この記事をまとめると
■国土交通省は2024年11月から完全キャッシュレスバスの実証運行を始めている■完全キャッシュレスバスのデータを活用することで効率的な路線やダイヤを組める
■利便性を高めるためにも路線バスのキャッシュレス化を進めたほうがいい
路線バスのキャッシュレス化が運転士不足に効果的
みなさんは路線バスに乗るとき、運賃を何で支払うだろうか。昔はみんな現金だったが、最近は大都市では交通系ICカードを使う人が多くなっているはずだ。
そんななか、国土交通省では2024年11月から、それを一歩進めて、完全キャッシュレスバスの実証運行を始めている。
経営改善効果としては、運賃箱購入費、現金輸送手数料、現金を取り扱う社員の人件費などを挙げている。とくに最初の運賃箱は、新札が出たので切り替えなければならなくなっているから、すぐに解決しなければならない。
そしてもうひとつ、国土交通省では紹介していないが、データ活用というメリットもある。カードやアプリなどを使ってもらうと、どの路線のどこでいつ乗ったかがわかるし、距離別運賃の路線では降りたバス停もわかる。

このデータを活用して効率的な路線やダイヤを組めば、少ない運転士でも利用者を増やすことができるかもしれない。
もうひとつの負担軽減は、バスに乗ったことがある人ならわかるかもしれない。乗客の安全性や快適性の確保、定時運行の維持、路上駐車車両の回避、歩道にできるだけ寄せての停車など、とにかく業務が多いからだ。

海外では乗客の安全性確保は自己責任になっているようで、個人的には日本もそれでいいと思うが、両替を含めた運賃収受を外すだけでも、運転士の負担が減って、「それなら応募する」と考える人が出てくるかもしれない。
なかには現金が使えないと困るという人もいるだろう。ただし、今回の実証運行は、
1)空港や大学など利用者が限定的な路線
2)外国人や観光客の利用が多い観光路線
3)キャッシュレス決済比率が高い生活路線
4)自動運転などほかの社会実験を同時に行う路線
という基準で選ばれているので、大きな混乱はないはずだ。
地方でもキャッシュレス決済が普及するかに注目
たとえばもっとも多くの路線で実験する宇都宮市の関東自動車(トヨタ系の元メーカーとは別会社)では、LRTの導入に先駆けて、それまでのプリペイドカードを一斉に交通系ICカードの「トトラ」に切り替えたおかげで、バスの利用者の約8割がこれで運賃を支払っているという。

一方のLRTでは、現金ではいちばん前の扉から降りるのに対し、カードでは全扉で降りられる。当初は現金が多く、列車が遅れがちだったが、現在はカード利用率が9割を超え、遅れもほとんどなくなった。便利なのでカードをもつ人が増えたようだ。

さらにトトラでは、記名式カードのうち70歳以上の高齢者には年間1万円、精神障がい者保健福祉手帳をもつ人には最大で年間1.2万円分の「福祉ポイント」を用意している。こうした取り組みがキャッシュレス化につながっているのだろう。
逆に現金しか使えなくて不便なシーンは僕も経験がある。ある地方のバスの終点で降りようとしたら小銭がなく、紙幣は1万円札だけ。運転士に事情を話すと「近くのお店で小銭に替えてきてください」といわれたのでコンビニエンスストアに走り、買い物をしてバスに戻り支払った。

「そのぐらいマケてあげればいいのに」と思う人がいるかもしれないが、それは無賃乗車をさせてくれというのと同じ。常習して捕まった人もいるわけで、小銭の残高を気にせずに乗れるキャッシュレスのほうが便利だと、あらためて思ったものだ。
ただ交通系ICカードでも残高不足だと同じことになるので、最近は国内でも導入が進むクレジットカードやデビットカードでのタッチ決済のほうがいいかもしれない。