに氷結せず、周辺の雪道での試乗走行となってしまった。とはいえ、一般道の雪道走行性能や特性は一般ドライバーにとってより必要な情報となるはずだ。
まずはアリアを試すことにした。
アリアが搭載する駆動モーターは前後ともAM67型。最高出力160kW(218馬力)で1万3000回転までまわり、最大トルクは300Nmを0~4392回転で発生する。66kwhのバッテリーは床下に搭載し、車両重量は2110kgだ。スペックだけを見れば雪道は不得意なのではと思われそうだ。
アリアに乗り込みシステムを起動。シートヒーターが即座に温まり、やがてヒートポンプ式ヒーターも利き出す。外気温マイナス12度の環境化でも室内は快適だ。

今回装着されているタイヤはブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザックVRX3」で255/45R20の標準サイズ。
走り始めると、まるで乾燥舗装路のようになにごともなく発進できる。VDCがオンであれば気難しいアクセル操作も必要ない。坂道発進も同様で低ミュー路面を意に介さないように走りだす。アリアは前後重量配分が51:49でバランスに優れ、走行中も常にピッチングを感知し、駆動力コントロールで姿勢を安定化させているためフラットな乗り味を保てている。

また、左右重量バランスもシンメトリーなためトルクステアが発生しない。しかし、路面の轍やうねりなどでトルクステアが発生しそうになると瞬時に制御が介入し姿勢を乱すことがない。この細やかな電子制御を行なえるのが電動車の強みであり、加えて4輪ブレーキの個別介入制御も行なえるので安全性は極めて高くなる。
電動車は標高の高さによる空気密度の影響を受けないので雪山でもトルクフルだ。しかし、アリアは暴力的な加速をさせないようにジェントルに仕上げられていて、加速も減速もスムースなのだ。コーナーの進入や下り坂ではe-Pedalを活用すれば減速効果も効率的に引き出せる。

雪道に電動車は向いていないと思う人は多いが、走りに関してはむしろ向いているといえる。もちろんe-4ROCEとしての細やかなキャリブレーションがなされてのことだが、これほどのスムースな走りを体感してしまうと、もう内燃機関+クラッチで走らせるクルマには余程に理由がない限り戻りたくなくなってしまうのだった。

電動車は雪道との相性抜群だ
アリアと同じくエクストレイルも前後2モーターを搭載するe-4ROCEを採用していて、雪道での適合性はアリアと同等以上の素性を示してくれる。車両重量は1880kgでアリアより軽いが前後重量配分は58:42となっている。また、床下に大容量バッテリーを搭載していないので重心高は一般的だ。そのためか雪道での操縦性は通常のクルマに似通ってはいる。

前輪用モーターは150kW(204馬力)、後輪用モーターは100kW(136馬力)で最大トルクは前330Nm、後195Nmと強力だ。雪道ではアクセルを全開にするようなシーンはなく、余程の急な登坂でない限り余裕がある。従来のSUVらしいハンドリング感覚と新次元のe-4ROCEによる制御の融合が魅力で、従来型SUV車の可能性を電動化により大きく切り開いたモデルといえるのだ。

軽自動車EVのサクラも試したが、FFの前輪2輪駆動とはいえ195Nmという、内燃機関エンジンなら2リッター車並みの大トルクを0回転から発せられるので、山道でも力強い。加えて駆動力の細やかな制御が効率のよい走りと滑りやすい路面にも高度に適合していて、サクラが山岳エリアでも高い素質を示していることが伺えた。
電動モーターで前輪を駆動するという意味ではe-POWERのセレナも同様な資質を備えている。ミニバンで車重の嵩むセレナにとって、駆動モーターのトルク特性は山道、雪道に優れた適応性を見せる。トルクフルで滑り易い登坂路を駆け上がれ、e-Pedalによる回生をしながらの下りでの安心感は心強く感じられるのだ。

そして、最後に試乗するのはフェアレディZニスモだ。こちらは100%ICE(内燃機関)のハイパワーモデルだ。しかもマニュアルトランスミッション仕様。電動車に試乗した直後に雪道へ走りだすと、いかに電動車が優れているかを再認識させられる。

クラッチを踏みギアをローに入れ、サイドブレーキを降ろしつつ半クラッチからアクセルを踏み込んでスタート。すでに身体に沁み込んだ操作なだけに、特別な難しさを感じることはないが、ビギナードライバーにとっては雪道の坂道発進は難易度が高いだろう。
スタッドレスタイヤを履いているとはいえ、後輪2輪駆動ではパワーをかけ過ぎればすぐに空転を引き起こしトラクションコントロールが作動する。かなり丁寧に操作してもトラクションコントロールの介入なしに発進させるのは困難であり、いかに電子制御に助けられているかの再確認にもなる。

氷上であればパワースライドさせて自由自在にドリフトさせての走行も可能だが、一般道ではライントレースさせて走るだけ。トラクションコントロールをオフにすれば低速ドリフトは楽しめるが、それは単に不安定を引き起こしているだけでダイナミックな楽しさとはいえない。ニスモは専用開発のサスペンションが採用され、空力を磨いた外装も見応えがある。

雪道にフォーカスしたものではもちろんないが、雪煙をたてながら走り去るシーンはインパクトがあった。思えば1970年代に雪のモンテカルロラリーを制したフェアレディ240Zに魅せられ、いまも憧れている。フェアレディZのDNAは雪の山岳路でも培われたものだったことを思い起こさせられた。