この記事をまとめると
■ダッジ・チャージャー・デイトナはNASCARでの勝利のための進化が生んだモデル■巨大なウイングとノーズコーンが特徴でのちにプリムス・ロードランナーに受け継がれる
■チャージャー・デイトナは高値で取引されておりHEMIエンジンのMTモデルはとくに希少
NASCARでの勝利を狙った大胆エアロ
アメリカのモータースポーツはルールがわかりやすいのが定説です。たとえクルマを運転したことがない人でも、レースを存分に楽しめる気配りというやつ。また、現在のNASCARがストックカーレースと呼ばれていたころは、ひと目でマシンの違いがわかるため「オレと同じクルマが走ってる!」などとエキサイトできたものです。
ストック、すなわちショールームに飾ってあるまま、ノーマル状態でのレースというのはクルマの売り上げに直結したわけで、そりゃあメーカーも肩入れすることしきり。1969年当時のクライスラーもヒートアップした挙句、ライバルメーカーはおろかディーラーのセールスマンまでも絶句させたのでした。
ストックカーで戦われたNASCARも1960年代も後半を迎えると、エンジンパワーの増大に伴って最高速は190mph(約305km/h)を越えることがしばしば。サイドバルブやOHVの古臭いエンジンながら、排気量が5~6リッターはあった時代です。

1968年になると、クライスラーは若者向けブランドのダッジから、チャージャー500を投入。それまで参戦していたコロネットというノッチバックモデルから、いくらか空力に優れるであろうハッチスタイルとしていたのがポイント。ですが、いくらボディ後部がスラントしたからといって、いきなりダウンフォースが倍増するわけでもなく、初年度の成績はまったく振るわなかった模様。

レースで成績が出なかったのは、最高速付近での挙動がシビアだったことが原因と判明し、ダッジ部門のエンジニアはチャージャー500に空力的付加物、つまりはウイングやスポイラーを追加したのでした。で、できあがったマシンはNASCARのサーキット、デイトナの名が付けられたのですが、これを見たセールスマンは開いた口がふさがらなかったそうです。

なにしろ、フロントに長さ18インチ(約460mm)のノーズコーン、テールには高さ23インチ(約580mm)のあたかも鳥居のようなウイングですから、「ちょっと待って」となったことご想像のとおり。空力といっても1960年代末の知見では現在と違って、わりと大雑把(笑)。ウイングの高さにしても「トランク開けるのにはこれくらいあれば十分でしょ」的な設定ですからね。

また、セールスマンが戸惑ったのは延長されたノーズも同様で、ただでさえ駐車が苦手なアメリカ人にとって、このボディは悪夢に等しいと(笑)。実際、ディーラーにまわされてきたデイトナをノーマルのノーズに戻して売られたクルマもあるとのことで、いまでは考えられない荒業といえるでしょう。

クライスラーといえば! のHEMIエンジン搭載仕様も
クライスラーといえばヘミ(ヘミスフェリカル=半球形燃焼室)エンジンが有名です。実際、レース用マシンは426ci(7リッター)V8ヘミで、425馬力、663Nmを発生したとされています。で、このエンジンが市販車に搭載されていたかというと、オプション設定で一般ユーザーも手に入ったとのこと。ですが、503台が生産されたダッジ・デイトナ・チャージャーのうち、ヘミユニット車はわずかに70台。高価だったとはいえ、ホモロゲモデルのわりには人気薄な気がします。

また、市販車は3速ATと4速MTが選べましたが、これまたほとんどのユーザーがATを選択しています。もっとも、トルクフライト727というアメ車でお馴染みのATユニットは4.10:1という加速重視なファイナルレシオだったので、十分にヘミの迫力を味わえたに違いありません。なお、426ヘミの4段MT仕様は0-100km/h加速5.7秒、最高速度250km/hがデフォルトで、レースチューンがなされると320km/hまで伸びたとのこと。

ちなみに、ヘミでないエンジンは440ciのマグナムエンジンと呼ばれ、7.2リッターから最高出力375馬力、最大トルク66.3kgf-mというスペックですから、一般的には十分以上だったはず。
大胆なカスタムや強力なエンジンのおかげで、ダッジ・デイトナ・チャージャーはレースでも好成績を残しました。
結局、鳥居のついたチャージャーは1年だけの販売となり、1970年からはクライスラーのプリマス部門からロードランナーがスーパーバードの名前でもって鳥居ウイング、巨大ノーズコーンを受け継ぐことに。

前年にダッジのセールスマンが苦労しているのを見て「ざまぁ」かなんか思っていたところ、とんだ災難が舞い込んだというわけ。ですが、スーパーバードはデイトナ・チャージャーの503台という売り上げに対し、1935台を売り切っており、セールスマンは胸をなでおろしたことでしょう。
それでも、希少価値というアドバンテージなのか、現在ではデイトナ・チャージャーのほうが高値で取引されている模様です。とくに、22台しか作られなかったヘミの4速MTはお宝扱いなんですが、映画「ワイルドスピード」ではずいぶんラフに乗られてましたね。CGやレプリカかとも思いましたが、排気音はリアルなものだったのでご興味のある方はご覧になってはいかがでしょう。