この記事をまとめると
■クルマの変速機はMTとATに大別できるが、その中間的存在がセミATである■セミATの基本構造はMTと一緒で、クラッチ操作は機械が行うため2ペダルで運転が可能だ
■最近ではトラックなどの商用車にもセミATが導入されている
各メーカーのセミATの種類や特徴を紹介
クルマの変速機、トランスミッションは3ペダルのMT(マニュアルトランスミッション)と、2ペダルのAT(トルコン・CVT)に大別できるが、その中間的な存在としてセミATと呼ばれるタイプもある。
セミATは、基本的な構造はMTと同じで、クラッチ操作は機械任せ。2ペダルなのでドライバーがクラッチ操作を行う必要はなく、運転免許もAT車限定でOKというシロモノ。
ATよりもシンプルな構造で、ダイレクトな伝達効率を誇り、状況にあわせてドライバーが任意にギヤをセレクトできるのもメリット(DモードにすればATと同じく走行中のシフト操作は不要)。MTとATのいいとこ取りを狙った技術といえる。
メーカーごとに特徴があり、呼称も違うので、その代用的なセミATをいくつか紹介してみよう。
ポルシェ ティプトロニック
スポーツAT、セミATをメジャーにしたパイオニア的存在。1990年にデビューした964カレラ2で採用された電子制御式4段ATで、シフトレバーは+方向、-方向に動かすことで、シフトアップ・シフトダウンの操作ができるのが特徴。
964のティプトロニックのシフトまわり

フェラーリ F1マチック
いまのF1マシンは全車セミATだが、F1マシンで最初にセミATを投入したのは、フェラーリTipo640(1986年)。そのセミATの本家フェラーリが、市販車に初めてセミATを用意したのが、F355の「F1マチック」(1997年)。これは6速MTのクラッチ操作を電動油圧式にしただけのもので、本当の意味でセミATだった。

BMW SMG
SMGは「シーケンシャル・マニュアル・ギヤボックス」の略。これもベースはMTでシングルクラッチ。1997年、E36 M3クーペに初採用。現行車はシングルクラッチではなく、デュアルクラッチのDCTに進化。

トヨタ SMT
SMTは「セミオートマチックトランスミッション」の略。MR-Sに採用されたMTベースのシステムで、油圧ギヤシフトアクチュエーターによりクラッチ断続やギア選択を行うタイプ。
MR-SのSMTのシフトまわり

トラックにまでセミATが搭載されていた
いすゞ NAVi-5
NAVi-5こそ、世界初の乾式クラッチ式電子制御オートマチックトランスミッション! 1984年に初代アスカで市販化に成功。この頃から、アクセル操作はドライブ・バイ・ワイヤで、クルーズコントロール機能も持った先進性で注目をされた。
初代アスカのフロントビュー

三菱 INVECS
INVECSは「インテリジェント&イノヴェイティヴ・ヴィークル・エレクトロニック・コントロール・システム)」の略。起源は1992年のギャランのAT。
注目されるようになったのは、1994年のFTOに搭載されたINVECS IIになってから。
FTOのフロントビュー

INVECS IIはポルシェのティプトロニックと同じで、レバーをシーケンシャルシフトのように前後に動かすことで任意のギヤセレクトが可能で、運転者の癖を記憶させる学習機能も備わっていた。
その後、ランエボⅩでは、6速DCTのTC-SST(Twin Clutch SST)を採用。R35GT-Rとともに、国産車を代表するDCT車となった。

日産 GR6型デュアルクラッチトランスミッション
R35GT-Rに採用されたDCT。愛知機械工業製(デュアルクラッチの部分はボルグワーナー社製)のDCTで、変速動作時間は0.2秒。
R35GT-RのGR6型DCTのシフトまわり

世界最速レベルの変速スピードを誇る一方で、アクセルの踏み込みが浅い日常的な発進(アクセル開度20%未満)では、1速から2速へシフトアップする際、変速のタイミングをわずかに前倒し。
1速、2速ともに半クラッチのうちに2速へ変速することにより、変速の滑らかさを実現している。
R35GT-Rの走行シーン

スズキ AGS
AGSは「オートギヤシフト」の略。シングルクラッチのマニュアルトランスミッションベースで、クラッチ操作および変速操作を電動油圧式のアクチュエーターが行うタイプ。
開発主体はスズキだが、自動変速システムはイタリアのマニエッティ・マレリ(現マレリ)社のものを流用(マニエッティ・マレリとスズキは、2007年に合弁会社を設立)。
ほかのATのように、Pレンジやクリープ現象を備えているのが特徴。
スズキ AGS搭載車のシフトまわり

その他
近年、トラックなど商業車にもセミATを導入するケースが増えてきている。
セミAT車はAT限定免許でも運転できるので、ドライバー不足解消に役立つ、長時間運転でも疲れにくい、操作が簡単、ATよりはシンプルな構造で燃費が安定する、といったメリットがあるためだ(乗用車でもCVTよりミッション単体で20~30%軽いといわれる)。

その反面、変速ショックが大きい、ギクシャクして違和感があるといった短所もあるが、これらは技術の進歩でじきに解消されるだろう。
また、ATの多段化やCVTの進歩、DCTの高性能化などもあって、2ペダル車全体のなかで、セミATの定義はかなり曖昧になってきている。
現状ではトルコンタイプのフルATとCVT以外のミッション、DCTなどをセミATと考えるのが妥当かもしれない。