この記事をまとめると
■CVT車では「ラバーバンドフィール」という表現がたまに使われる■クルマ用のCVTは金属チェーンを使っているのでゴムのようなフィーリングはしない
■現在販売されているクルマで「ラバーバンドフィール」を感じるようなCVTは皆無だ
「ラバーバンドフィール」ってなんだ?
ベテランドライバーであれば、「CVTは『ラバーバンドフィール』が酷いから乗っていられないよ」といった批判を見聞きしたことがあるのではないだろうか。この言葉が使われるようになった初期において、ラバーバンドとは輪ゴムのことを意味していたと記憶している。
具体的には、輪ゴムでミニカーを引っ張ったシーンを想像してほしい。
実車であれば、アクセル操作と加速感にタイムラグがある場合や、エンジン回転と速度の上昇にリニアリティが欠けているような運転感覚について、「ラバーバンドフィール」という言葉を使って表現することが多かった。とくに発進時や再加速する際のタイムラグが、ラバーバンドフィールとして批判の対象となりがちだった。
そして、「ラバーバンド」という言葉がCVTのベルトを想起させるのか、いつの頃からかCVT由来のリニアリティに欠けた運転感覚を、ラバーバンドフィールと呼ぶようになっていった。もっとも、CVTでゴム製ベルトを使っているのはスクーターのような小型二輪車であって、四輪の場合は金属ベルトを使っているのだが……。
気を付けたいのは、ラバーバンドフィールという言葉は、あくまでも俗語であって自動車工学的に条件の定まった用語ではないということだ。そのため、個々に異なるラバーバンドフィールを想定して使っている部分もある。
たとえば、CVTのメリットである「エンジン効率に優れた回転数域に固定して、CVT側の変速比を変えることで理想的な加速性能を実現する」という制御自体はラバーバンドフィールとは別次元の話といえるのだが、マニュアルトランスミッション至上主義に立っていると、CVTの全開加速状態はエンジン回転と速度上昇がリンクしていないのでリニアリティがないと批判しがちだ。

そもそも、アクセル全開でエンジン回転数を一定としながら加速している状態において、CVTベルトは決して伸びてもいなければ滑ってもいない。前述したように、四輪用CVTのほとんどは金属ベルトか金属チェーンを使っているため、体感できるレベルで伸びたり縮んだりすることはないし、速度が伸びている限りにおいて、ベルトとプーリー間で目立ったスリップが発生しているとも考えづらい。
このように、正常なパフォーマンスが出ている状態までラバーバンドフィールに含めてしまうと、ラバーバンドフィールという評価自体を理解することが難しくなってしまうだろう。
いまでは「ラバーバンドフィール」を感じるようなCVTは皆無
あらためて、ラバーバンドフィールをシンプルに整理すると「アクセル操作に対して、エンジン回転が先に上昇して、速度はあとからついてくる」症状を示す言葉といえる。アクセル操作を、ドライバーが加速や速度に関する意思を機械に伝える入力装置だと捉えると、ラバーバンドフィールとは、パワートレインにおけるリニアリティのなさ、レスポンスの悪さなどネガティブな評価を示す言葉と理解すべきだろう。

そして、少なくとも2010年代以降のCVTにおいて、筆者は上記の意味でのラバーバンドフィールを感じたことはない。むしろ、CVTに関わるエンジニアがラバーバンドフィールと評価されることを避けるためにプーリーの挟む圧力を高めるなど、レスポンス重視の方向にCVTを進化させてきた印象さえある。
その最たるものがCVTにおけるマニュアルモードやステップ変速制御といえる。本来は、エンジン効率の優れた回転域をキープするように制御することがCVTを採用するメリットなので、あえて従来のステップATのような演出を入れているのはナンセンスに思える。しかし、そうした演出によってラバーバンドフィールという悪評が消えるのであればやむなしと考えたのであろう。

ステップ変速的な演出でラバーバンドフィールを感じなくなるということは、ユーザーのなかに「CVTにはラバーバンドフィールがある」という先入観があることの証左といえるかもしれない。
なお、前述した「エンジン回転が先に上昇して、速度はあとからついてくる」状態をラバーバンドフィールと呼ぶのであれば、そうした感触を得やすいのは、CVTを含めた多くのATに採用されている「トルクコンバーター」由来のことが多く、そこを指しているのではという印象もある。

現在のようにロックアップ機構をもたないことが多数派だった時代のATでは、トルクコンバーターのトルク増幅作用が働いてるとき、エンジン回転は高めになり、しかして速度は上がらない(加速は鋭くなる)状態になることが多かった。
とくに小排気量エンジンになるとトルク増幅作用を利用する領域が広くなるため、エンジン回転は上がっているのに、思ったほど速度が上がらないという現象が発生しやすいのだ。もちろん、こちらもトルクコンバーターを直結するロックアップ制御によって改善されている。

すなわち、かつてのような誰もが体感できるレベルの「ラバーバンドフィール」を感じる現行車はほとんどないといっていい。エコモードなどのアクセル操作に対して、あえてレスポンスをマイルドにするドライブモードで走っているともどかしさを感じることがあるかもしれないが、機械的に解決不能という意味のラバーバンドフィールは死語と呼んでいいだろう。