この記事をまとめると
◾️サスペンションの固さは乗り心地を大きく左右している◾️サスペンションは柔らかければ柔かいほどいいというわけではない
◾️乗り心地と操縦性のバランスをとらねばならず、サスペンションの設定は非常に奥深い
サスペンションが固いってなに?
いつもと違うクルマに乗ったとき、誰もが知らず知らずに比較している性能がある。それは乗り心地のよし悪しだ。この乗り心地を大きく左右しているのがサスペンションの固さ。
サスペンションは路面の凸凹の影響を和らげるショック吸収装置の役割と、タイヤを路面に対して常に垂直を保つようにする、ふたつの大きな役割が与えられている。
このふたつの機能を考えると、仮にどこまでも真っ平らな路面が続くとすれば、クルマにサスペンションは必要ない。しかし、現実の路面には大小さまざまな凸凹やうねりがあり、絶えずショックを受け続けているので、サスペンションの役割はかなり重要。
そのショック吸収装置としてのサスペンションの主な要素は、スプリングとダンパーだ。基本的にショックを吸収するのはスプリングの仕事。でもスプリングだけだと、入力があったときにいつまでも伸び縮みを続けてしまうので、その振動や揺れを止めるためにダンパーと組み合わせて構成されている。
そしてサスペンションの固さとは、このスプリングのバネレートとダンパーの減衰力のことをいう。

たとえば、バネレートの低い(柔らかい)スプリングと減衰力の弱いダンパーを組み合わせれば、乗り心地はフワフワになるし、バネレートが高く、減衰力も強ければ、ガチガチのサスペンションになる。
だったら、バネレートも減衰力もソフトにすれば、乗り心地がよくなってベストじゃないか、と思うかもしれないが、ハナシはそんなに簡単ではない。
まず、スプリングは車体の重さを支えるものなので、車重が重いクルマは、スプリングレートも高くしなければならない。また、サスペンションのストロークには限りがあるので、スプリングを柔らかくした結果、サスが底突きするようになると、ショックがダイレクトに車体に伝わり、サスペンションの意味がなくなってしまう……。

さらに、バネレートが弱いとピッチングやローリング、バウンシングが大きくなって、クルマの姿勢が乱れやすくなってしまい、速度域が高くなるとフラフラ、ゆらゆらして不安定この上ないし、減衰力が弱いのも、フワフワ感が収まらず、かえってクルマに酔いそうになることもある。
サスペンションに必要なもうひとつの要素「操縦性」
一方、レーシングカーやスポーツカーでは、車体の揺れ(ロール、ピッチング)を抑え、接地性変化を最小にし、荷重移動のタイミングを最適化するために、スプリングもダンパーもハードに設定する傾向がある。
しかし、サスペンションが固すぎると、路面の凹凸でタイヤが跳ねて、かえって接地性が悪くなり、グリップの限界が低くなるので、固ければいいというものではない。

つまり、ベストなサスペンションの固さとは、ガチガチとフワフワの間のどこかということになる。しかもサスペンションの固さとは、絶対的なものではなく、主観的で相対的なものなので厄介だ。
たとえば、普段タクシーのようなフワフワ(ヘロヘロ)したサスペンションのクルマに乗り慣れている人が、たまにスポーツカーに乗れば、「なんて固いサスペンションなんだ」と思うだろうし、ナンバー付きの競技車両(例ジムカーナ車両)に乗っている人は、ラグジュアリーセダンのサスでも柔らかすぎて、頼りなく思えるはず。

バネレートにしても、何kgf/mm(N/mm)以上は固く、それ以下なら柔らかいといえるものではなく、車重やクルマの目的、重視する速度域でベストな値は変わるので、各自動車メーカーは苦労して最大公約数を見つけて製品化しているというわけだ。
というわけで、違うクルマが2台あれば、どちらかのクルマはサスペンションが固く、もう片方はサスペンションが柔らかいと感じるはずだが、どちらが好みかはその人次第。
より自分の好みを追求するなら、社外品のサスペンションキットに交換して、納得できるサスペンションに仕上げるしかないわけだが、数あるアフターパーツの車高調から、ベストマッチする固さのサスを選ぶのもなかなか骨が折れるもの。
でもそれだけサスペンションのセッティングは奥深いということも覚えておこう