この記事をまとめると
■マクラーレンのなかでも頂点に位置するのがアルティメットシリーズ■「F1」を始祖として進化してきた6つのモデルを紹介
■すべてのモデルが超高性能というだけではない驚きに満ちた規格外のクルマとなっている
スーパーカー揃いのマクラーレンのなかでも頂点
マクラーレンのプロダクトポートフォリオで、その頂点を極めるのが、「アルティメット(究極)」と呼ばれる一連のシリーズだ。
マクラーレンの創始者であるブルース・マクラーレンは、レース活動の傍らで常に自社ブランドによる究極のロードモデルの生産を夢に描いていたというが、1970年にCan-Amカーのテスト中に帰らぬ人となるまでに残したロードカーは、わずか3台の「M6GT」のみだった。
だが、この創業者の夢は、そのあとを追った者たちによって1992年に結実する。
20世紀に誕生したスーパースポーツで最高傑作とも評されるマクラーレンF1は、たしかに当時のライバルと比較すれば技術的な優位点に満ち溢れていた。ロン・デニス、ゴードン・マレー、そしてクレイトン・ブラウン。マクラーレンのF1活動を指揮する立場にあった彼らが、1990年代を迎えるにあたり、新たなチャレンジとして究極のスーパーカーを生み出すことを選んだのだから、その設計には一切の妥協はなかった。

リヤフェンダーと一体成型されるセミモノコック構造をもつF1ロードカーに組み合わされたボディは、見た目からも容易に想像できるように、エアロダイナミクスに優れたじつに流麗なものだ。
ダウンフォースの多くはボディ下面を通過するエアの圧力変化によって生み出されるが、そのグランドエフェクト効果をさらに高めるために電動ファンも装備されていた。それはかつてゴードン・マレーがブラバムBT46Bでチャレンジしたものに等しい。

ミッドに搭載されたエンジンは、BMW M社製のV型12気筒DOHC。DOHC4バルブヘッドをもつ6064cc仕様の自然吸気である。最高出力は627馬力を発生。これに6速MTが組み合わされ、その間にはカーボン製のトリプルディスククラッチが使用されている。

マクラーレンF1には、このスタンダードなロードモデルのほかに、コンペティションモデルの「GTR」や1995年のル・マン24時間レースでの優勝を記念した特別仕様車の「LM」、あるいは「GTR97」のホモロゲーション取得用に製作された「GT」などが存在するが、そのすべてをトータルしても、生産台数は106台にすぎなかった。

まさかの後継発表! 派生レーシングカーも持つ過激な2モデル
マクラーレンが、このF1の正式な後継車として、新たにアルティメットシリーズの名を掲げた「P1」を発表したのは2013年のことだ。
当初、P12の社内コードを掲げて開発が進められてきたこのモデルが、なぜP1になったのかは、モータースポーツにおいてPのイニシャルがいかに重要なものであるのかを考えれば一目瞭然だろう。ポールポジションのP、レース中のポジションを表すP、そして最終的にその場に立つことを狙うポディウム(表彰台)のP。そのもっとも価値ある場所に立つという創業以来の哲学を、このP1はロードモデルとして受け継いでいるのだ。

BMW、フィアット、そしてフェラーリでデザイナーとしての手腕を奮ってきたフランク・ステファンソンによるエクステリアデザインのコンセプトは、まず「すべての形は機能に従う」ということ。そして、その機能を「可能なかぎり小さなデザイン要素を包み込む、シュリンクドラップの手法」を用いることにほかならなかった。
実際に完成したP1のデザインをもう一度確認してみてほしい。そのコンセプトは確かにP1のなかに採り入れられているのと同時に、自然界に存在する創造物を強く意識したデザインでもあることがわかるだろう。P1のデビューからはすでに10年以上の時が経過しているが、その斬新さはいまも健在だ。

P1の基本構造体は、当時はモノケージと呼ばれたカーボン製のモノコック。その重量はタブやルーフ、エンジンエアインテークなども含めてわずかに90kgで、これはもちろん当時のロードカーとしては最軽量レベルの数字となる。

搭載エンジンは3.8リッターのV型8気筒DOHCツインターボ。最高出力は737馬力。

外部電源からの充電も可能なこのP1は、ゼロエミッションのEV走行も10km以上が可能。数字としては小さなものだがその価値は大きい。
375台の限定生産を終了したP1にはその後、F1GTRの生誕20周年を記念して、2015年に1000馬力仕様のサーキット専用車「P1GTR」が、またそのロード仕様となる「P1LM」が誕生する。
ちなみに前者の購入条件はロード仕様のP1をすでに購入していること。生産台数は正式な発表はなかったが、一方のP1LMは5台の限定車だった。

このP1に続くアルティメットシリーズとして2017年に500台の限定車として発表されたのが「セナ」だ。セナとはもちろん1988年から1993年までマクラーレンレーシングに在籍したF1ドライバー、アイルトン・セナにちなむ車名で、そのコンセプトはサーキット走行を十分に楽しむことができるロードカー。
P1との大きな違いは重量を低減するためにプラグインハイブリッドシステムを廃止したことで、結果、その乾燥重量は1198kgと、外観から想像する以上に小さな数字となっている。

エクステリアデザインは、P1のそれと比較するとさらに過激な印象を与えるものに変化している。各々のディテールは、もちろんエアロダイナミクスを最適化するための処理で、フロントのエアロブレードとリヤのスワンネック式ウイングは、ドライバーの選択によりそのセッティングを変化させることが可能だ。

ミッドのエンジンは4リッターに排気量拡大されたV型8気筒DOHCツインターボ。
セナにもその後、さまざまな派生モデルが登場している。2019年にはワイドフェンダーや大型のフロントスポイラー、リヤデフューザーなどで武装した、825馬力のサーキット専用車、「セナGTR」が、さらにそれをデチューンしたロードモデル、「セナLM」などはその代表的な例である。

独特の造形をもつアルティメットシリーズたち
P1、セナに続くアルティメットシリーズの第3弾は、2018年、3シーターのハイパーGTとして発表された「スピードテール」だ。
ドライバーを中心に置く3シーターといえば、マクラーレンにとってはアルティメットシリーズの源流にあるF1の存在がクローズアップされるところだが、このスピードテールは、そのあたかも空気の流れを可視化したかのような前後方向の流れに象徴される美しさを前面に押し出した、世界最高級のGT(グランツーリスモ)として企画、開発されているのが特徴。

もちろんマクラーレンの最先端技術は、このスピードテールにも数多く用いられている。パワーユニットは4リッターのV型8気筒DOHCツインターボにエレクトリックモーターを組み合わせたもので、モーターにはフォーミュラEの技術も惜しみなく導入されているという。
注目の最高出力はシステム全体で1070馬力。これにエアロダイナミクスに優れたボディと、わずかに1430kgという車重が貢献し、0-300km/h加速は13秒フラット。最高速は403km/hを記録することに成功している。

インテリアもじつにラグジュアリーな空間だ。

スピードテールの正式発表による興奮も冷めやらぬなか、マクラーレンは翌2018年にもアルティメットシリーズのニューモデルを発表している。それがマクラーレンの歴史を知る者には懐かしい、「エルバ」の名を冠したオープンスポーツだ。

マクラーレンの位置づけによれば、それはセナとスピードテールの中間に位置するパフォーマンスをカスタマーに体験させるモデルであるとのこと。もちろんモノコックやボディはすべてカーボン製で、ダイナミックな抑揚をもつボディは、いかにも現代のエアロダイナミクス技術によって生み出された造形といった印象を受ける。

注目されるのは、このエルバにはフロントウインドウスクリーンすら与えられていないことだが、その代わりにAAMS(アクティブ・エア・マネージメント・システム)が採用され、車速が40km/hを超えるとフロントフードの中央からディフレクターが露出し、キャビンをいわゆるエアのドームで包み込む。

ミッドの4リッターV型8気筒DOHCツインターボエンジンは、最高出力が815馬力と、これはセナよりも15馬力強力な値。最高速の327km/hまでの加速がいかに刺激的なものであるのかを想像するだけでも楽しくなる。
エルバの生産台数は249台と発表されたが、発表直後にそのオーダーリストは、すべてカスタマーの名前で埋まったことは確実なところ。マクラーレンのアルティメットシリーズにとって、それは不思議なことでも特別なことでもないのだ。

そしてまもなく、マクラーレンは完全新設計のパワーユニットにeモジュールを組み合わせた、最新のアルティメット・シリーズ、「W1」を発売する。

1275馬力の最高出力を誇り、最高速では350km/hを主張するW1。その詳細についてはまた別の機会に詳細をお届けしよう。